第13話 仲良し会 その1

 学校から出てゆったりとした緩く長めの坂を下っていくと、駅がある。

 人が多いが、平日なので若者ばかりだ。

 きらなたちと同じように制服を着ている人もちらほらと見える。


 もしかしたら行き先が同じなのでは? と思うが、目的地は大体いつも混んでいる。

 普段と変わらない、と言えばそうなのだ。


「民美ちゃん、どこへ行く気なの?」

「んー、ファミレスでも、と思ったけど……、どこがいいかな」


 候補はいくつかある。価格帯を考えれば候補はさらに増えるが、やはり学生なのでここは安価なお店が良い……、民美も分かっているらしく、目についた有名なファミレスに決めたようだ。

 駅前のショッピングモール。その地下に、慣れ親しんだファミレスがある。

 いや、きらなは母親としか行ったことがないけど……。

 友達となんて、初めてだった。


 スキップするように先行する民美も追いかけ、きらな【たち】もショッピングモールの中へ。

 きらなの手を、なぜかずっと握り続けている少女と、スマホを片手でいじりながら歩く三つ編みの少女(歩きスマホ!!)と一緒に。


「あの、煙子けむりこちゃん? 

 どうして学校を出る時から今まで、ずっとずぅっと、わたしの手を握っているのかな?」


「……はぐれると、危ないから」


 煙子――、静崎しずさき煙子けむりこがそう言った。


 彼女が言ったことは本心であり、嘘ではないだろう。

 他に意図があって手を握っているわけではない――それは握られているきらなが一番良く分かっている。きらなを愛でるために、という感じはしないのだ。彼女ははぐれると危ないから、と言ったが、だからと言って【きらなが】とは言っていない。


 彼女、煙子は、きらなよりも当然、身長が高い。もっと言えばクラスの誰よりも身長が高かった。もしかしたら、日本中を探しても同じくらいの子はいないかもしれない。発育の仕方が海外っぽいのだった。男性にも劣らない高さでありながらも、線は細い。

 そこはやはり、女性なのだ。(女の子って感じではない。抱く印象は女性である)


 ただ、彼女は身長が高いのとは逆に、腰は低かった。声は小さく、自分に自信がなくて、すぐ傍に誰かいなければなにもできないような、おどおどしている性格だった。だからきらなの手を握っている。はぐれると、【煙子】が危ないから、という理由で。

 まあ、きらながはぐれないように、という理由もゼロではないだろうが。


「……そうだよ。きらなは、すぐに迷子になっちゃうから」


「失礼な! 迷子にはなるけど! なるけどね、それでもきちんと戻ってくることはできるもん! 家にだって帰れるし、迷子の放送だって、全然まったく、必要なんてないんだからっ!」


「二言目で既におかしい言葉が出てるわよ、きらな」


 すると横から声が聞こえた。

 スマホ片手に、きちんと状況は把握しているらしい(それでも歩きスマホはダメ!)。

 三つ編みの少女・袴内はかまうち弧緑こみどりである。


「もしかして、まさかだけど、この歳で迷子になるなんてことはさすがにないわよね?」

「もちろん! さすがに高校生にもなって迷子になるわけないよ」


「ふぅん、じゃあさ、中学生の時はあったってことでいいの?」

「ないとは言えないね! あるとは言いたくないね!」


「もういいよ。もう分かったよ。

 きらなの言いたいこと、言いたくないことはぜんぶ理解できたよ」


 弧緑は呆れたようだ。だけど馬鹿にした雰囲気はない。

 微笑ましいものを見るように、自然と口元が緩んでいた。


「って言うか、きらな。前を見てね。そこ、自動ドアだから」

「へ?」


 ごんっ、と痛そうな音が響く。

 ガラスの扉に傷はないようだ……だけどきらなの方は、思い切りおでこから突撃していた。

 さっきの今だ、おでこばかりどうしてこうも怪我をする?

 石頭なのが幸いだったが……頑固だからか?


 笑うこともできない沈黙の後、静かに自動ドアの内側へ。

 後ろで、ゆっくりと閉まるドアの駆動音だけが聞こえてくる。

 店内BGMもまだ聞こえない空間だった……気まずい。

 そんな静寂を破ったのは、


「……痛くない、痛くない」


「うん、痛くない、痛くない――って、ちょっと煙子ちゃん!? 

 なにその小さい子供を慰めるようなやり方っ!」


「……そっか、きらなだったんだよね」

「忘れていた!? 今、わたしの存在を勝手にいないと、そう解釈していたのっ!?」


 すれ違う通行人がびっくりしたようにきらなたちを二度見する。

 大声だから、ではないだろう。その身長差だと思う。五十センチ以上も開きがあるその身長差はまるで母娘おやこだが、同じ制服を着ている……そりゃびっくりもするだろう。


 はいはい、と立ち止まりそうになる二人の背中を押しながら、弧緑が誘導する。

 すると、先行していた民美が、見つけたファミレスの前で手を振っていた。

 はやくはやくー、と楽しそうだ。


「こっちこっち――!」

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