第49話、ご近所さん
先日、住んでいるコーポの2階にいた人が、引っ越して行った。
挨拶は、無し。
全く、近所付き合いも無い場合でも、普通は挨拶があるものだ… と思う私は、おそらく古いのだろう。
『 向こう三軒両隣 』……
戦前・戦中、特高警察などが、お互いを『 見張る 』意味合いで造り出したプロパガンダ的なものだったが、戦後、それは良い意味での道徳的な解釈を持ったものに変化していった。
まあ、良く言ったものだ。
国民のほとんどが『 中流家庭 』となり、同じ生活水準、価値観の基、当然にして近所付き合いがあって然りだった。 ある意味、『 礼儀 』としての意味合いが濃かったのかもしれない。
それから、半世紀が過ぎた現在。
いつから『 近所付き合い 』は、無くなっていったのだろうか……
現在、居住しているコーポは新婚からで、今年17年目になる。
4世帯しか入らない2階建ての小さなコーポだが、入居した際は、お隣さん・2階の2世帯には『 引っ越し蕎麦 』ならぬ、『 引っ越しタオル 』を配り、挨拶に行った。 「 わざわざ挨拶に来たの? 奇特な人だねえ~ 」と言うような目をしていた住人もいたので、既にその頃から『 近所付き合い 』は廃れていたのだろう。 だが、儀式・風習が好きな私は、当然にして挨拶に行った。
町内会の班長を、17年の内に何度か経験しているが( 今年度で、5回目 )、町内会費の支払いを拒否する家庭も増えた。 月200円の微々たる金額だが、およそ半数以下の家庭しか支払っていない。 『 回覧板 』も拒否だ。 …おそらく、回覧板を、次のご家庭に廻すのが面倒臭いからだろう。
しかし、回覧板を見ないと言う事は、ゴミ出しルールの変更点や、側溝の掃除日程など、おおよそ生活に関する情報なども、全て拒否している訳である。
当然、ゴミ出しをしてはいけない日でも、お構い無しだ。 業者が来て側溝の掃除を始めても、車が駐車されている……
注意をすると、「 勝手に決めるな! 」と逆切れ。
無言で金属バットを手に、そいつの家へ乱入したくなる心境に駆られること数回。
こうして『 ご近所殺人 』は、決行されていくのだな… と、妙に納得した。
コミュニケーション不足が叫ばれている昨今だが、そもそも、自らつき合いを拒否している連中に、ナニを話しても無駄の様な気がする。
挨拶は、されて返すものではなく、お互いが、自ら率先して『 交わす 』ものだ。
自分から発する事に意義があるのだから、その真意を理解しない輩に、コミュニケーションを求めても無理なのではないか…? と、最近は思うようになった。
こういった『 輩 』は、Webでは、実に張り切って『 発言 』している。 その多くは批判・中傷、といった類であるが……
『 相手の顔が見えないから、何でも言いたい事が言える 』
この図式は、相手の表情=心情を、顧みなくても良い、と言う意図に起因している。 また、メンタルな症状を引き合いに出し、自分のせいではなく『 病気 』だから仕方ない、と言い切る者もいる。 まあ、確かにメンタル的要因が原因でコミュニケーションが不得手の方もいらっしゃるが、それは、ごく一部に過ぎない。 非常識な言動を発する者は、むしろ、健常者の方が多いだろう。 少なくとも、私が居住するコーポに、身体的な障害を有する居住者の方はいないはずである。
例え、声が出なくとも、笑顔さえあれば、それは全てに通じるものだと信ずる。
健常者でありながら、自らの挨拶が出来ない… もしくは『 しない 』者は、年齢・男女の区別なく、ヒトとして、大いに問題があるだろう。 「 面倒臭いからしない 」と言う理由からだとは思うが、ハッキリ言って、自分勝手の極地だ。
仕事に当てはめて言えば、社長・上司・得意先に対しては『 それなり 』の挨拶をするのに、同僚… 特に、部下や年下・若輩の者に対しては、挨拶は皆無となる。 つまり、『 格下 』と認知しているのだ。 『 お隣さん 』も、本人にしてみれば格下… どうでも良い存在と認識しているから、挨拶など必要ないと言う考えに到達する。
まあ、格下に挨拶が必要ないと考えている時点で、会社内での、その者の将来は無いだろう。 おそらく仕事内容も、お粗末極まりないものであると推察出来るし、社内での周知も、そうなっている事だろう。
しかし、これでは、コミュニケーションの必要性を認知するどころの話ではない。
見下された側としても、何でそんなヤツに、つき合いを求めなくてはならないのか? との結論に達するのは、至極当たり前の事だ。
挨拶は、コミュニケーションの始まりである。 それを拒否する者に、人間社会での営みにおける存在は無いと思う。
だが、こちらから歩み寄れば、心を開いてくれる者もいるかもしれない……
一途の思いに、今日も私は各家庭を廻る。 回覧板を拒否した家庭の玄関ポストに、側溝清掃のお知らせを記したプリントを投函しに……
コミュニケーションは、人付き合い。 その一歩にあるのが、近所付き合い……
いつの次代になろうとも、私は、このスタンスを変えるつもりはない。
例え、「 古い人間だ 」と言われようと……
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