第12話恋のお医者さん
「ありがとう。実はちょっと寒かった」
「明日見さんって私より年上ですよね?」
「そうだな、俺は高二だし」
「えっ!?同い年じゃないですか!てっきり社会人かと」
「待てよ、だとしたら犯罪だろ」
「へぇー……おっきいですね」
そんな目を丸くして言わないでよ、目を丸くしたかったのは俺の方なのに。その今にでも落ちそうな大きなお目々で見つめられたら俺のお目々がしょぼく映っちゃうでしょうが。同い年とか聞いてないし、セーラー服を着ていたから高校生であることは分かっていたが、せめて高一であれよ。
社会人とか犯罪者とか皮肉を言われたから俺も敢えて皮肉っぽく言ってやった。
「へぇー……ちっちゃいですね」
謎の沈黙が続いたあと、なごみが徐に話し始める。俺の渾身の皮肉は届きませんでしたか。残念。
「先輩にとって恋ってどう写りますか」
「恋か。こう、キラキラーってしてるぞ?ふわふわするというか……。って先輩?」
んー、まあ、恋したことないけどね。で先輩ってなに。
「じゃあ先輩は付き合ったことあるんですね……」
「つ、付き合う!?ま、まあ、生きてりゃ一度くらいはあるだろ……」
あるわけないだろぉー!やめてよぉー。自分の傷を自分で掘るのやめなよぉー。あー痛い。ちょー痛い。てか痛い。マジ痛い……。
「でも、それは勘違いって知ってました?恋っていうのは思ってるより輝いてないんです!少なくとも私の中じゃ輝いていません。輝いてなんてくれません。」
さっきと似たオーラをなごみから感じた。恋に対してやけに悲観的なイメージを持っている。輝いていない。輝いてくれない。であれば、なごみにはどのように見えているのだろうか。
「でも、実際輝くというなら私も輝かせてみたいなーって思うですよね。つまり、恋がしたいんです」
そう言いながら希望に満ちた顔で空を仰いでいる。
「聞きたいんだけど、なごみに恋はどう映っているの?」
「……分かりません。でも、私にはムリなようで」
「なんだよそれ」
なごみの長けた冗談に、半笑いしながら適当に返事を返す。
「だってお医者さんが言ったんですよ?そんなの受け止めるしかなくないですか?」
思っていた以上に深刻な答えが返ってきた。そう言われた相手が家族や友達であれば否定してあげられるが、医者となると専門的な知識や根拠まで考慮されているだろうから、下手に弁明することもできなかった。でも……
「恋の医者って、そもそも何科なんだ?精神科か?」
まだ信じてきれていない俺は、再び半笑いで問いかける。
「多分そうですね。恋がしてみたいってちゃんと相談したら、諦めてくださいって、特効薬が作られない限りその病を治すことは難しいと思います。って」
「ヤマイ……」
「一応そうみたいですね」
これまでなごみは一度も表情を変えなかった。常に平常運転の顔つきである。しかし、オーラだけは徐々に元気を無くしていっているように感じた。その姿を見ていたら、その医者と名乗る人物に対してふつふつと苛立ちがこみ上げてきた。いとも容易く一言で諦めろだなんてあんまりじゃないのか。かと言って俺がなごみをどうしてあげることもできない。それが、また腹立たしく思える。
この前出会ったばかりの思い入れも何も無い子にこれだけ腹を立てている理由も分からない。
「だ、大丈夫だ!恋なんてしなくてもほら、何とかなるし……!」
あー、ダメだ。間違えた。あれだけ悩みには個人差があるとか言っておきながら、これじゃあただの偽善者だ。そんなこと言って貰いたかった訳じゃないだろうし、俺もそんなことが言いたかった訳じゃないのに。
「そうなんですよねー。でも先輩!お年頃の女の子にとっての恋は結構大事だったりするんですよ?学校の女の子にそんなこと言ったら嫌われちゃいますからね」
これだけ言われても苦しい顔を一切見せなかった。とはいえ、俺の言ったことに納得はいっていだろうが、決して俺の事を責めようとはしなかった。納得がいかなくて当然だ。どうせなら責めて欲しかった。上手い作り笑顔をする前に「そんなこと言われたくない!」と、本気で怒って欲しかった。
「気を使わせて本当にごめん!俺が無神経なばっかりに」
「気を使う?使ってなんかいませんよ。私は私の思ったことをそのまま言っただけですから」
「なごみは本当に優しい子なんだな。俺にもできることがあればいいんだけど……」
出会ってまだ半月も経っていないのに、ずっと一緒に過ごしてきたかのようなこの安心感と包容感は何だろうか。どの女の子にも感じたことのないこの得体の知れないオーラは何だろうか。俺の意思までも洗脳されてしまいそうな域だった。今まで誰かに何かしてあげたい、助けてあげたいなんて感じたこともなかったのに、力になってあげたい、そう思っている俺がいた。
「じゃあ、もしよければ私とお試しデートなんかどうですか?してみたくないですか?」
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