第116話、徒然に、歌詞にして想ふ事ありき。

 『 歌 』と言えば、歌詞だが、最近はリズム( 曲 )が優先される傾向にあるようだ。

 アップテンポな曲が流行りの昨今、私も最近の楽曲に見られるビート感は、嫌いではない。 むしろ、好きな方だ。 ただ、打ち込み( 電子機器によるプログラム再生 )は完全的に否定する。 ヒトが聴く『 音 』は、ヒトが奏でられる範囲で創造されなければ、聴く意味が無い。


 では、『 詩 』の方はどうだろう。

 最近ではなく、私が小学生だった頃の音楽の授業を思い出してみるに、当然、童謡や唱歌と言った音楽が主流だった。 中学生になった際、音楽の教科書に『 レット・イット・ビー 』が掲載されていた事には、当時ながら驚いたが……(笑)


 『 赤とんぼ 』、『 ふるさと 』などは、今でも小学校の音楽教科書に掲載されているようだが、昔ながらの唱歌は、随分とその姿を消し、歌われなくなっている。

 私は、趣味で吹奏楽をやっているので、童謡や唱歌のメドレーなどを演奏する機会は多い。 しかし、曲のフレーズは覚えているが、歌詞となると……

 ハッキリ言って、有名な曲以外は、歌えないと答えた方が正解だろう。

 合奏練習中、 隣で演奏している高校生団員に聞いてみたのだが、吹奏している唱歌の半分以上は知らないと答えた。 一緒に楽団で活動している私の娘は、現在、中学一年だが、やはり演奏で奏でた事がある為、知っているだけで、学校ではほとんど習わなかったそうである。

 歌詞に至っては…… おそらく、読んでも理解不能なのではないだろうか。

 流行りだから関係ないとは言え、少々、危惧するところが、この『 歌詞 』なのである。


 例えば、代表的な唱歌『 おぼろ月夜 』を、例に挙げて見てみよう。


『 菜の花畠に 入日薄れ

 見わたす山の端 霞ふかし

 春風そよふく 空を見れば

 夕月かかりて におい淡し 』


 実に、抒情的な『 詩 』ではないか……!

 改めて文字に変換してみたが、芸術的とも言える歌詞である。


 この曲に関しては、何となく記憶を繋ぎ合わせて歌う事が出来る私だが、語句を『 覚えている 』だけで、文字( 漢字 )に変換する事は完全には出来なかった。 此度、Webより検索して列挙してみたのだが、実際、かなりの記憶違いがあった。 『 花畑 』→『 花畠 』だったし、『 葉 』→『 端 』だった。

 う~む…… 趣味とは言え、文字を使って創作をしている者として、非常に恥じ入る結果だ……

 ただ、小学校当時、音楽の教諭から教わった事だけは、今でも覚えている。

 『 にほひ 』は古典の言葉で『 目立つ色合い 』を意味する。 つまり、『 にほひ淡し 』とは、色合いが淡くなっている状態で、月の色合いが、霞によって淡くなっている様子を表していることになるのだ。 詩中にある、菜の花の香りの事ではない。


 さて、第2番を見て見よう。

 この2番は、全く記憶にない方も多いのではないだろうか。 私も、半分以上を忘れていた……


『 里わの火影も 森の色も

 田中の小路を たどる人も

 蛙のなくねも かねの音も

 さながら霞める 朧月夜 』



 『 里わ 』とは、人里のある辺りを指す。 つまり『 里わの火影 』とは、民家からもれて見える灯の光を意味している。

 『 田中の小路 』とは、水田の中にある細い道の事。 あぜ道では無いらしい。 その道を通って帰路に就く人の姿が、歌詞からは見える。

 豊かな自然の中、聞こえて来るのはカエルの声や、遠くで響く鐘の音……

 『 さながら 』とは、古典における『 すべて 』という意味だ。 『 同じような 』と言う解釈の『 宛ら 』ではなく、『 然ながら 』と書く。 つまり、最後のフレーズは、『 全てが、ぼんやりと霞がかっていく 』様子を表している。


 2番の歌詞で、1番の歌詞と決定的に異なるのは、景色の中に『 生の気配 』が感じられる点だ。 歌詞の中に、人の動きや音の情報を入れる事で、そこに住む人の生活や環境を鮮明に想像することが出来るようになっている。

 この歌詞だけで、充分に芸術的である……!


 では、最近の『 流行り 』の歌詞は、どうだろう。

 著作権の関係上、ここに列挙するのは問題がありそうなので、今回は割愛させて頂くが、『 文学 』とは程遠いモノを感じる。

 別に、現代楽曲の歌詞が酷いとは思わない。 それこそ、時代の流れに沿うた結果だからだ。


 憂えるべきは、歌詞も芸術だと思う方向性の欠如である。


 早口で、マシンガンのようにまくし立てて歌っても、訴えるべき『 テーマ 』は、相手には伝わらない。 曲の『 フレーズ 』として流れて行くだけの歌詞には、何の説得性も無いのだ。 文章としての意味合いは理解出来たとしても、描写の奥にある『 真意 』に触れる所までは到底、到達する事が出来ない事実を知って欲しいと想う。


 単に『 綺麗ごと 』の語句を並べただけの歌詞。

 若年ながらも、悟ったかのような表現。

 悲劇的な表現と、それを賛美・美化するような描写。

 攻撃的な単語の羅列・選択……


 『 新曲 』を歌う娘に対し、どこか、芸術とは懸け離れてしまった『 イメージ優先 』の歌詞に、現代社会の縮図を垣間見たような心境になる『 お父さん 』だった……

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