第50話、授業参観日

 先日は、娘の授業参観日だった。

 娘は小学6年生なので、小学校では最後の授業参観日となる。 前回、私が行ったのは、確か3年生だったか…… う~む… コレは、行っておかなくてはなるまい。

 有休を申請し、1時限目の授業を見て来た。


 授業は保健体育。 『 どうして病気になるの? 』が、テーマだった。

 病原だったり、生活環境だったり、体調の具合だったり…… 病気となる過程には、様々な原因がある。 それを、4人一組の班ごとで、皆でディスカッションし、意見をまとめて発表する主旨のようだ。 ふむふむ……


 生徒各自の机の上に、教科書・ノート・筆記具は無い。

 あるのは、タブレット端末が1台。


 娘から聞いていたし、自宅に持ち帰って来るので知ってはいたが、現在、娘が通う小学校は、3年生になると各自に1台、タブレット端末が支給される。

 当然、操作などは、毎日・毎時限の事。 慣れた手つきにて、タッチ画面を操作する指先に、躊躇の感は無い。 クラス全員を見渡すと、多少の操作手順の早い遅いはあるが、先生の指示に、皆、タブレットを操作し始めている。

「 は~い、では各自、ノートを作って意見を打ち込んで下さい。 共有して… 班ごとに意見をまとめ、先生の端末に貼り付けて下さいね~ 」


 ……この時点で、私はもう、ついて行けない。

 ノート… って、ファイルの事?


 端末同士でコメントデータを移動させ、全く発言が無いのは、いくら『 ご時世 』だからと言っても、さすがに問題らしい。 班のまとめとして、授業の最後に、班の代表者が立って発言をしていた。

 班の代表者は、日替わりとの事だ。 本日、娘が所属する班は、ちょうど娘本人が代表者だった。

 先生に指名され、席から立ちあがった娘……

 楽団で、人前に立つ機会も多いので慣れもあり、それなりにハキハキと発言をしていたと思う。 私としては満足だった。


 先生の質問に対し、元気に手を挙げて「 ハーイ! 」を連呼する情景……


 考えてみれば、1年生じゃあるまいし、最高学年の授業において、そんな風景はありえないだろう。 まあ、授業によっては、そんな状況を見る事が出来る場合もあるかもしれないが、私が想像していた授業風景とは、全く違う情景だった。

( 毎年、ちゃんと参加していれば、カルチャーショックも少なかっただろうに。 その点は、反省…… )


 変わったと言えば、親たちの服装もだ。

 私が小学生だったのは、もう半世紀も前だが、その当時、親たちは『 よそ行き 』の服装だった。

 父親は皆、スーツを着てネクタイを締め、母親はブラウスか、やはりスーツ姿がほとんど。 中には、年配の母親の場合だと、和服姿も見られた。 樟脳( しょうのう:楠から抽出された成分で精製された防虫剤の事 )の匂いが、教室中に充満し、授業参観日である事を再認識したものである。

 現在は、ラフスタイルが当たり前で、逆にスーツで行くと、メッチャ目立つ。 まあ、仕事途中で参加して来たお父さんは、そうなるが……

 幼稚園の時の行事は、配られたプリントに『 スーツで来ないで下さい 』とあったので普段着で行ったが、小学校になったら「 違うのかもしれない 」と思い、1年生の授業参観の日、スーツで行こうとした私だが、PTA役員をしていた妻に止められた。(笑)


 考えてみれば、先生方の服装も、現在はラフスタイルだ。

 当時… 特に、男性教諭は、スラックスに白のカッターシャツ・ネクタイがお決まりで、その他は『 ジャージ 』。 校長先生に至っては、ほとんどがダブルのスーツ( その道の方が好んで着た、縦縞模様 )。 小学生の頃、ダブルのスーツを着ている人は、どこかの学校の校長先生なのだ、と信じて疑わなかった。 更には、校長先生を退職すると、ヤクザの組長になるのだと思っていた。(笑)


 時代が変われば、生活様式・嗜好、様々なものが変化をする。

 教育現場とて、例外ではない。

 ……しかし、時代の移り変わりを、実物大で感じる事となった授業参観日だった。

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