第91話、『 二千円札 』
先日、古いダイヤリーなどの整理をしていたら、二千円札が数枚、出て来た。
発行された当時、勤めていた会社の給料が現金支給だった関係から、給料として手に入れたものを、物珍しさから保管したまま、その存在を忘れていたらしい。
2000年に開催された沖縄サミットに合わせ、発行されたのが二千円札だ。 しかし、自動販売機やATMでの認識対応が遅れた為に流通が滞り、現在では、全く見かけなくなってしまった紙幣である。 若い世代には、その存在すら知らない方が多い事だろう。 紙幣識別システムが対応しないと言う事は、当然、コンビニのレジにも反応しない。 そもそも、レジの現金入れには、二千円札の『 入れ場 』が無いし……
紙幣の表は、沖縄の首里城にある守礼門。 裏は、紫式部( 人物肖像は、絵巻より引用 )である。 表面に人物肖像が用いられなかったのは1946年(昭和21年)に発行開始されたA号券以来との事だ。
…実は、紙幣に使用される原版彫刻は、製作に相当の時間を要する。 特に、人物肖像。 更には、人物肖像の選定も非常に難航する事が想定された為、沖縄サミット開催直前に発行する事が困難になるとの考えから、表面も含め、肖像が用いられなかった経緯がある。 ちなみに、沖縄サミットの開催に合わせて発行されたものだが、記念紙幣ではない。 通常の日本銀行券である。
余談だが、日本銀行券の製造元である印刷局が、過去に2度、組織改編されており、1度目は中央省庁再編により2001年(平成13年)1月6日に、それまでの『 大蔵省印刷局 』から『 財務省印刷局 』に、2度目は2003年(平成15年)4月1日に独立行政法人化されて『 国立印刷局 』に変更されている。 しかし、D二千円券の銘板の記載は発行開始時から変更されなかった為、『 大蔵省印刷局製造 』と印刷されているものしか存在しない。
つまりは、1万円札も、表は福沢諭吉の肖像そのままで、周りの飾り罫のデザインと、裏面が『
20年くらい、新札のまま『 タンス預金 』している方、よ~く調べてみる価値はあるだろう。(笑) 私は、当然、数枚の『 財務省印刷局製造 』1万円札( 新札 )を保管している。
さてさて、また前置きが長くなってしまったが、この二千円札… せっかく『 出て来た 』のだから、実際に使用してみようと思い、流通事情が一目瞭然と思われるコンビニにて『 決行 』してみた。
自宅近くのコンビニに入店し、軽食と飲み物を手に、レジへ。
レジ対応にあたってくれたのは『 希望通り 』の若い男性。 見たところ、20代前半。 おそらく大学生のバイトか……
購入金額は、2,160円。……うむ、カンペキである……!
二千円札1枚と、硬貨を160円、レジに出す。
はたして、二千円札を手にした『 彼 』の手が止まった。
「 ……えと…… んん? 」
レジに出した札が1枚なので、五千円札だと思ったのだろう。 だが、紙幣の絵柄に違和感を持ったらしい。 二千円札を両手で持ち、天井の照明に向けて、透かしを見る。 ……人物ではなく、守礼門。
彼が尋ねた。
「 これ… 中国のお札ですか? 」
……ほほう、なるほど。 そう来たか。
まあ、これは説明しておかなくてはなるまい。
私は、笑顔で答えた。
「 違うよ。 日本銀行券って、印刷してあるだろう? 表に。 裏には、アルファベットで『 NIPPON GINKO 』ってあるはずだ。 これは、二千円札だよ。 23年前の、西暦2000年に発行された日本の紙幣だよ 」
「 へえぇ~…! 初めて見ました 」
「 大学生? 」
「 はい。 2001年生まれっス 」
「 じゃ、分からないかもね 」
「 ……あのぉ~… このお札、レジ… 通らないんスけど? 」
「 ごめん、手動で打ってね? 」
にこやかに、立ち去る私。 何事も経験だ。 頑張ってくれたまえ。(笑)
現在、二千円札は、国内では唯一、沖縄にて少数が流通している。 だが、やはり全国的には、全く忘れ去られた紙幣だ…… こんな状況を持った貨幣は、非常に珍しいのではないだろうか。
聖徳太子の一万円札・五千円札、先記した3種類の福沢諭吉一万円札、伊藤博文の千円札、岩倉具視の五百円札…… 近年では、新渡戸稲造の五千円札や、夏目漱石の千円札など、全ての旧札を新札で保管しており、当然、この二千円札もある。
最近、硬貨などで希少的価値のあるものが人気のようだが、いずれこの二千円札も『 仲間 』に入るのだろうか。 確か、2004年以降の増刷は、していないはずなのだが……
*存在をご存じない方の為に、近況ノートに画像をUPしておきます。
偽造防止の為に、正面からの画像ではありませんので、悪しからず。
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