第10話 痛い……?
「わたまって可愛くないじゃないですか」
「え、なに、そういう問題なの?」
「女の子に可愛いは命なんです!」
「それは分かるけど、既に可愛いからいいじゃないか。わたま、変か?」
「うーーん……」
「ほら、名前って最初で最後のプレゼントって言うくらいだから計り知れない愛情が入っているとは思うけど、きっと柔らかい真珠のような優しく綺麗な子に育って欲しかったんじゃないか?」
「じゃあ何で『なごみ』にしなかったの!って思いますけどね。だって私の字って『わたま』とも『なごみ』とも読めるんですよ?」
「うーん、タシカニ……」
「いえ、こちらこそこんな関係のない話聞いてもらっちゃってすみません。でも、私の事は『なごみ』と呼んで頂けると嬉しいです」
彼女自信が自分の名前をコンプレックスだと感じているなら隠したくもなるのも仕方のない事だ。俺から言わせれば名前に関する悩みなどそう大した悩みでは無いと思えてしまう。しかし、悩みなんてものは人によって大きさも違えば、感じ方も観点も違う。だから、決して「なごみよりわたまの方が好きだ」とか「親の付けた名前なんだから大切にするべきだ!」だとか、そんなことを言うつもりは無いし、その権限は家族や友人でもない彼女自身が持っていなければおかしいと思うのだ。少なくとも俺は彼女の事を「なごみ」と呼び続けるつもりだ。
しかし、普通に読めば「和珠」をわたまと読む方が稀ではないだろうか。両親の願いの内にはわたまでなければいけない理由、もしくはなごみであってはならない理由があるのかもしれない。
「俺は好きだよ、なごみって名前。中々センスのいい名前じゃんか」
「ですよねっ!」
彼女は嬉しそうな顔で見つめたあと、フェイドアウトしていくかのように話の話題を逸らす。もちろんなごみのお目当ては五平餅だろう。
「えーと明日見さん?……約束の品ください!」
「ふふーん、じゃーん!特性ロリコン手作りごへ……。だぁーー!!」
俺はぐちゃぐちゃになった五平餅を見て涙を浮かべる。せっかく上手く作れてたのに……。
なごみはそのぐちゃぐちゃになった五平餅を俺の手のひらから取り上げ、得意気に言う。
「これは明日見さんのじゃないです!私の五平餅です!」
そう言いながら袋から五平餅を取り出すと、口に運ぶやいなや次らから次へと食べ進めるなごみ。諸説あるみたいだが、俺が参考にしたサイトの写真には餅米をひらぺったく楕円状にし、いい感じに焦げ目をつけ、串に刺したもの。それが完成形の五平餅のはずだった。しかし、彼女の口元に運ばれていくのは一度地面に落とした焼きおにぎりを二三度踏みつけたかのような形をしていた。
「んん、とてもおいひぃでふよ!形はあれでもあいづけとかもうかんぺきです!」
「あはは、そりゃキッドで作ったからな。俺がやったのは餅米をこねて形づくっただけだ」
なごみは食べ進める口を止めて、真顔で俺の方をちらりと見ると、苦し紛れの笑顔を見せる。
「やめろ、やめろ。それ以上俺の傷口に塩を塗ってくれるな」
は?そんなん買わねぇーと五平餅もろくに作れねぇーのかよ。みたいな顔をしやがって。いたたまれない俺に気を使ったんじゃないのかよ。てっきり、俺の地雷を踏み抜いたのを気にしてるのかと思ったが、なごみの顔つきを見ればそんなこと一言も発してない、ただただ小馬鹿にした顔つきだと分かる。
「馬鹿にするなら最後まで貫き通せよ。大して味付けも美味しくないんだろ?」
「いや、味付けは本当に美味しいです。お母さんにはかないませんけど」
キョトンとした顔でサラッと言う。最後の一言がなければ素直に喜べてたのになぁー、なんだかちょーっと馬鹿にしてませんか?そんなことないですか?
「痛いですか……?」
「え、なんか言ったか?」
「痛いですか?って言いました」
聞き間違いではなかったらしい。
「え!なに、もしかしてドSなの!?別に痛くないし!何に痛むんだよ!」
「じゃあ、いいです」
なごみの表情は至って真剣だった。これもちょっとした冗談で言っているのだと思っていたが、そうでもないらしい。
「私、生まれつき痛みが分からないんですよね」
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