第55話、遥かなる『 落書き 』

『 僕のSWEET HEART

  貴女のムネノ トキメキヲ

  アナタノムネニ カオヲヨセテ

  キイタアノ①ノ オモカゲヲ ナメタ②③

  ア、セツナイ 』



 愛知県犬山市に『 明治村 』と言う博物館がある。 明治時代に建てられた家屋や、橋・ビルなどの建築物を解体・移築して展示している野外博物館だ。

 移築展示している建物に、石川県金沢市にあった第四高等中学校( 現 金沢大学 )の物理化学教室があり、その講義室に、階段状に設計された木製受講机がある。

 その木製机のあちこちには、明治時代から昭和30年代に至るまでの間に『 施された 』、学生たちによる落書きが残されており、上記の『 詩 』は、その『 作品 』だ。


 落書きは、ほとんどが名前。 出身校と思われる学校名も多い。 マジックで書かれたものは、おそらく近代の落書きだと思われるが、小刀で彫ってあるものは昭和初期か、それ以前のものだろう。 鉛筆を削る為、当時の学生たちは、ほとんどの者が小刀を持っていた。 おそらく、それで『 制作 』に及んだと推察される。 上記の落書きも、小刀により、30㎝四方の範囲で『 堂々と 』彫られている。


 さて、詩の内容だが…… まあ、要するに、恋に関する心情を詠ったものなのだろう。 意味不明とも思える表現部分もあるが、最後に読み取れる『 ああ、切ない 』だけは、ストレートに心情を共有出来る。(笑)

 途中、①②③とした部分は『 解読不明 』な部分だ。 漢字なのか、カタカナなのかが判別不能で分からない。 もしかしたら、誰かが、後から彫り加えたとも考えられる。 特に③に関しては、アルファベットの『 E 』と読めるのだが、前後の文から推察しても意味不明である。


 実は、落書きがされている部分は、講義室にある受講机の表面の、ほぼ全面を占める。 全く、何も『 施されていない 』部分は、皆無と言っても過言では無い。 相当な量である。 全ての落書きを『 解読 』するには、かなりの時間を要するが、何となく、『 読み進めて 』しまう。 まさに、一世紀を超える時間を要した落書きだ。 ある意味『 有形文化財 』の域に達していると言える。(笑)


 心無い者に、最近、書かれた落書きもあるが、それは低次元・卑猥に相当する内容が圧倒的だ。 昔の学生たちは、現代の若者たちと比べ、創造性の質が違うと感じた。


 たかが、落書き。 されど、落書き。

 読んでいると、感心してしまう内容も結構にある。

 ここで学んだ彼らは今、存命であるならば、何処で何をしているのだろうか……



 *近況ノートに、その写真をUPしておきます。

  『 解読 』してみて下さい。(笑)

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