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「チョコ……?」


 芳野よしの美桜は目を丸くした。

 まるで初めてその言葉を知ったかのような驚き具合に、須川怜依奈れいなはあっけにとられた。


「付き合ってるなら、用意するよね、当然」


「付き合ってる……、ことになってるの? 私たち」


 同好会活動を終えた帰り道、薄暗い昇降口でポカンと口を開けたまま静止してしまう怜依奈。思わずブーツをポトンと手から落とした。


「付き合ってるんじゃないの? 愛を誓い合った仲じゃないの? じゃあ何?」


 言われて美桜はたじろいだ。

 何故かしら目を泳がせて返答に困る美桜に、怜依奈は自分の腹の底からふつふつと怒りがこみ上げてくるのを感じていた。


「好き同士で、二人いつも一緒にいて、隠すことは何もなくて。休みの日にはお互いの家にも行くでしょ? 勉強教えてあげたり、ご飯一緒に食べたり。それで付き合ってないって言うわけ?」


「そ、そう言われると……そうね、一般的には、『付き合ってる』状態なのよね、私たち」


 美桜は怜依奈から目を逸らし、顔を赤らめた。


「信じられない。私が凌のこと好きなの知ってて、凌のこと独り占めしてるクセに付き合ってる自覚ないなんて。その分だと、凌も芳野さんと付き合ってるつもりなさそう。どうなってんの、二人とも」


 頬を膨らませ怒る怜依奈に、美桜は半笑いで返す。


「そ、そうよね。ごめんなさい。もう少し、お互いの関係を認めるべきよね」


「ホントその通りだからね! で、チョコ用意するの、しないの」


「あ、うん。する、と思う。凌が……甘いの苦手じゃなければ」


「え? そこから? どうなってんのぉ?」


 頭を抱えて下駄箱にもたれかかる怜依奈。

 美桜はただただ、困ったように髪を掻き上げていた。

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