第99話、『 18年 』

 好きなウイスキーの熟成年ではない。

 一人娘の歳でもない。


 結婚し、実家を出て、隣町に移り住んでいた歳月である。


 母が亡くなり、一人暮らしをしていた親父も亡くなった。

 この4月、再び、実家へ戻る。



 弟と財産分与の話をし、親父の年金・保険の整理をし、土地の登記を名義変更し、本籍・住所の転出・転入手続きを行った。

 児童手当の変更手続きに、親父の車の名義変更、車検手続き……

 実家は、改築して40年以上が経ち、キッチン・風呂場はリフォームしないと、とてもじゃないが生活出来ない。 本当は、トイレも完全リフォームをしたかったのだが、予算の都合上、今回は後回しだ。

 屋根瓦も、夏の台風シーズンまでには補修が必要。 放ったらかしで『 ビオトープ状態 』になっている庭も、崩壊しそうな車庫も、いずれは手を入れなくてはならないだろう。

 金が、ナンボあっても足りんわ……!


 現在、少しでも、引っ越しする荷物を小分けし、実家に運ぼうと奮戦中だ。

 今、住んでいるのは3DKの小さなコーポなのだが、整理しても整理しても、どんどん色々な物が出て来て、片付けているはずなのに、足の踏み場もない状態である。

 やはり、18年も住めば、色んな『 モノ 』が蓄積されるのだろう。


 専門学校講師時代の資料・生徒たちからのプレゼント、派遣時代の作業着・道具類、探偵時代の『 極秘資料 』… う~む… コイツは、どうやって処分しようか……

 更には、土木業務従事時代の資格取得参考書・業務日報……


 全部、どこかの広場へ持って行って、火を付けようか……?


 そんな事が出来たら、どんなに楽か。

 捨ててしまえば、それまで。 全て、自分の『 軌跡 』と思えるからこそ、捨てられないのだ。 例え、紙きれ1枚でも、私の過去の証明である。 捨ててしまえば、二度と手にする事は出来ないのだ。

 ……まあ、いわゆる『 貧乏性 』なのだろう。

 過去の経緯・価値観は、個人によって大きな差がある。 アホな私としては、『 もしかしたら、必要になる時が来るかもしれん 』と言う、幻想的とも思える発想に考えが及び、どうしても手放すのに躊躇してしまうのである。→ 参照:『 アホならできる! 』( カクヨム掲載済み )


 玄関のドア横に、うずたかく積まれた書籍や資料・雑貨類……

 この狭いコーポの一室の、ドコから、こんなに出て来たのかと思う量である。

  逆に、よく、こんなに沢山のモノが詰まっていたなと、感心する。

 18年の歳月が、成せる技だ。


 引っ越しは、2週間後。

 4月からの新生活を、私は、無事に迎える事が出来るのだろうか……

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