第12話、『 1月生まれの赤ちゃん 』
先日、書籍が溜まった本棚を整理した。
本を捨てる事が出来ない、私……
漫画の単行本に始まり、参考の為に手にした週間雑誌すら、捨てるのに躊躇する。
かくして、数か月もすると、狭い我が家の片隅に置かれた簡易戸棚は、その許容量を完全にオーバーする。 半年に1度は、戸棚の整理をする事になるのだ。
…で、懐かしい本が、棚の奥から出て来た。
『 1月生まれの赤ちゃん 』
娘が生まれた時、自分用に購入したものだ。
発行はNHK出版。 1年間に亘り、毎月の子供の成長状況や、月々の注意点、用意すべきグッズ、お七夜・命名・お宮参り・お初め食い・一生餅などの行事例が、事細かく掲載してある。
「 そんなモン、本に書いてある通りにいくか! 」
既に、3人目・4人目を育てておられる『 大先輩方 』からは、そんな声が聞こえて来そうだ。
でも、誰だって最初は『 初心者 』だったではないか。 未知なる不安に、文献を読み漁り、サイトをネットサーフィンしたのは1人・2人ではあるまい。
当時の私は、出産後、里帰りしている妻を待つ身。 今の内に、せめて予備知識くらいはメモリ容量の少ないアタマであっても、詰め込んでおかなくてはいけないと思い、購入した本である。
臨月が近くなった頃、産院が主催したパパママ教室には勿論、参加した。 しかし、相手は『 人形 』だった。 テキトーに実技したつもりはないが、やはり『 本物 』とは違う。
それは実際に、生まれた娘を抱いてみて、実感した。
小さく、細く、柔らかく、温かい……
この、小さな命が宿る身体を守って行くのは、父親としての当然の責務。
う… うおおおおっ、自分がやらずして、誰がやる!
…不安ながら、意気込みだけはマジだった。
かくして、せめて文献の知識を吸収するしか、当時の私には為す術が無く、たった1人の『 寂しい夕食 』を済ませた後、急須に淹れた茶を飲みながら、食卓テーブルにて『 バイブル 』に目を通す毎日だった。
ページをめくると、あちこちにアンダーラインが引いてある。
赤色のアンダーラインは、必ずやるべき祭事。 青色は、出来ればやっておきたい事項…… 当時の記憶が甦る。
古事・祭事が好きな私は、愛する娘の為に、アンダーラインが引いてある祭事・行事は、古式に則り、全て行った。 まさに、本に記載されて事は、全てだ。
ちなみに、我が家には簡易式ではあるが、神棚が設置してある。 挙式を挙げた神社まで神棚を持参し、お祓いを受けたもので、いわゆる『 魂入れ 』がしてある。 本によると、命名の夜に、名付けた名前を紙に書き、神棚の下の壁に貼る儀式があるとの事。 私が、完璧にそれを遂行したのは言うまでもない。
お陰かどうかは分からないが、9歳になる現在まで、大きな病気ひとつせず、障害も怪我も無く、無事に育った。 まあ、ゲームのやり過ぎで、視力は悪いが……
本には、1年後の祭事についても記述があり、『 七五三 』の際には、大変に役立ち、参考にさせてもらった記憶がある。
『 バイブル 』は、思い出と共に、保管用本棚に移り、鎮座した。
身長・体重などの記録メモに混じり、所々、『 コメント 』が添えてある。
娘が大きくなったら、見せてやるか。
その節は、お世話になりました。 ありがとう。
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