俺様な彼氏



自宅に帰り、そのまま寝室のベットに直行。

倒れ込むと同時に、すぐに眠ってしまった。

お陰で、夕方には頭痛も発熱も治まった。



午後8時。

真っ暗な部屋。


ゴソゴソと起き出して、夕食を作る。

とは言っても、魚を焼いたり、味噌汁を作ったり。

時間があればサラダも作ろうかな、


その時、

ガチャン。

玄関が開いた。


「ただいま」

それは、とても不機嫌そうな声。


「お帰りなさい」

無理して明るく言ってみたのに、

「ちょっと座って」

私に視線を送ることもなく、キッチンを通り過ぎてリビングのソファーに座る。


「でも今、夕食を作ってるし・・・」

「いいから、座って」

再び言われ、私は火を止めてリビングへ向かった。



「体調は?」

えっ、

「う、うん。大丈夫」

「熱は?」

「37度だったかな。本当に大丈夫だから。心配かけてごめんね」

素直に謝った。


ジーッと私を見つめる視線。


「昨日はどこに泊まったの?」

「・・・」


シーンと静まりかえった部屋。


「樹里?」

「・・・ごめん」

それしか言えない。


「樹里」

低い声で、強い口調。

うわー、怒ってる。


「樹里、言えよ」

そう言われても・・・


しばらく、無言が続いた。

いくら何でも、公園のベンチで寝てしまったなんて言えない。

言えるわけがない。


「もういい」

彼が携帯を手に立ち上がる。


「誰にかけるの?」

「脳外の竹浦先生」

えええー、大樹?

「馬鹿な事しないで。そんな事したら、あなたが困るのよ」

叫んでしまった。


大樹に同棲がバレたら、私はすぐに実家に連れ戻されるし、大樹の逆鱗に触れたあなただってどんな目なわされるか・・・考えただけでも恐ろしい。


「あなたは、私との生活が終わっての平気なの?」

逆ギレとは知りながら、詰め寄ってしまった。


ふー。

溜息をつく音が聞こえた。


***


「いいから、昨日どこにいたのか言え」

上から目線にかなりムカつくけれど、大樹に告げ口されてはたまらない。


仕方ない。

白状しよう。


「昨日は、少しだけ、ほんの少しだけお酒を飲んでしまって・・・」

「うん」

「マンションに向かう途中で、気分が悪くなって・・・」

「それで?」

「少し公園で休んでいこうと思って・・・」

さすがに最後まで言えなかった。


「バカヤロウッ」

やっぱり叱られた。


いつも冷静な彼だけに、どれだけ怒っているのかが私には分かる。

思わず震えてしまった。


「何考えているんだよ」

「・・・」

「何かあってからでは取り返しがつかないんだぞ」

「・・・」

「女子としての自覚と言うか、危機感がなさ過ぎだろう」

「・・・」

ひたすら俯いていることしか出来ない。


「いいか、これからは飲み会禁止」

ええ?

「無理だよ。付き合いだってあるし」

「お前が言えないなら、俺が断わるから」

そんな・・・


私達の関係は病院内でも秘密なのに、

バレたら騒ぎになるのは目に見えているのに。


「それがイヤなら、俺に黙って飲み会には行くな」

いいなと念を押され、

「はぁい」

渋々、私は頷いた。


目の前のアイスマンはやっと笑顔になり、キッチンへ夕食を取りに行く。


俺様で、自己中で、振り回されてばかりの彼・・・高橋渚。

私達が一緒に暮らし始めて、もう3年目になる。

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