第106話、『 幻 』の投稿漫画作品

 編集部が希望する通りの漫画を描いてみよう。


 編集部の『 思惑 』に相反する作品は、例え作画技術が良くても、ストーリー構成が秀逸でも、テーマの着眼点が素晴らしくても、絶対に大賞などは獲れない( =プロには、なれない )。 漫画雑誌とは言え、商業誌である以上、それは至極だ。


 編集部の希望する作品は無視し、自分の描きたいモノを、とことん追求して描いていた私は、何度、投稿しても最終選考止まり。 それは、当たり前の事である。

「 プロになって、沢山の人に読んでもらえるようにならなければ、訴えたいテーマ、描いてみたいストーリーがあっても、誰の目にも留まらない。 南君がやっている事は、単なるマスターベーションだよ? 」

 担当編集者の方からは、電話がある度、毎回のように諭された。

 そして、いつしか私の心境に巣食うようになって来た、とある想い……


「 いつも最終選考にまで残りながらも、大賞には手が届かない。 まあ、結局その程度のヤツなのさ 」


 そう思われたくない私がいたのである。

 かくして、私は決心し、編集部が希望する『 活劇的な 』・『 ハッピーエンドで 』・『 痛快な 』・『 コメディー要素あり 』のストーリーを創作し、プロットとキャラ設定画を編集部に送った。

 喜んだのは勿論、担当編集者の方。

「 待ってましたよ、南君! この新作、イケますね。 来年の春には、いよいよプロデビューですよ! 」

 ……プロになる気は、更々、無かったが。(笑)

 

 デザイン事務所の仕事を終えて、深夜に帰宅し、それから明け方まで漫画を描く毎日が続く……

 そして、約半年後、作品は出来上がった。

 毎回の通り、原稿を厚紙で包み、特大封筒に編集部の住所を書き、赤ペンで『 原稿在中/ 二つ折り厳禁 』と書き入れる。

( これを郵送すれば…… 俺には、プロになる道もあるのか… )

 封筒を手に、しばし眺めた。

 原稿は、いつもの通り、丁重に描いた。 構図も満足。 キャラも個性的だし、原稿の仕上げには、渾身の画力を注いだつもりだ。


 ……だが、嬉しくない。


 描いていて勿論、楽しくはあったが、その心境とは裏腹に、どこか『 レールに乗せられている 』自分の存在を感じていた。

( 俺は…… 何の為に、この作品を描いたんだ? )


「 そんな考えなんぞ、どうでもいいわ。 とにかく、コイツを送っちまえよ! 」


 もう1人の自分が、私に催促をした。

 ……だが、自分自身に納得がいかない。

 悶々と悩む日が続き、原稿を郵送する日が、2日・3日… と順延されて行く……


( 自分の意思・考察した題材を描く事に、創作の意義があったはずじゃなかったのか? 自身発信の訴えるテーマがあり、それを表現するのが楽しかったんじゃなかったのか? )

 手塚 治虫先生から教わった創作の極意は、大賞を獲る事じゃない。 ましてや、プロになる事でもない。テーマに則った自分自身の自由な発信と、それを遂行する為の手順だ。


 かくして私は、描き上げた原稿を書庫棚に上げ、『 封印 』した。 編集部には送らなかったのだ。

 担当編集者の方からは、2日置きくらいに、早く原稿を郵送する旨の催促の電話があったが、家族には居留守を使うように話をし( この頃、まだ、スマホどころか携帯電話すらなかった )、電話には出なかった。



 応募締め切りが過ぎ、数ヶ月、1年、数年……

 以来、私は投稿創作を止めた。 30代半ばに、差し掛かっていた頃である。

 バブルが弾け、デザイン業界自体が閉鎖的になったのを機に、アートディレクターをしていた私は、デザイン業界に見切りを付け、転職をした。

 デザイン業務とは全く異なる業種に身を置き、デスクワークから営業… 更には、フィールドワークへと移行した私。 明け方まで漫画を描いている時間などは無くなり、以後、私は漫画を描かなくなった。



 変わって、私が発信する創作は『 小説 』となった。

 文章なら、PCのワード操作だけで出来る。 鉛筆の下書きも要らないし、消しゴムも掛けなくても良い。 トーン貼りだってしなくても良いし、何と言っても『 間違えても瞬時に消せて、書き直しが出来る 』…… こんな便利、かつ機能的・合理的な創作が、他にあるだろうか……!


 文章構成・表現力は『 人並み 』程度だが、原作となるネタなら、漫画で創作した作品が幾つもある。 描く時間が無くてカタチになっていないものや、プロットだけのものなら、それこそナンボでもあった。

 ……そして、現在の私がある訳である。


 ある程度の数の作品・プロットを、文章作品としてカタチにして発表した現在、のんびりと拙作エッセイなどを綴っているのだが、テーマだけの草稿作品は、まだまだある。 だが今は、ゆったりと、文章での創作に浸っていたい……

 そんな時、忘れかけていた原稿が、私の前に現れた。


 うう~む…… いつも通り、前置きが大変に長くなっってしまったが(笑)、荷物整理で見つかった今回の原稿の創作経緯は、こんなカンジだ。

 編集部に送らなかった『 プロへの切符 』… 私の、最後の投稿作品『 JUGGLE! 』( ジャッグル! / (訳):慌てる事 )。


 頭脳明晰・沈着冷静な男と、サバイバル力満々・力ずくで押し切る男……

 そんな2人が共同経営する探偵社に、暴力団に誘拐された娘を救出する話( 仕事 )が依頼された。 その暴力団の組長が、実は…… と言う、ストーリー。 典型的なドタバタ活劇で、ハッピーエンド、コメディー要素あり、の作品である。


 封筒には、編集部の住所が書いてあり、当時のそのままの状態だ。

 もう、「 もし、この作品を送っていたら 」と言う、俗っぽい考えは湧いて来る事はない。 先回と今回のエッセイで、私なりの追憶は終了した感がある。 今は、懐かしさのみ。 今回、楽しみながら、この作品を読み返す事が出来た事は、私にとって幸いである。


 漫画一筋に過ごしていた、17年と言う歳月……

 まさに『 やりたい放題 』を達成した余韻がある。

 他の方から見れば、「 馬鹿な事をしたな 」と思う方もいるかもしれない。 だが、当時の私にしてみれば、充分過ぎるほど『 真面目 』な判断だったのだ。

 若さ故の過ちと見るか、若気の至りと見るか……

 それも、世代の相違によって、判断は異なる事だろう。 個人における優先順位にも、大きく左右される。


 当時の私は、若かった。

 これは、まごう事なき事実なのである……



 *近況ノートに今回、見開き2ページ、計4ページを2回に分けて

  公開致します。


  過去に、近況ノートにて、何かのカタチで公開したかもしれませ

  んが、記憶が定かではありませんので、ダブっていたらご容赦を。

  なので、気分は28年の封印を解き、本邦初公開! 完全なる、

  未公開作品UP… と、しておきますか。(笑)


  1回目の公開は、娘が、暴力団組員数人に誘拐されるシーン。

  2回目は、暴力団組長の屋敷内にて始まる乱闘騒ぎの序章。


  2021年11月14~23日の近況ノートに公開した、小賞

  受賞作『 機械仕掛け虚像 』や、『 4429F 』( 2021年7月

  8日~18日、8月14日の近況ノートに公開 )の頃のタッチと

  は、かなり変わっています。 宜しければ、見比べてみてやって下

  さい。(笑)  自画自賛、ご容赦を……

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