家族って何でしょうか?

久しぶりの実家

久しぶりの実家


6月最初の日曜日。

私は久しぶりに実家に帰った。


「こんにちは」

玄関を空け、勝手に上がる。


「あら、お帰りなさい」

妹の梨華が顔を出した。

「ただいま。皆さんお揃い?」

無意識に小さな声になって、訊いてみる。

「うん。おじさんもおばさん達も今いらしたところ」

そうかぁ。


なんだか、嫌だな。

私はこの家の親戚達がとてもとても苦手なのよね。


「樹里亜なの?」

母さんの声。

「はい。ただいま帰りました」

私は返事をして、客間の戸を開けた。



「こんにちは」

和室の客間に集まった親戚さん達に、膝をついて挨拶した。

「樹里亜ちゃん久しぶりね」

「はい。失礼してばかりで、すみません」

「いいのよ。別に」

言葉に棘がある。


今日はお爺様の17回忌の法事。

小さい頃かわいがってもらったお爺様だけに、来ないわけにはいかなかった。

でも・・・


「奥様、お茶をお出ししてもよろしいですか?」

お手伝いの雪さんが母さんにきく。

「ええ、お願いします」

ここぞとばかり、私も台所へとついて出た。


***


「樹里亜さん、どうぞあちらにいらしてください。ここは私達で大丈夫ですから」

「うん」

そう言われてもねえ。

あちらの席は居心地が悪い。


しばらくして、

「樹里亜、和尚さんがいらしたから出てきなさい」

母さんが呼びに来た。

「はい。今行きます」


さあ、嫌だけれど・・・行きますか。

客間に入ると、私は一番後ろの隅っこの座布団に座った。


読経が響き、線香の香りが立ちこめる中、私はひたすらお爺様に手を合わせた。

法要は1時間ほどで終わり、その後は宴席となった。

料亭から届いた料理を前に、みなお酒が進んでいった。



「ねえ、樹里亜は結婚しないの?」

大叔母さんが母さんに聞く。

「まだ、早いんじゃないですか?最近はみんな遅いし」

「そんなこと言ってると、このままうちの墓に入ることになりかねないわよ」


きっと、私聞こえているのは分かっているだろう。

もちろんお酒のせいもあるんだと思う。

でも・・・嫌だな。


私は黙って立ち上がると、台所に逃げ出した。


***


「お姉ちゃん、堂々としていればいいのに。すぐに逃げ出すから、また言われるのよ」

台所までビールを取りに来た梨華が、生意気なことを言う。


そうね。

それが出来れば、楽だと思うけれど・・・無理だな。


なぜなら、私はこの家の実子ではないから。

生まれるとすぐに、養女として竹浦の家に引き取られた。

父さんがアメリカ留学中に、同僚の女性がシングルマザーで妊娠し、その後末期の乳がんと分かった。

悩んだ末に、生まれた子は里子に出して欲しいと父に頼んだで私を産んだらしい。

生んだ女性は、産後すぐに亡くなってしまった。

そして、私を不憫に思った父が自分の養女として引き取った。

と言うのが、私の聞かされている話。


でも、親戚達はそう思っていない。

アメリカで父が浮気をして生まれた子供だと思われている。

だから、小さい頃からずっと嫌われてきた。



「樹里亜、ちょっと来い」

大樹が顔を覗かせた。


「何?」

「おじさんとおばさんが酔っ払って、父さんと言い合いになってる。お前の見合い話が原因みたいだから、出て行ってその気がないってハッキリ言ってこい」

お酒の入っている大樹も幾分機嫌が悪い。

どうやら、私が出て行かないと収拾がつかないらしい。

仕方なく、私は客間に向かった。


「だから、いい話なのよ。樹里亜にはもったいないくらいの。会うだけでもいいから、会ってみさせてよ」

おばさんが父さんに食い下がっている。

「樹里亜に結婚はまだ早い。余計なこと言うな」

「そんなこと言ってると、いつもでも居座られるぞ。私立の医学部まで出してやったんだから、もう十分だろう」

今度はおじさん。


うわー、入りづらい。

でも、意を決して私は戸を開けた。


***


「ああ、樹里亜ちゃん。あなた今付き合っている人はいないわよね?」

「はあ。まあ」

おばさんはあくまで強引だ。

「じゃあ、お見合いしてみなさいよ。会ってみるだけでいいから。ねぇ、いいでしょう?」

「いや、それは・・・」


「お姉ちゃん、ハッキリ言いなさいよ。黙っていたって何も解決しないのよ。何なら私が言いましょうか?」

梨華が口を挟む。


これ以上黙っていると渚のことをバラされそう。

そんなことになったらもっと大変。


「なに?お見合いできない理由があるの?」

おばさんが詰め寄る。


その時、

「いい加減にしろ!」

父さんが立ち上がった。


マズイ。

このままでは喧嘩になる。


「私、お見合いします」

咄嗟に言ってしまった。


「樹里亜」

「お姉ちゃん」

父さんと母さん、梨華の声が響いた。


「じゃあ、進めるわね

おばさんは嬉しそうに笑った。


あーあ、またやってしまった。

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