第95話、たかが、500円玉…… されど、金なり。

 第27話、『 チリも積もれば、山となる 』でも記した貯金方法は、硬貨が貯まったら、紙幣に変えて行くやり方だった。 貯金期間は、1年の期限付き。

 ……実は、硬貨を貯めるだけの貯金もしていた。 しかも、数十年も前から。


 大きなワインボトルの口が、丁度、500円硬貨が入る大きさの口径だった為、35年ほど前だったろうか… 数年前に、発行が始まったばかりの500円硬貨を貯金し始めたのが、そもそもの始まりだ。

 第27話の内容にもあったように、財布の中で見つけた500円硬貨を不定期に入れていたのだが、実家に置いてあった為、結婚して現在のコーポに移ってからの18年ほどは、基本的には入れていなかった。 しかし、時々、実家に寄った際にボトルが目に入ると財布を取り出し、500円硬貨があれば、即、投入……

 この辺り、ルーティーンのようなものである。(笑)


 貯金を始めた当時、ボトルの内容積から推察して、瓶いっぱいに500円硬貨を詰めると、大体45万くらいになるとの試算をしていた。 先日、改めて見て見ると、8分目を越えているのに気が付いた。


 ……やるか……?


 だが、せっかくここまで貯めたのだ。 出来れば、ボトルいっぱいになるまで……

 しかし、『 差 』は、大した事はない。 …てか、ボトルが重すぎて、置いてあった本棚の板が、曲がって来てしまっている。 このままでは、棚が崩壊し、落下したボトルが割れる危険性もある……

 意を決して、ボトル内に貯まった大量の500円硬貨を取り出し、清算する事にした。


 42万8500円。

 

 おおうっ……! 素晴らしいっ!

 しかも、計算が大体、合っている……!


 実家リフォームの金策に奔っている最中、これは、思いもしなかった資金である。

 早速、換金を… と思ったが、大量の硬貨を、札に換金する手段が無い。 ATMでは、100枚が限度。 800枚超えの硬貨では、何度も足を運ぶしかない……

 なので、換金ではなく、口座に入金する手段に変更した。 窓口へ持って行けば、1000枚までは、1000円の手数料で入金が出来る。 先日、枚数・金額を数え、3つくらいの小袋に分けて、事前に電話連絡した銀行窓口へ持って行った。


 少々前の、第92話、『 遺産 』に出て来た旧札も加え、窓口へ出す。

 窓口の行員は、『 触角ヘアー 』の、今時の女子行員だったが、旧札に興味があるらしく、岩倉具視の500円札・伊藤博文の1000円札( 両方とも、ピン札 )を手に、しばらく、感慨深気に眺めていた。

「 年齢的に、見た事、無いんじゃないの? 」

 私の問いに、感激した表情で彼女は答えた。

「 はい……! 画像以外の『 本物 』は、初めて見ました。 しかも、これ… ピン札ですよね……! 」

「 500円硬貨も、初期のヤツがほとんどだよ。 ピカピカだし 」

「 自販機で、使えないヤツですよね? 」


 静かな行内に、パチンコホールの玉数え機のような騒々しい音が響き、大量の500円硬貨が清算されて行く。 『 騒音 』を聞き付け、他の行員たちも、1人・2人と精算機の周りに増えて行き、やがて黒集くろだかりの人山となった。

「 え? 全部、500円玉? 」

「 一体、いくらあるの? 」

「 おお~、懐かしいなぁ… この、初期500円硬貨。 覚えがあるよ 」

「 こんなに、イッキに入れた事が無いんだケド、大丈夫? 」

「 入れちゃえ、入れちゃえ 」

「 凄ぉ~い! 賽銭の山みたぁ~い 」

「 おい、この昭和500円… 新品だぞ? 」

「 見て、見て! 平成13年だって! あたしの生まれた年よ? 」


 ……支店長まで出て来て、えらい騒ぎである。

 まあ、40数万円分の500円硬貨など、見た事が無いだろうから仕方ないか。

 ちなみに、凄い重さだった。 紙袋の取っ手がちぎれてしまったので、布製のバッグに入れて来たわ……



 清算の結果、3枚の数え間違いがあり、きっかり43万円だった。

 35年か……

 まさに、『 チリも積もれば、山となる 』である。

 ……チリじゃ、無いけどね。(笑)

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