第63話、『 謎熱 』

 3週間くらい前だったか……

 私は、コロナでもないインフルエンザでもない、『 謎 』の発熱に見舞われた。


 別段、高熱である訳でも無く、37度8分前後。 「 何か、体がだるいな 」程度の、夏バテ状態の様な不調である。

 とりあえず、家族は何ともない。 まさに、私だけだ。

 当初、コロナを疑い、会社に常置してある検査キットと、市販の試薬で2日ほど空けて2回、確認してみた。

 結果は両方とも陰性。 発熱外来へも行ったが、インフルエンザでもなかった。

 いわゆる『 夏風邪 』だ。

 あまり夏風邪にかかった事は無いが、最近、巷で流行っているそうだ。 医師からは、睡眠時間を多めに取り、養生するように言われた。

 微熱は、2日ほどで熱は下がったが、まだ何となく倦怠感があった。

 そして、発熱から6日目の朝、朝食を取っている際に気が付いた。


 ……何も、味がしない。


 塩気・甘さ・辛さなどは感じるのだが、全く、味を感じ取る事が出来ない。

 味だけではない。 匂いも同じように、全く、感じ取れないのだ。 どうやら、鼻孔の奥が炎症を起こし、匂いを感じる事が出来なくなっているようだった。

 匂いが感じられないと、味も感じる事は出来ない。 風邪で、熱がある時の症状と同じだ。


 参ったね、こりゃ……


 外仕事をしているので、この猛暑の中、大量に汗をかく。 昼過ぎ頃には、微妙に汗臭くなり、制汗剤やデオドラントスプレーで対処しているのだが、匂いが分からないと、どのタイミングで使用したらよいのか判断に困る。

 とりあえず、休憩時間の度にロッカールームへ走り、対処した。


 帰宅すると夕食の時間なのだが、味が、全く分からない。

 味覚が無いと、何を食べても美味しくない。

 そりゃ、そうだろう。 味がしないのだから……


 食事をしていて、味が分からない事ほど、つまらないものは無い。

 微妙に体調もすぐれず、何となく倦怠感もあるので、何もする気が起こらない……

 その後、全てが不調の3週間だった。


 急性副鼻腔炎らしいが、鼻水が出る訳では無い。

 耳鼻科に行きたかったが、お盆の前後は毎年、忙しく、残業・夜勤の連続で医院に行く暇は無い。 仕方なく、色々とWebサイトを閲覧して症状の原因を追究してみたが、病名の決定には、これといった決め手が無かった。 更には、匂い・味がしない症状の期間の表記は、サイトによってまちまちで、3週間から1ヶ月… 中には、3ヵ月と言うサイトもあった。


 不安と、苛立ちにも似たような心境の日々……


 とりあえず蓄膿症の市販薬を飲み、様子を見た。 薬を飲むと、微妙だが匂いを感じる事が出来たのだ。 ただ、感じ取れるのは『 知っている匂い 』のみだったので、『 気のせい 』だったかも……(笑)


 やがて4週間が過ぎた昨日、やっと匂いが戻って来た。

 まだまだ正常とは言えない、程遠い状態ではあるが、『 未知 』の匂いも、わずかに感じ取れるので、少しづつだが快方に向かっているらしい。


 匂い・味がしない状態を、こんなにも長く経験した事は無かった。

 少々、大げさな表現かもしれないが、味が分からない・匂いが分からない事ほど、つまらない生活はない。


 一昨年前に亡くなった母も、認知症になる数年前の晩年は、料理をしなくなった。

 鼻が、利かなくなったからだ。

 この事は本人からも聞いてはいたが、実際に、私も経験してみて、非常に良く理解出来た。 これでは、何も出来ないし、したくもなくなる……


 コロナ後遺症で、匂いが分からなくなっている方も多いかと。

 心中、お察し申し上げます……

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