第81話、兵器ではなく、利器としての未来。

 今まで、『 殺人 』と『 盗み 』以外は、仕事として、全て経験して来た私だが、最近、新たなる業種が台頭して来たと思う。


 『 ドローン操縦者 』だ。


 7~8年前は、趣味としての域だったが、最近、ドローンのニーズは飛躍的に増大した。

 そう… ウクライナでの戦闘において、その使用における有効性が認証され、ドローンの存在は、映像撮影が主だった当初の使用目的から、紛争を含むあらゆる分野での利用価値へと、使用目的は劇的に変化している。 各国家間では、製造が急ピッチで進められ、不本意ながらも使用方法としては、兵器としての扱いが、その性能の進化に拍車を掛けている状態だ。

 当然、その『 新兵器 』の操縦者ニーズは高騰。 今や、操縦者の育成たるもの、紛争継続中の国家に至っては、その未来を握っている… と言っても、過言では無いだろう。



 私が、ドローンの未来性に興味を持ったのは、6年ほど前だ。

 随分と前だが、第54話『 トリビュート 』のエッセイにて、冒頭の記述に、美しい南洋の島々の映像をバックにしたミュージック・ビデオの事に触れたが、まさにその映像が、ドローンで撮影されたビデオだった。


 一切のブレが無く、非常に滑らかなカメラワーク。 ヤシの葉影があるテラスのテーブル上のカクテルグラスから、そのままディンギーが横付けされた桟橋へ…… フレームアウトした海岸から、島々の景色へと移り変わり、やがて紺碧の海が画面に広がり、そのまま上空へ……


 いったい、どうやって撮影したのか? もしかしたら、CGなのか?


 調べる内に、疑問は払拭された。

 モーター式のラジコンヘリに、小型のカメラを搭載し、リモコンで操作・撮影していたのだ。


( なるほど……! これは、新しい技法だ。 画期的とも言えるな )


 この撮影法は、それまでの映画( 特に、戦争映画 )でも使用されていたが、当時は小型エンジンを搭載したラジコンが主流であり、どうしてもカメラの映像に、エンジンの振動による微妙な『 ブレ 』が生じていた。 迫力ある戦闘シーンでは、ちょうど良い具合に『 荒い映像 』となっていたが、先記したような繊細な映像が望まれる場合には、ハッキリ言って不向きだったのが実情である。


 電気式のモーターが登場したのは、つい最近の事だ。

 モーター式推力機の登場により、映像の精度は、格段に良くなった。 そして、ドローンが使われるビジネスシーンも、多岐に亘るようになったのだ。

 映像制作の、映画・VTRはもとより、番組内でのカメラワークにも使用されるようになり、地図設計・建築・建物などの分野、僻地へきち・離島などへの物資の運搬、災害地での調査・探索・救援物資の補給など、運搬業務・運送業の分野へも、その用途は波及している。



 現在、ドローン操縦者に対する厳格な規定は無い。

 操縦を学ぶ為には、自動車学校に併設されたコースや、個人のドローンスクールに通い、『 資格 』を取る。

 操縦資格所持者になってからは、個人的に企業へ売り込むのも良いし、スクールからの紹介もある事だろう。 今や、求人誌にも載っているご時世だ。

 おそらく今後、規制が厳しくなり、自動車免許のように細かい規定が設けられるようになると思われる。

 だが、現在はまだ『 甘い 』。 資格を取るのなら、今だろう。


 個人で契約しても良いから、年齢は関係ない。 しかも、『 定年後 』でも収入を得られる訳である。

 私が、もう少し若ければ、絶対にスクールに通った事だろう。 『 開業当初 』、収入が少なくても問題が無いのは、独身時代のみだ。 家庭を持っていたなら、経済的な不安要素は、家庭内に相当なる波紋を広げる事になる。 まあ、探偵業をメインに決めようと決意した当時、妻とは婚約中だったが……

 逆に、定年後のヒマを利用し、趣味的分野としてスクールに通っても良いのだが、娘までいる現在の状況を鑑みるに、ホンキで、そこまで『 冒険 』を考える精神的余裕は無い。


 そうこうしている間に、2年ほどの年月が過ぎた。

 『 新しい業務 』は、すべからず若人のものだとは思わないが、やはり、ある程度『 人生 』を重ねた者は、その思考に、必ずリスクを考える。


 『 若気の至り 』とは、良く言ったものだ。

 それを推して尚、不安の中へと、何ら躊躇せずに身を投じて行った過去が、自分ながら懐かしい。


 今や、年齢を重ね、『 守り 』の心境に固守していると実感する自分。

 新たな分野の未来を前に… 切ないと言うか、寂しいのだ……

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