h22.06.26. 歌った


 歌った。名前も知らず口遊くちずさんだ あのメロディのように


 歌った。あの階段に隣り合って座ったあの時のように


 歌った。星の径をたどる指先のように覚束なくても

 花の名をあてるように探した心のままの不確かさで

 歌った。


 息と涙に震える声が途切れても 何一つ掴めずに夕陽を見送った後も

 歌った。


 何度指差され誰と嗤い合われても

 何度自分の為に泣いて同じ想い出に繰り返し温められても

 歌った。


 いつか笑いたくて、いちど許されたくて、惨めさに塞いで、

 遮られて、数えられて、決められて、

 歌った。


 誰も悪くないのに生きづらいことが苦しくて、

 文字が失くした声と言葉が失くした心で、

 歌った。


 たった一つの「さよなら」に籠めて、今日は 今日を

 歌った。

 歌っていたんだ。

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