第107話、初の最終選考入り作品、その軌跡

 漫画投稿遍歴を辿る記述も、ここいらで最後にしようかと。


 最後に綴るは、このカクヨムにも、古くから掲載している拙作コメディー『 空から来たアイツ! 』の原作となった投稿漫画作品だ。( 原作漫画・拙作コメディー小説、共に、タイトルは同じ。 ただし、表記は、平仮名からカタカナに変更。 あいつ → アイツ ) 見つかった数十冊の古い少年漫画雑誌の中に、この作品の最終選考結果が載った少年漫画雑誌の存在が確認出来た。

 ……よくぞ、残っていたものだ。

 モノを捨てる事が出来ない( 特に、本・雑誌 )性格に、我ながら感謝である。 なぜなら…… 実は『 空から来たアイツ! 』は、漫画投稿歴中、私にとって、初の最終選考入りと言う快挙を果たした、思い出の作品だったからだ。


 初めて投稿した作品が、1次選考を突破し、2次選考に残った。

 次に投稿した2回目の作品が、最終選考まで進んだ……!


 投稿2回目にして、最終選考作品入りである。

 このシチュエーションなら、誰だって大賞を狙うだろう。 私も、それを夢見た1人だった。 「 これは、イケるかもしれない……! 漫画家になると言う夢物語を、現実の話しに変える事が出来るかもしれない……! 」と。

 『 空から来たアイツ! 』は、プロの漫画家になる事を目標とし、『 大賞 』と言う頂点を目指す出発点となった、記念の作品でもあった。


 誌面を見ると、最終選考作品タイトル列挙の中に、『 空から… 』のタイトルが確認出来る。 この誌面を、本屋で見た当時、まさに『 天にも昇る心地 』であった事は、言うまでもない。 レジで、漫画雑誌の代金を渡す手が震えていた記憶は、今でも忘れられない青春の1ページである。



 私が初めて『 ペン入れ 』をしたのは、実は19歳の時だった。

 それまでは単なる趣味として、鉛筆書きの『 漫画 』もどきのイラストを描いていたに過ぎない。 デザインの専門学校へ入学した2年生の夏、同人誌をやっている同級生に誘われ、初めて本格的に漫画を描き始めたのだ。

 つまりは、スタートが遅かったのである。

 本来なら、二十歳過ぎ辺りで大賞を獲ってデビューし、最初は1人で描いて頑張る… と言うのがセオリー。

 描く内容にもよるが、大体、1ページを描くのに4~5時間は費やす。 週間漫画は毎週、発刊されるので、印刷・配本工程を考慮すると、製作時間は約4日だ。 ストーリーものなら23ページくらいなので…… と、ここで『 計算が合わない 』事に気付く。


 ほぼ毎日、徹夜して描かないと、毎週発刊の週刊漫画誌は、描き切れないのである。


 これが出来るのは、やはり若い世代に限るだろう。 私も、20代の頃はデザインの仕事で、よく徹夜をした。( 今でも、72時間は起きていられる事が出来る )

 私のように、結果的に30近くなってデビューが決まったところで、連日の徹夜に耐えられるようなスタミナは無い……

 では、人手を増やしたら良いのでは? との考えに行き着くが、アシスタントを雇う金など無い。 なぜなら……


 原稿料が安いからだ。


 敬愛する手塚治虫 先生くらいの知名度なら、それなりの原稿料を手にする事が出来るが、それでも1ページあたり数千円だ。 思ったより漫画家の原稿料は安いのである。

 では、彼らは、どうやって糧を得るのか?


 答えは、単行本である。


 単行本を売った『 印税 』で、彼らは生き延びて行くのだ。 そして、その金でアシスタントを雇い、月刊誌や、他の出版社の週間漫画などで、描く本数を増やしていく……

 つまり、デビューは、スタミナのある若い時が良いのだ。


 あと、漫画家の収入としては、原稿料や印税以外に、キャラクターグッズ販売の版権収入が見込める。 いわゆる、著作権料だ。

 鳥山明氏のように、キャラクター収益がハンパない作家もいる。 劇画調タッチの画質だと、これらキャラクター関連の収益は望み薄だろう。 歌謡曲などのヒット曲も然り、クリスマスや卒業など、シチュエーションに合った曲は、毎年、シーズンになるとカラオケなどからの著作料が入り、1曲のヒットだけで、一生、喰っていけるシンガーソングライターがいる。

 漫画も、ある意味、同じようなものだ。 漫画の場合は、キャラクターの画質によって、グッズ販売の売り上げが、大きく違って来るのである。


 手塚治虫 先生が、私にアドバイスしてくれた話の中には、この『 中年デビュー 』に関する注進は無かったが、毎日、ほぼ徹夜する生活に関しては、「 相当たる努力が必要である 」と、何度も伺った。 暗に、年齢の事も示唆されていたのだと思う。


 この『 空から… 』を描いた頃は、まだ手塚先生とも出会っておらず、漫画家デビューに関する未来については、夢の様な… まさに、希望に満ち溢れた『 良いトコだけ 』の未来予想図が、私の脳裏に描かれていた。

 ここで1つ、それなりの人生経験を味わって来た者としての、『 悟り 』コメントを記しておこう。


 趣味と仕事は、同じにしない方が良い。


 『 普通の人 』は、特に、同一にしてはならない。 『 職人肌 』の方は、この限りではないが、まあ、一緒にしない方が賢明だろう。 理由は、どこまでが『 趣味 』で、どこからが『 仕事 』なのか、段々と分からなくなるからだ。

 つまり、趣味=仕事となると、一日中、『 仕事 』をしている事になり、生活そのものにメリハリが無くなる。 終わりの無い作業は、例え好きな趣味であっても、いずれ嫌になるものだ。

 物事に、すぐ熱中してしまう性格の私は、趣味と仕事は、どこかで線引きをする必要があった。 365日… 24時間、漫画を描くと言う『 仕事 』に専念し、他は、何もしない生活に浸っている自分の姿は、実に、容易に想像が出来た……

 かくして私は、アマチュアであるべき道を選択し、プロにはならなかった。



 数十年前と現在では、支持される画質もストーリーの内容も、大いに違う。 当時は、コメディー全盛期。 シリアスな路線の物語でも、必ず、何ヶ所は『 笑い 』を誘う場面があった。

 『 空から… 』も、流行りだったコメディー路線を踏襲した鉄板作品だった。 拙作小説も、原作を大幅にイジる事無く、漫画のストーリー展開を、そのまま文章化してある。 勿論、テーマを念頭に据えて。

 物語の最後は、一瞬、シリアス展開。 そして『 平和的 』な笑いによるラストで、一件落着……

 もう今では、こんな鉄板作品は、全くウケないだろう。 ある意味、良き時代の記録である事は、間違いのない事実だ。(笑)



 *近況ノートに、最終選考に残った作品群が掲載してある誌面をUP致します。

  青春の記憶でした……

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