第100話、自ら命を絶った『 君 』に寄せて
デザイナー時代から交流のあった知人が、昨年、亡くなっていた……
ここ数年間、体調を崩し、入退院を繰り返していたが、どうやら精神的な病に悩んでいたらしい。 私より近しい友人からの情報である。
毎年、年賀状だけは届いていた。
だが、ここ2年の間に、お袋に続き、親父までも他界した為、丸2年、賀状を出していなかった。 喪中はがきは出していた為、彼も賀状を出すのを控えていたのだろう。 久し振りに連絡を取った友人から聞かされたのだが、少々、ショックを感じている……
自宅近くの公園の木で、首を吊ったらしい。
バブルが弾けた際、早々にデザイン業界に見切りをつけ、他業種に歩みを進めた私だが、彼は、デザインの世界に留まった。 同じように、デザインの仕事を続けている友人は、今でも数人いる。 だが、彼は『 心の病 』にかかり、ただでさえ先細りして行くデザインの仕事を、こなす事も、受注する事も出来なくなってしまったらしい。
結果、企画の業種に転化したが、性に合わず、廃業……
最近は、派遣にて、事務の仕事を細々としていたとの事。 病も完治せず、再び、入院。 収入の無い状況にて、将来の生活を悲観しての決断だったと推察される。
彼からは、何も聞かされていなかった為、そんな状況になっていたとは驚きだった。 少しでも、状況を掴めてさえいれば、多少の話し相手くらいには、なれていたかもしれない……
非常に、悔やまれる。
まあ、私ごとき者の世間話など、彼の、疲れた心の支えには到底、ならなかったではあろうが……
人生、何をするにも『 金 』が要る。
私も自営していた時代、それは痛切に感じた。
『 金の切れ目が、縁の切れ目 』とは、良く言ったものだ。 まさに、その通りである。 仲の良かった友人たちも、金の事になると、誰も助けてはくれない。
借金が700万を超えると、自分で返済する事は非常に難しいらしく、自己破産するしか無いと、司法の人たちは言うが、私の場合、700万を軽く超えていた。
当時、どうやって凌いだのかは、もう覚えていない。
明日、数百万の支払いがあるのに、財布の中の『 全財産 』は、1500円だった事もあった……
それでも私は、自ら命を絶とうと言う考えに及んだ事は無い。
青年期は、それこそ毎日、どうやって死のうかと考える毎日だったが……
( 第6話、『 遥かなる君と 』参照 )
死んでしまったら、ナニも解決しないのである。
悩んだりしなくても良い『 抜け道 』を選択するくらいなら、『 死ぬ気 』でやってみるべきだ。 それでも解決しないのなら、それこそ、死を選べば良い。 スッキリした気分で死ねる事だろう。 まあ、こんな考え… 窮地に立たされている者からすれば、聞く耳を持たないとは思う。 だが、ある意味、真理だと私は考える。 実際、私は『 それ 』を実践して来たのだから。
今更、遅かりし提言だが… 少々、厳しい下記の一節を、彼に送ろう。
『 流されて行くのではなく、流れて行く……
どうしようもない岐路に遭遇した時は、そんな観点に立ってみると良い。
自身が見えてさえいれば、ほとんどの場合、大丈夫なのだから……
『 生きる 』という大変な事を、難なくやってのけている今の自分に、
もっと自信を持て!
死ぬ事ほど、簡単な事は無い。
そんな簡単な事に美学を持って、何の得とするのだ 』
拙作『 隻影 』最終話 第22話、エピローグ より
……もう一度、お前とは、激論を交わしてみたかった。 今にして、痛切に思う。
あの頃のように。
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