第3話 伝聞証拠であれども・・・
昨年2月に亡くなられた社会保険労務士をされていた大先輩を、ある時、私の知人のとある元社長に紹介した。その人たちがどんな人であるかは、ここでは述べない。
事件が起こったのは、2年前の春先ごろであった。
大先輩が、元社長に呼ばれて食事をしたという。もちろんその場に、私はいなかった。この元社長、中国ビジネスに現役時代より興味をお持ちの方である。その場でも、中国相手のビジネス云々をお話されたそうな。
なお、ここで申している「中国」というのは、いわゆる「中華民国」こと台湾のことではない。というわけで、かの大陸の方の国に該当する地域のことである。
それはこの際、別にどうということでもない。
ただ一つ、私は、聞き捨てならない話を大先輩経由で聞き及んだ。
ビジネスがてらに、米河君に、中国人の嫁を紹介してやろうと思っておってね・・・。
そんな趣旨のことを言われたそうな。
何を思ってそんなことを言い出されたのかは皆目わからんが、大先輩に言わせれば、こういうお話であったそうな。
まあ、あの人は、自分のビジネスのことしか考えていないからな。これもまあ、その一環で、自分に利益があるのか、何らかの都合がいいことがあるから、そんなことでも言っておいでなのだろうが・・・。
私の怒りにまた火がついたことは、言うまでもない。
なんだか、いつぞやの巣鴨プリズン絞首刑問答みたいなことになりそうやな。
ただ今度の相手は、それなりの人物である。立志伝的な人生を歩み、一度とはいえとある長者番付に乗ったこともあるような人物なのよね。
とりあえず、話が来たら問答無用で叩き切るということだけは意識に置いておくことにした。
かくして数か月後、私のもとに元社長氏から連絡が入った。
まあ、食事でもしないか、ということだ。
それは構わない。行きましたよ。
かくして、その方にお会いして食事と相成った。
だが、以前大先輩に話しておられたという、かの話は一切出る気配もなかった。
しかしこちらとしては、どこかで言質をとるような何かを言ってこられることも想定していたので、そこは慎重に様子を伺いつつ、話していた。
どうも、そのような話になる気配はない。
だが、ひょんなことで、形勢が変わったように思えた。
こここそが攻めどころ! という機会が到来した。
少なくとも私は、そう踏んだ。
その「チャンスの前髪」をつかんだ私は、「先制攻撃」に出ることにした。
これは金輪際の私の生活と業務を維持発展させるための「自衛」である。
本当ならここで罵倒語のオンパレードとなるところであるが、かなり控えておいたことは、言うまでもないだろうが、それでもここで、あえて申し添えておく。
私が結婚しないのは、家族生活も含め、群れることをしないためでしてね。
そもそも、群れる奴はねぇ、クズですよ!
「群れる奴はクズ・・・」
相手は、私がそんな言葉を常日頃より述べている人間という認識はなかったのだろう。養護施設出身だから、集団生活とか、そういうものに親和性でもあり、家庭という者、家族というものに対して、一種の憧れのようなものを持っているとでも思っていたのかもしれない。
対手のその思い違いを、ここで完膚なきまでに叩き潰しておくことが肝要。
私は、そう踏んだ。そして、「実力行使」に出た次第である。
犬養のジジイじゃあるめえし、話せばわかるなどという戯言はわしには通用せん。
問答など無用! 即却下!
とはいうものの、暴力という名の有形力もまた、一切無用。
舌先三寸、あればいい。
それも、声高に言う必要など、ない。
淡々と、言葉を紡げさえすれば、よい。
静かに、しかし、毅然と、ね。
それで、必要十分なのである。
群れる人間=クズ
余程予想外の言葉を聞かされたのか、あるいは、私のその言葉に相当の殺気でも感じられたのだろうか?
そこはわからない。
しかしこのとき、元社長氏は、毒気を抜かれたような顔になった。
明らかに、何かのダメージを自らの心中に受けたような表情であった。
しばらく、彼の言葉が止まった。
とはいえ、相手もさすがなもの。
自らの体制を整えなおし、少しずれたところから話をつないできた。
まあ、価値観は、人それぞれだからね・・・。
確か、そんな言葉で話が再開したのではなかったかな。
いずれにせよ、そこで私の言葉に対し、いやそんなことはないのだ、なんとかかんとかと、無能の浅知恵を並べ倒してくる並の盆暗のような対応はされなかったことだけは、覚えている。
昔の私なら、そんな奴を相手にそこで向きになって相手にものを言い返すところだったが、今の私は、そんな人間との話など一切応じず、直ちに打切って踵を返してその場を立ち去るまでのことだが・・・。
とはいえ、相手はそれなりの人物であるから、さすがに、そんな対応はしなかった。もちろん相手も、ご覧のとおり、無理に当方にごり押しかけるような余地を作ろうともされなかった。
ともあれ、この後の詳しい会話内容は、一切覚えていない。
私に言わせれば、今さら結婚しろだの相手を紹介するだの、そんなものは、こちらに人間の不良債権を押付けに来るものとみなしておる。
「みなす」ということは、反証を一切認めないということである。すなわち、その部分においての問答は無用であるという意味がこもっておるのである。
ためを思ってかどうか知らんが(そういう人間はたいていそういう言葉をホザくものである)、味方面して寄りついて来ようが、そんな者共は敵以外の何者でもない。
敵意ある敵より、かかる味方面して近づく敵のほうが、余程、始末が悪い。
そんな敵対者に、問答など無用である。
わしは、債権回収専門のサービサーじゃねえ!
乞食でも、ねえ!
それだけで、十分。
話だけでも(聞いてやってくれ)?
話せばわかる?
~犬養のジジイか、オドレは?!
5分間だけ、時間をください?
~そういえば、そんな言葉を流行らせたアナウンサー、昭和末期におられたな。
会うぐらい会ってやったらどうじゃ?
~そんな無礼な相手に会う必要など、ない!
家族をもって、一緒に食事ができたら・・・(以下略)
~人の酒食のことなど、心配には及ばん!
問答無用!
とか何とか、そこまで私があの場で言った(罵倒し倒した)わけではないことは、ここでワタクシメの名誉のために、あえて申し上げておく次第である。
結局その後、そういう縁談のようなものは、その方だけでなく、どこからも入ってきておりません。
平穏かつ公然と、人間の不良債権に悩まされることなく、自らの道をしっかりと進めておりますと、ここでしっかりと申上げておきましょう。
平和というものは、このくらいしないと、守れないものなのです。
国家レベルについてもそうだろうが、個人レベルにおいても、そこはそう変わるものではないのである。
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