徒然集

蒔村 令佑

h20.05.18. asgpn




 ある日、太陽が突然とてつもなく巨大なバターの塊に変わってしまった。

 皆がそれに気づき、そして驚き、やがて戸惑った。

 私もやはり慌てたが、ふと太陽がバターになったところで何をそう困る事があるのだろうと考えた。そこで、とある大学者を訪ねてみた。

 なんと愚かな、とその大学者は言った。

「想像してみるといい。もしも明日にでも西の海が、とてつもなく巨大なフライパンにでも変わってしまったら、君はどうするのだ」

 それは確かに困る。

 日が暮れて、太陽バターが西のフライパンに落ちて溶け出した時、私たちは一体何をソテーにすればいいのだろう。

 悶々と考え、私は各界の名高い研究者たちの意見を求める事にした。


 一人目の研究者が言った。

「そもそも大陸とは、薄切りのジャガイモに過ぎないのだ。我々は、その切れ端の上で煮えを待つだけの存在だったのだ」

 二人目の研究者が言った。

「太陽がバターであるならば、月がチーズである事は疑いようがない。残るヨーグルトを探す算段をすべきだ」

 三人目の研究者が言った。

「先にオリーブオイルをひけばよいではないか」


 彼らの意見はそれぞれもっともだったが、「いずれにせよ急いで調理の支度をするべきだ」という方針は一致していた。


 西の海がフライパンへと変わってしまう日に向けて、人々は準備を始めた。

 新たなジャガイモを育てようと、慌てて畑を耕す者。

 血眼ちまなこでヤギの足元へ潜り込み、必死に目を凝らす者。

 ありったけのオリーブオイル瓶を、港へと運び込む者。


 そんな中、私はひとり東へ向かった。バターナイフとオーブンを抱えて。

 西の海がフライパンに変わる前に、東の雲がパンに変わりはしないかと考えたのだ。

 そうしたら千切ちぎってトーストにしたい。



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