第87話、眩しいんじゃ、ゴルアッ!!

 何の事は、無い。

 対向車のヘッドライトが眩しいのである。


 そう、そんな事だ。 誰だって、たまに感じる事だ。 だけど……

 ソレが日常の事だったら、冷静でいられるだろうか?


 ……シバき倒したくなるくらい、腹が立つ……!


「 お前の、そのヘッドライト、叩き割ったろうかいっ? ああっ? 」

 まさに、そんな心境になる。



 近年、車の性能は格段に進歩した。

 とりわけ、IEDの開発により車に採用されたヘッドライトの明るさに至っては、ここ5~6年前とは、比べ物にならない程だ。

 ……しかし、決して、それが眩しさにつながっている訳ではない。

 実は、私が乗っている車に『 原因 』があるのだ。


 『 第51話、セダンが好きだった…… 』で紹介した私の愛車は、新車で購入してから、もう25年目に入った。 当時の車の構造は、今の車種に比べると非常に車高が低い。 私が乗っている車は、当時でもある程度の車高があった車種なのだが、最近の車から見れば、かなり低い。 当然、対向車のヘッドライトが目に入る訳である。

 加えて、最近の車種には、ヘッドライトの光軸を上下に調整出来る機能が付いているが、この機能… ほとんどの人が、光軸を一番上になるように設定している。

 ……まあ、そうだろう。


  誰だって、照らす距離は、最も遠くにしたいものである。

 よって私は、いつも対向車のヘッドライトの眩しさに耐えながらの運転を、強要されているのだ。

 早よ、車を変えろ、ってか……?



 私が、車に乗るようになった頃は、まだバッテリーの性能が良くない時代で、停車中にアイドリング状態を続けていると、段々と電圧が低下して来てプラグがスパークしなくなり、エンジンストップ… エンストしてしまっていた。 特に、夜間。

 今では信じられない事だが、ヘッドライトを点灯させたまま、交差点の赤信号で停車し、ブレーキを踏み続け、ブレーキランプを点灯させてままにしていると、ヘッドライトが段々と薄暗くなって行くのだ……

 降雨時、ワイパーを作動させていると、尚更だった。


 だから皆、赤信号で停車中はヘッドライトを切り、サイドブレーキを引いてブレーキから足を離し、ワイパーが作動していれば、止めていた。

 エアコン( この頃は、ただのクーラー )を装備している車は、真っ先に切っていたか、アクセルを軽く踏み、エンジンのアイドリングを上げていた。( クーラーも、アクセルを吹かしている1500回転くらいでなければ作動せず、アイドリング中は、ただの『 送風 』だった )


 『 停車中、ヘッドライトは切る 』

 それが、当たり前の時代だったのだ。


 私の年代のドライバーだと、今でも停車中、ヘッドライトを切る人が多いが、私的に、この行為については、別の意味からの主旨がある。

 停車中、対向車のヘッドライトと、自身の車のヘッドライトの境目にて起こる『 蒸発現象 』を防ぐ為だ。


 幹線道路などの広い交差点は、交差点中央が若干、高くなっている事が多い。

 ここに、対向右折車などが停車している交差点を、直進で通過する際、停車している右折車両の横から飛び出して来るミニバイクなどがあったとしても、相手車両の光源の『 向こう側 』は、全く見えない。 これは私の車だけではなく、今の車に乗っている方にも、何度か経験があるかと思う。

 踏切などにしてみれば、ほとんどの所で線路に向かって上り傾斜があり、新しい車に乗っている方も、踏切の脇を歩く歩行者が対向車のヘッドライトの眩しさに惑わされ、前方が、見え難く感じた経験があるはずだ。 車高の低い私の車などのような、古い車のドライバーにとっては、たまったモンではない。 眩しさに躊躇していると、後ろからクラクションが鳴らされ、非常にムカつく……!


 まあ、そんな古い車… やはり早く買い替えるに限るとは思うのだが、踏切待ちをしている際に関しては、ヘッドライトは切った方が良いと私は思う。

 存在を知らせる為にも、ヘッドライトを点灯させた方が良いとの指摘もあるようだが、車幅灯・フォグランプも明るくなっているし、それで充分に『 存在感 』はあるのではないか、と思うのだ。 現在の新しい車種に乗っている方であっても、踏切待ちの対向車のヘッドライトを、眩しく思った経験は、交差点以上に相当ある、と推察するのだが……?

 『 停車中は、ヘッドライトを切る 』

 私が、それを実行しているのには、意図があっての事である。



 最近の車には、オートライト機能などがあり、エンジンを掛けた瞬間、夜間などは自動でヘッドライトが点灯する。 これが駐車場だと、そのまま前方に駐車している車を『 照らす 』事になり、後部座席で乗り降りする同乗者の様子を見ていたり、助手席と会話をしていたり、スマホを操作していたりしていると、長時間の『 照射 』となる。


 ……私の車だと、結構、ツライ。


 ハッキリ言って、イライラする。

 最近は、初めて乗った車にすら、既にオートライト機能が装備されており、ヘッドライトを切る習慣が無いドライバーも多いとか( 特に、女性 )。 ヘッドライトの切り方すら知らない者もいるそうだから、私などのような者の苦悩など、知る余地すら無い事だろう。

「 だって、エンジン掛けたら、自然にヘッドライトが点いてんだから仕方ないじゃん 」

 …ってな、具合だ。


 自分が、明るく見えさえすれば良い……

 無意識のうちに、そんな『 利己主義的 』な思考が、芽生えてはいないだろうか?

「 あのね…… そんな大げさな領域にまで発展するコト? だいたい、今の基準に適合していない車に乗っているヒトの事まで考える必要が、ドコにあんの? 」

 そんな意見も聞こえて来そうだが、それこそ、他人を思いっていない思考ではないか。

 眩しく思うシチュエーションは、確かに、私の方が圧倒的に多いだろう。

 だが、最新の車に乗っている人にも、対向車の光源が眩しく思える経験は、走行場所によっては、多々あるはずである。

 公道を利用するのは、お互い様だ。 もう少し、他人の立場・視野に立っての思考・行動をするべきではないか、と私は思うのである。 私の事、オンリーではない。


 ……これは、決して大袈裟な見地ではない。


 ご時世とは言え、いつか、この小さな問題に端を発する『 事件 』が、起きるような気がしてならないのだ……

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