第58話、軽減税率、知っていますか?

 2019年だったろうか、消費税増税によって10%となった商品の一部を、据え置きの8%とする制度が施行された。

 何だか、分かり難い内容の表記だが、要するに「酒類・外食を除く飲食料品」は、8%で良いですよ~、と言う事だ。 我々、一般庶民が、特によく購入する品物の税率を、据え置いた措置である。 「定期購読契約が締結された、週2回以上発行される新聞」も対象となるのだが、今は置いておこう。


 この軽減税率、コンビニなどで飲食物を購入した場合、適応される時と、されない時がある。


 飲み物や食べ物を購入し、『 イート・イン 』など、店内で飲食が出来るスペースを使う場合、軽減税率は適応されず、10%となる。 しかし、店外へ持ち出す場合… つまり『 持ち帰り 』の場合は適応され、8%となるのだ。

 店内で飲食をした場合、ほとんどの場合、ゴミを店内のダストボックスに捨てて行く事になるだろう。 この場合、店側は廃棄に掛かる経費を負う事となる。 だから適応されないのである。 持ち帰った場合、飲食物のゴミ( 残渣と言う )は可燃物となり、ゴミ回収車が取集を行う。 つまり、自治体が廃棄費用を負担し、個人は無償となる。

 ゴミ処理代だと思えば、分かり易いだろう。


 この税制の仕組みを、全く理解していない者が多い。


 私は、仕事帰りの際、コンビニに立ち寄って飲み物とファストフードを購入し、店内で飲食しながら明日の業務の予定などをスマホで確認する。 その際、レジでは必ず「 イート・インです 」と申告し、税率分を支払ってスペースを利用している。

 わずか、数円の差……

 だが、知っていて無視するのと、全く知らないで行動するのとは、大きな違いがある。


 数人の外国人( 男性3人、女性1人 )が、入店して来た。

 この辺りは、海外からの『 出稼ぎ労働者 』が多い地域なのだが、そのほとんどの国籍は、南米かフィリピン近郊である。 香水の匂いをプンプンさせ、マイクモードのスマホ片手に、相当やかましいボリュームで喋っている。

 いきなりイート・インスペースに腰掛けた。 1人がファストフードを購入し、戻って来る。 『 申告 』の様子は無い。

 イート・インのスペースの入口には、樹脂製のチェーンが張られ、スペースを利用する際は申告する旨の『 注意書き看板 』が下げてあるのだが、連中は、全く無視し、チェーンを勝手に外し、席に付く。

 ……日本語が読めないのかもしれないが、広報では、英語やスペイン・ポルトガル語、広東語などで軽減税率については細かく説明されている。 まあ、こんな連中、広報など読まないか……


 しばらくしたら、これまた、スマホのマイクモードで喋りながら入店して来た、超・肥満体の中年女性が登場。 店内中に響き渡るような大声で、パートのシフト体制に対する不満をぶちまけながら店内を物色。 スナック菓子と飲み物を購入し、そのまま、イート・インへ。 当然、申告は無く、菓子をバリバリ頬張りながら激しくムセている。 受話モードは、マイクのままだ。 ここまで来ると一種の『 公害 』である。


 その内、今度は、塾帰りと思しき中学生の一団( 5~6人 )が、自転車でやって来た。

 ……イヤな予感。

 やはり、そのまま、イート・インへ。 自転車用のヘルメットも、被ったままである。 店内では、何も買い物をせず、トレーディングカードの品評会となった。 メッチャ、やかましい……!

 私は、我慢出来ず、立ち上がって中学生たちの所へ行くと、足元に転がっている『 看板 』を見せながら言った。

「 これを読んでみろ! 意味が分からなければ、今から説明してやる。 ここは休憩所じゃない! 税金を払って、静かに飲み食いする所だ! 」

 中学生たちは無言となり、1人が小さく答えた。

「 ……はい 」

 カードを片付け、中学生たちが店内から出て行く。

 私は、奥のテーブルでスナック菓子を頬張りながら、私の言動を凝視していた中年女性の所へ行くと、彼女のテーブルに看板を『 ドンッ 』と立て置き、言った。

「 1~2円の税金を、日本中の国民が払わなかったら、1日で、一体いくらになると思いますか? その補填分は、いずれ私たちの生活に関わって来るんですよ? 」

 多分、私の言った意味は理解出来なかったと思う。 だが、いくらかの税金を払って使用するスペースだと言う趣旨は理解出来たらしい。 スナック菓子を、そそくさとかき集め、スマホを片手に店を出て行った。


 ……南米系の一団が、私を見ている。 …そう。 次は、お前らの番だ。


 多分、女性の人は、日本語が分からないのだろう。 この状況下において、ニコニコとアメリカンドッグを頬張っている。

 『 リーダー 』的な、ヤセた男性が、微妙なイントネーションで言った。

「 オカネ、ハライマ~ス。 イクラ~デ~スカ? 」

 ……キサマ、分かってて払わなかったんだな? どうやら、日本では、余計なコトも学んだようだな。

「 俺に払っても仕方ないだろう。 レジへ行け。 多分、2~3円だ 」

 男は、レジにすっ飛んで行った。


 オーナーの男性が、私の所へやって来て言った。

「 すみません、ありがとうございました…… 従業員には、軽減税率の事も説明してあるんですが…… 」

 まあ、店側としては言い難い事だろう。 ヘタすると乱闘騒ぎだ。 店のイメージダウン=売り上げにも響く。 店とは全く関係の無い、客同士だから言えた事かもしれない。


 実は、申告しないでイート・インを利用する客について、以前、私は店側に苦言を呈していた。 たった1~2円の事であっても、金額の差ではない。 税について知るべきだ、と。

 店側は、チェーンや説明看板を設置するなど、対策を実施してくれていたのだ。

 今回の注進は、そのお礼である。 従業員にも、私の『 セリフ 』は聞こえていたはずだろう。 今後の対応に生かしてくれれば、幸いだ。


 税金の事は、良く分からない。 私も、その『 良く分からない 』人種の筆頭だと思う。 しかし、己の身に関わって来る事は、税の事だけでなく、理解しておかなければならない。 生活の『 ルール 』でもあるのだから……

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