第10話、『 硝子の花 』

 古ぼけた浅田飴のブリキ缶がある。

 手に持つと、ずっしりと重く、砂でも詰めてあるのか、と思う事だろう。

 中に入っているのは、小さなガラス製のおはじき……


 小学校低学年の頃、ナゼか、男子の間で『 おはじき 』が流行った。

 私は最初、女子のやる遊びに、どうしても抵抗感があり、参加していなかったのだが、友人が「 貸してやるから 」と数個のおはじきを手渡してくれたので、それを『 元本 』に、200個以上を稼ぎ、クラスでも上位の『 プレイヤー 』となった。


 おはじきは、元来、自分のおはじきを指先で弾き、相手のおはじきを、決められた枠外へ弾き飛ばす事にある。 相手のおはじきは、自分の物になるのだが、私の小学校で流行っていたおはじきは、完璧に『 ローカル・ルール 』。 自分のおはじきを弾き、相手のおはじきに当てたら、それで相手のおはじきが自分の物になる。

 やってみると結構、面白く、私は、休憩時間のほとんどを、おはじきに費やした。


 ガラス製の、小さなおはじき……

 色んな色があり、幼心を微妙にくすぐるアイテムだった。

 小さなおはじき10個分に相当する大きなおはじき( 直径、約4㎝ )も、数10個をゲット。 当時の、私の『 勲章 』のようなものだった。


 娘のおもちゃになるかと思い、最近、実家から持ち出して来たのだが、物を弾く経験が無い娘は、おはじきを弾く事が、上手く出来ない。

 じばらく遊んでいたが、やがて静かになったので、飽きて他の遊びをしているのかと思っていたのだが、20分くらいも経っただろうか、娘が言った。

「 お父さん、見て見て! ガラスのお花だよ? 」


 …綺麗に並べられたおはじき…

 大きなおはじきの周りに、小さなおはじきが並べられ、花のように見える。 それが、色とりどりに幾つもあり、テーブルの上を、一杯にして飾っていた。


 …親バカだろうが、中々に良い感覚である。


 少年の頃、遊んでいた玩具が、娘の小さな手によって整然と並べられた様は、どんな芸術作品を見るより感動を覚えた。


 あやちゃん、ありがとうな。

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