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 その少年は微かに顔を歪め、前方への警戒を怠らないまま背後を振り返った。

 全てが凄絶さを物語る光景であった。そこには、時に牙で敵を撃ち、時に四肢で敵を翻弄し、時に翼で敵を攪乱してきた仲間たちが、力尽きながらも敵ともつれ合ったまま、骸と化していた。

 少年は再び前へ向き直る。全身に力がみなぎっていた。

「さぞ憎かろうな、小僧。しかし同胞を殺された恨みはこちらとて同じだ。容赦はせぬぞ。」

「貴様の情けなど、望むものか。」

 投げかけられた言葉に冷然と応え、少年は腰にいていた刀剣を抜く。磨かれた白刃が、その場の陰惨さを断つようにきらめいた。

「勇ましいな。」少年と対峙している相手が、特に嘲る様子もなく言う。

 その相手は人間に近い姿形をしているものの、その巨躯の強靭さ、虎を思わせる爪牙、猛牛のように荒々しくそびえる角、そして臙脂えんじ色の肌などは、およそ人間とはかけ離れていた。少年を見据えるその形相も、獲物を前にする獣のそれである。

 そんな異形の化け物と相対しながらも臆する事なく、少年は抜き身を構えた。先ほどから高まりつつある空気の熱が、いよいよ膨れ上がる。

「貴様を倒すことが、この旅の目的だった。ここまで支えてくれた者達の為にも、」

 その熱気を肌で感じながらも淡々と告げる少年の表情が、さらに強張る。

「私は負けられぬ。」

「威勢のいい事だ。そのまま仲間の後を追うがいい。……先に待っているお前の両親も、さぞ喜ぶ事だろう。」

「何だと? それはどういう……貴様、まさか……!」

 ニタリと浮かぶ歪んだ笑みに、少年は激昂する。張り詰めていた緊張が、遂に弾けた。

「おのれェエッ!」

 少年は怒りに任せ咆哮し、刀剣を握り締めて駆け出した。

 雄叫びと共に己へと斬りかかってくる少年に、その相手もまた怒号で応える。

「来い、桃太郎! お前をここまで生き永らえさせた吉備団子きびだんごの礼を、あの世で言うがいいわッッッ!!!」



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