第93話、『 遺産 』2

 まず、近況ノートにUPした画像をご覧あれ。


 小洒落た、松のミニ盆栽と、エリンギ( ヒラタケの一種。イタリア料理などでは定番の、食用キノコ )の生態鉢、ミニ・サボテンの花、2つの柿etc… の画像だが、これが『 造り物 』であると言う事は、一瞬、ほとんどの方は気付かなかったのではないだろうか?


 『 アート・フラワー 』


 実は、この『 作品 』…… 2年前に亡くなったお袋が、かれこれ40年ほどやっていた『 アート・フラワー 』と言う名の、趣味造形である。

 布を、花弁や葉の形に切り、染料で染め、アイロンこてで形を整えて、細い針金に貼り、束ねて茎にして紙粘土で根元を造り、鉢に固定する。

 実に、大変に手間が掛かり、植物図鑑や鉢植えの写真集と、数日間に亘る『 睨めっこ 』を余儀なくさせる作業である。

 花が、大好きなお袋だったが、この描写の正確さには当時、驚いた。 写真や図鑑を参考にしているとは言え、それにしては見事なセンスである。


 本来、花が咲いているところを再現するのがアートフラワーの醍醐味なのだが、晩年は、このようなミニ盆栽や『 特殊造形 』に手を染めていた。 柿の実などは、鳥害・傷んだ部分まで、非常にリアルに再現してある。 ミニ・サボテンの花も、本物と見間違えてしまいそうな域だ。 栗の木を、盆栽風に再現した大作( 私自身、栗の実の部分などは、完成当時、本物と見間違えた )もあったのだが、数十年の間に埃を被り、花の作品に至っては、花弁が全て変色してしまった……

 先回の第93話でも記させて頂いたが、先日、そのほとんどの作品を処分した。


 部屋・廊下・窓枠・玄関など、家の、ありとあらゆる所に作品が置いてあったので、埃を被らないように透明ケースで保護するように注進していたのだが、「 造り物と分かっちゃうから、ヤダ 」と、ガンとして聞き入れなかった。 結局、処分する運命に……


 そんな、お袋の作品の中で、私が大好きだったのは『 福寿草 』の鉢植え作品だ。

 25センチほどの長丸小鉢に、小さな黄色い小花が数個ある可愛い出来で、数年間ほど、玄関に飾ってあった。 花好きな郵便局員が玄関に訪れた時、室内で咲いている事に驚き、実は『 造花 』である事に2度、驚いていた記憶がある。 福寿草は、陽の下でないと開花しない花なのだ。

 今回、処分する際に探したのだが、見つからなかった。 誰かにあげてしまったのかもしれない。 友人や親戚・知人に、よくあげていたし……


 2階の和室の小さな戸棚の中に、数鉢の作品が保管してあるのを見つけ、早速、取り出してみた。 ……でも、やはり埃は被っており、花の作品は変色していた。 だが、外に出してあったものと比べると幾分かはマシで、UPした画像は、その中の作品の一部である。


「 ここまで造れるんだったら、教室でも開いたら? 」

 よく、親戚の叔父・叔母( お袋から見れば、兄妹 )からも言われていた。

 お袋は、アート・フラワーの講師資格( 何と、師範代 )も持っていたのだが、教室を開く事に関しては、終始、否定的だった。 そもそも、造っている時間が楽しかったようで、75歳くらいまでの毎日、『 何か 』を造っていた記憶がある。


 私が結婚する時、披露宴で、妻が持つ『 ブーケ 』を造ってくれるよう、頼んだ事があった。 コサージュ( 女性が、ドレスなどの胸に付ける造花の飾り )とセットの、超豪華な作品を造ってくれたのだが、色々な『 諸事情 』・『 事件 』があり、式のみで、披露宴は開く事が出来なかった……

 しかし、前撮りの写真撮影には収まっており、結婚1年後に、友人・知人のみで開催した結婚記念パーティーでは、しっかりと使わせてもらった。

 現在もケースに入れ、押し入れの奥に保管してあり、変色していなかったら、娘が結婚する際に、持たせてやろうと思っている。( 式場で、造花ブーケのレンタル料は、数万円以上するのが相場なので )


 リフォーム・引っ越しが落ち着いたら、床の間・リビングなども整理する予定。

 今度こそケースを用意し、小さなピンスポットを当て、ライトアップでもしてやろうと考えている。


 作品は、お袋の『 生きた証 』なのだから……

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