第4話 病み上がりはお粥で決まり!
「取り敢えず今はこれでも巻いて止血して!」
「止血?」
「あのさ、そんなに誤魔化したがる理由はなんだ!?君が何をしたいのかは知らないがそんなくだらないプライドで命を落とすつもりか!」
「別にプライドとかそういうことではなくて」
すると彼女の頭から顎へかけて伝った血液がアスファルトに滴れ落ちる。彼女はその赤黒い血液を見て意味ありげに深くため息をつく。
「なるほど。それで……」
顔が血液で覆われていてよく表情が読み取れないが、まるで生きるのを諦めたかのような顔をしているように見えた。
「そうですよね。こんな大量の血を見れば誰でも心配しますよね。でも、救急車を呼ぼうとしているなら呼ばなくて大丈夫ですからね!ほんとに!」
まるで血を流す事が日常茶飯事であるかのようなそんな言い回しである。ますますこの彼女には不思議が募る。
「まだそんなふざけたこと言ってんのかよ!いい加減にしろ!」
「大丈夫なん……です……よ」
「君?君!?しっかり!」
何がどこをどう見たら大丈夫なんだよ!
彼女は多量の出血で意識を失った。これだけ出血すればその分酸素は行き渡りにくくなり、貧血状態を起こすのも時間の問題であると分かっていたことである。
彼女は割座の姿勢から体を支えていた両腕が限界を迎え途端に前に体を倒す。その倒れた体を俺が颯爽と支えたは良いものの、この時間帯は人気が少なく周りに助けを求めることは出来なかった。彼女には救急車を呼ばないよう強く指示されたが、命に関わることならば仕方がない。俺は再び一一九番に電話をかける。
俺が彼女の病院へ通院するようになって一週間。この短期間で寒さも本格的になり始め、立冬を迎えていた。そんな最中、彼女は病院の白いベットで眠り続けている。本来であれば俺が彼女の見舞いに来る必要は無い。確かに彼女の事を一ミリも心配していなかったのかと聞かれれば嘘になるし、止められたとはいえ救急車を呼ぶのに一瞬躊躇ってしまった事にも責任を感じていた。
しかし、俺が通院し続けるのにはもう一つの理由があった。
彼女のお見舞いに来ていたのは俺だけだったのだ。
普通であれば両親がいち早く駆けつけて娘の容態を確認しに来るものであるとばかり思っていた。その場で俺が両親に責め立てられるシチュエーションまで想定していたというのに、明くる日も明くる日も一向に顔を出すことはなかった。しかし、家庭の事情ということもあるだろう。多少引っかかる点はあるが特に突っかかるようなことはしないでおこうと決めた。でも……。
「目を開けたら俺って……。それってどうなんだ?複雑な気持ちにならないか?泣かれとかしたらすっごい気まずいじゃん……」
「五平餅!」
これは驚いた。とても驚いた。情報もかけらもない静かな一室から情報の塊みたいなやつの一言により部屋の空気が一変した。七日間一度も目を覚まさなかった彼女が急に体を起こして初めに発した言葉がゴヘイモチ!んで、それ……なに?
首から上だけをくるりとこちらに向けてうるうると涙袋の上に涙をためるやいなやヨダレをたらしながら言う。
「食べたい」
えぇー!ゴヘイモチって食べ物だったのか!?いや、そこじゃないよ多分。何にしろ食欲があるというのはいいことなのであろう。生命力が溢れかえっているという証拠だ。
「元気になったみたいで何よりだけど」
「そんな急に動いて大丈夫なのか?」と言葉を続けようとしたが、そんな言葉が無用な程に彼女の目の奥はキラキラと光り輝いていた。
「病み上がりなんだから消化にいいものを食べなさい!」なんてよくお母さんに言われたが、こうゆう時はやはりお粥が最適か?
「ゴヘイモチとかいうものよりもお粥の方がいいんじゃないか?」
すると彼女は呆気に取られたような顔をしながら謎の間を置いた後お腹を抱えて笑い出す。そんな彼女に対して俺は不思議がりながらもエッヘンと言わんばかりにありったけの自信で答えてやった。
「何で笑うんだよ!しかも笑いすぎだろ。分かってないなー病み上がりの人にはお粥が最適なんだぞ!」
「あーおかしい。病人は病人でもそれは、いや、もうお粥でいいですよ」
「いや、まぁ、作れんけど……」
彼女は驚いた顔をした後、再びお腹を抱えて笑い出す。もう少し遠慮してくれてもいいじゃんか!とばかりに膨れる俺の顔を見てさらに笑い出す。俺は諦めて彼女を喜ばせることにした。
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