第8話 恋のETC
来る、なごみ(仮)タックルが!
なごみ(仮)は何かにつまづいたかのように体勢を崩すと、体を前のめりに倒す。恋のETCだかなんだか知らないが、取り敢えず一歩前進できる!あ、パンツは青のシマシマで。
あっという間にことは済んだ。しかし、俺はまだ目を瞑っている。場は至って静かだ。ここで俺が目を開ければ目の前には青のシマシマが、俺のシマシマが!いやいや強欲は痛い目見がちだからな。純情な俺ともなるとパンツの柄など気にしたりしない。謙虚に謙虚に、謙虚は地球を救うのだ。
ラッキースケベを望んでいる時点で謙虚の「け」の字も無いということにいい加減気付いて欲しいものである。
俺はゆっくりと目を開ける。
あれ?
目を開けるが目の前には何も映っていなかった。しいといえば先の見えない廊下が映っていた。ふと下に目をやると、どういうことなのかなごみ(仮)を抱き抱えていた。なごみ(仮)の顔を見るとどことなく頬を赤くして照れているように見えなくもなかった。
しかし俺は警備員に両腕をがっしりと抑え込まれていたはず。不思議がりながらも周りを見渡すとそこには警備員が二人地面に倒れ込んでいた。二人の警備員は目を丸くしながらこちらを見ている。その顔を見て俺も目を丸くする。
「あ、ありがとうございます。ロリコンさん……」
「え、あ、うん。でも俺もどうして君を抱えているのか、あとロリコンはやめとこうか」
えへへ。と照れ隠しをするかのように不器用な笑みを浮かべる。その笑みを見て俺も少し目を細める。そして、その俺らを見て受付のお姉さんもニタニタと口元を緩めている。何でだよ!
その悪意が詰まった笑顔に俺らは距離を取る。
「なぁーに?ずっとくっついていればいいのに。目の保養にもなるし」
さっきまで普通に受付をやっていたはずなのに、まるで同一人物とは思えないほどのキャラの変わりようだ。これほどまで警戒心を抱いたのは初めてだ。
「や、やめてくださいよ。別に俺達付き合ってるわけでもないですし」
「あはは、付き合う……ねー」
どことなく「付き合う」という四文字に拒否反応を見せるなごみ(仮)。そんな彼女を俺は横目で見ていた。
すると、受付のお姉さんが「私の元まで来ないと埋めちゃうぞっ(ハート)」と言わんばかりに手招きをするので、仕方なく招かれてあげると俺の耳元で囁く。
「君分かってるの?こういうことのエスコートは男がするって相場が決まってるの。君はわたまちゃんの事どうも思ってないみたいだけど、わたまちゃんは君に脈ありげみたいだから、しっかりね!受け入れるだけが全てじゃないから、もしその気が無いなら無いなりにしっかり応えてあげなきゃ。なんかそうゆうの疎そうな顔してるから」
「あはは、見る目ありますねー。でも、彼女に限ってそんなことはないと思いますよ。ほら、付き合うってことに少し抵抗ありそうでしたし」
「はぁー、だから疎いって言うのよ。それは、君が『付き合うなんてさらさら有り得ないっすよぉー』みたいな態度をとったから落ち込んでるんでしょ!?」
「俺そんな白状なしに映ってました?そんな悪意モリモリに盛って言った覚えはないんですけど」
「確かに女心を掴むのは難しいっ!だけど、君ならイける!」
「もういっそどこかにイッちゃいたいです」
全く余計なお世話だ。そんな根拠の無い期待をされても実際できることなんて何一つ無い。しかし、もしなごみ(仮)が俺に好意を抱いているのだとしたなら、俺はどう受け答えをするのだろうか。特に受け入れるつもりは無いし…。いや、自意識過剰か。そうだ!あの無駄に乳のでかいだけのお姉さんの手のひらでコロコロと転がされていただけだ。
お姉さんはああ言っていたが、確かになごみ(仮)は付き合うという言葉に対してどこか悲哀に満ちたオーラを放っていた。きっと何か痛ましい過去でも抱えているのではないかと思う。俺がその気になって下手になごみ(仮)を傷つけてはならない。その為にも、聞かなかったことにするのが一番だろう。
「そういえば、俺は何でなごみを抱えてたんですか?」
一部始終を見ていたであろう受付のお姉さんに尋ねてみる。
「かっこよかったわよ!好きになりそうだった。ううん、なった」
「そんな一瞬で、女として軽すぎませんか?大丈夫ですか?」
お姉さんは静かに首を横に降る。
「それぐらいかっこよかったってことよ……」
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