第2話 てめぇ、この野郎!
しかも、この作者。疑問点だけは立派に並べるくせに、結論を一つも提示しようとしない。事の結末は必ず「何なのだろうか」で完結する。
こういった作者は僕ら読者にどう読んで、解釈をして欲しく書いているのだろうかと常々考えさせられる。最後に結論をバシッと書き留められていれば言いたい事は全体の半ば理解できるのだが、半ばだけど。こういった読者に疑問を投げかける文章にはどんな意図があるのかがとことん分からない。
と姉に話したところ「あんた、本読むの向いてないわ」とあっけらかんとした表情で言われた。姉曰く、「自分の意見を見出して欲しいだとか、正解は一つじゃないだとか、それなりの理由があるんじゃないの?まあ知らんけど」とのことらしい。
俺の場合はどうしても第三者の意見を求めたくなってしまうだけで、書き方は様々あっていいと思う。自分の意見を好きに表現することのできるツールでありながら、唯一本性を浸隠さずさらけ出すことのできる場所である。それが紛れもない「本」というツールであると考えているのには間違いない。
何が言いたいかって?俺は本が好きだ。
初っ端から本に対して「結論付けろ」などと、てめぇこの野郎!一発殴ってやらねぇと気が済まねぇ!んんっ…。失礼。
気を取り直して、偉そうに大きなお口を叩かれていらした彼、
結局彼は秀才を演じたかっただけなのである。多少の見栄は目を瞑っていただきたい。
さて、彼こそがこの物語を良くも悪くも彩ってくれるであろう主人公である。
彼のスペックを簡単に説明するならばとんでもなく本好きであるという事に尽きる。
それだけでは流石に可哀想なので、容姿に関して言えば特にこれといった問題も無い立派な顔立ちである。高身長でありながら温厚で清潔感のある好青年であり、特別キザであったりだとか、謙虚さに欠けているなどといったことも無く、クラスの女子に「彼女いるの?」と聞かれる程度には容姿全般的に申し分なしである。
問題は学力にある。現代文学や古典文学など、文字という文字をこよなく愛する彼にとって、国語のテストで高成績を維持するのは容易いことであるらしいが、他の教科に関してはお世辞にも良いとは言えない。つまり、救いようのないバカである。因みに、スポーツに関しては並大抵であり、特別飛び抜けた才能がある訳でもなし、言えばちょっとモテるどこにでもいる高校生といったかんじだ。
本が大好きな俺は何処に行くにも大体本を持参している。どれほど愛しているかと言うと、三大欲求の内の一つに入るほどだ。気付けば体が勝手にページをペラペラと捲り始める。我に返った頃には一冊読み終わっていたということがざらにあるくらいだ。
ただ、一つだけ本を読むことができない場所、条件がある。それは、本に何らかの傷害が及ぼされる可能性がある状況では決して本を開かないということ。三大欲求の性欲でいうところの、ここで致せば大衆の目に晒され、恥ずかしめを受けてしまう。それと同じである。違うか。
そして今まさにその状況にある。
時刻は午後四時頃、どうやら他校の帰宅ラッシュと上手く被るようで、満員電車の中では本への傷害の可能性が十分にある。俺は読みたい欲をぐっと堪え、つり革を握る。
一駅二駅と電車を乗り継ぎ、ようやく最寄り駅へとたどり着く。俺は車内一体に広がる人混みを掻き分けながら過酷な車内を抜ける。
「す、すみません!おりまーす」
正直言うと、本を読むことができなかったこの時間は俺にとってとても不愉快な時間だった。その為、電車を降りて地へ足をつけるやいなや思い出したかのように本を開く。
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