それは、甘くて苦い――

天崎 剣

1

 二月になると、にわかに教室がざわつき始める。

 普段より男子は身なりを整え、女子はソワソワと男子の様子を覗う。


 ……バレンタインが近い。


 チョコレートを幾つ貰えるのかで人間の価値が決まる。この悪辣な習慣が、来澄きすみりょうは大嫌いだった。滅べばいい。そんな菓子メーカーと小売業者の癒着で生まれた最悪な風習などこの世から消え去れば良いと、常に思っていた。


「とは言いつつ、来澄は美桜みおと付き合ってるんだから、無条件に貰えるじゃないか。それに、須川すかわさんに貰えるのも確定なんだし、良いじゃないか」


 学校からの帰り道、肩を竦めながら歩く凌の背中を、芝山しばやま哲弥てつやがバシンと叩く。


「うるさいな。そういうお前だって二人には貰えるだろ。仲間なんだから」


 男女二人ずつ、計四人で活動している同好会。凌と美桜が付き合ってるのは四人だけの秘密だ。

 美桜とは付き合って一年近く経つ。傍目からは羨ましがられる二人だが、凌の心中は複雑だった。


 美桜と心がすれ違い始めている。

 それを、誰にも相談できずにいるなんて、誰に言えようか。


 凌は天を仰ぎ見て、虚しくため息を吐いた。

 曇天だ。

 チラチラと雪がこぼれ落ちてくる。

 空気は肌を刺すほど冷たくて、息は吐く度に白くなる。

 恋の季節なんてわけのわからないことを叫ぶ輩もいるようだが、そんな甘い天気じゃない。

 今年の冬は寒い。

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