第4話 美少女はどこにいる?

 この部屋はエコだというのでLED照明になっている。使っている人は知っていると思うが、LEDはすぐには明るくならない。ぼおっと点いてしばらくしてから明るくなる。


 なぜそんなことをわざわざ言うのか。苺が目を覚ましたからだ。


「ふわあ、柘榴。まぶしいよ」

「天井見てるからよ。ほら、抱っこしてあげるね」


 生徒全員が柘榴を羨ましがっている。動くぬいぐるみ、しゃべる猫、よだれが出そうにかわいいのだろう。


「なんでりじちょーがいるの?」

「理事長じゃないの。そんなに偉くないの。しがない学院長だっていつも言ってるでしょ」

「どして? 学院でいちばん偉いんじゃないの?」

「本当の理事長は学院の予算と人事権を握ってるから、ぼくよりずっと偉いの」

「そっかー。雇われマダムみたいなものなんだぁ」

「的確な喩えです」

「で、なんでみんな集まってるの?」

「それはかくかくしかじか」


 柘榴がまたやってる。でも、親子みたいな二人にはこれで通じるらしい。


「なるほどー。失踪した女の子たちを探すのが先でしょねー」


 一同頷く。LEDが真価を発揮し始めた。


「警察に届けろってことかな。それはそうなんだけど、この学院に関心を寄せていただいている機関が多くてね。可能な限り介入されたくないんだ」

「公安ですか? でも、彼女たちの安全が何より重要なんじゃあ」


 棗が至極真っ当なことを言う。


「センセは安全は問題ないと考えてるんですか?」


 甘柿が訊いた。


「確信はないんだけど、"夢見"には黒いものがなくて」


 ぼくは魔法は使えないんだけど、"夢見"というある種の超能力があって、少し未来のことが夢に出て来る。水難の相がありますよ、失せ物は出てきませんよ、待ち人来ますといったおみくじかフォーチュンクッキーみたいな感じで、あまり頼りにならない。でも、自分で言うのもなんだけど、小動物のように臆病だから危険には敏感だ。


「どんな内容ですか?」


 柘榴が訊く。


「なんか無事みたいだよ。窮屈な思いはしてるようだけど」

「拘束されてるのかな。あんた、場所とかわかんないの? 学院の敷地の中とか外とかくらい」


 みかんが指先をぶんぶん振り回して追及してくる。


「すみません。わかんないです」

「ホント使えないね。配られたマスクみたい」

「中学生にいじめられてどうするんですか? ダーリン」

「センセをいじめちゃダメです。わたしはやさしい中学生ですよ」

「えへへ」

「べ、別にあたしはいじめたわけじゃないわよ。何がえへへよ! あんたがデレていいのは……」

「さて、変態とツンデレは放っておいて学院の敷地から探しません? 苺、ごめんね。起きて」


 苺はまた寝ていた。その寝顔を壁紙にしている生徒も多い。柘榴におんぶされながら失踪美少女(?)を探す。明るいと人も多いし、学院長以下、有名人ばかりだから目立ってしょうがないから、ちょうどいい。


 要所要所でスマホのライトを使って暗がりを照らす。学院長室や職員室の五階から、高等部教室に向かって旧校舎の階段を降りて行く。


「高等部ってのはぼろいって聞いてたが、想像以上だな。来年からここで勉強すると思ったら憂鬱だな」

「そんなことないですよ。このぎしぎしいう廊下とか、ヴォールトの天井とか素敵です。今から憧れます」


 みかんに甘柿が反論する。高等部生は全員、三日で慣れる、飽きる、どうでもいいと思っている。


 内部には不審な点はなかった。周囲も草藪まで見たが、異常なかった。時計を見る。もう七時半を回ってしまった。


「今日はこれぐらいにしよう。遅くまであり……」

「今日中に全部調べた方がいいよな? どうですか、先輩方」


 みかんはぼくにはツケツケ言うくせに高等部生にはちゃんと敬語使う。


「そうね。人の生き死にがかかっているかも知れないものね。——晩ご飯とお風呂を済ませてから、ここに改めて集合しましょう。もちろんもう嫌だって人はいいのよ」


 棗にこう言われると、参加しないとは言えない。有能でやる気のある先輩や上司はブラックな職場を作る。ぼくは『えー? まだやるのぉ。見たいドラマあるのに』と思っていたが、とてもそんなことを言える雰囲気ではなかった。うちの学院は全寮制、すなわち全員が寄宿舎に住んでいるから再集合は容易だ。


 二時間後、ジャージやトレーナーに着替えて再集合した。と思ったら棗は白いレースのワンピースを着ていたし、柘榴は濃紺の忍装束を着ていた。


「キャー! 棗先輩、それウェディングドレスですか? 似合ってますよ。ね? センセ」

「ああ、そうだね。似合ってるね」

「ダーリン、眼鏡したままでいい?」


 あのさ、そういう媚びるような目をしないで。学院の敷地なんだから抑えて。


「柘榴、それ忍者? カッコいいよぉ」

「へっへー。いいっしょ。なんてったって御庭番だからね。元締めのためには命だってなんだって捨てちゃうんだからね」


 こいつも目つきが怪しい。若い女の子がなんだって捨てちゃうなんて、あかんやろ。誰が教育してきたんだ?


 中等部の教室と第二職員室、その他もろもろ教科ごとの実験室や準備室のある新校舎を点検する。五階への階段の踊り場で柘榴が倒れそうになる。


「はあ、はあっ! はあ、はあっ!」

「おい、大丈夫か? マスクの上に頭巾をかぶったりするから、酸欠になったんじゃないか?」


 とりあえず頭巾とマスクを剥ぎ取る。


「ああっ! 顔を見られてはもう……」

「何を言ってるんだ! いいから鼻で吸って、お腹を膨らませて。はい、今度は口から吐いて、お腹を凹ませて、深呼吸を……」

「柘榴、ヒッヒッ、フーだよ。りじちょー、手を握ってやって」

「日田産、起きてると思ったらロクな事言わないね」


 そんなこんなで新校舎、新旧二つの体育館、体育倉庫、部室棟、大小二つのグラウンド、テニスコート等々、学院の敷地をくまなく見て回ったが手がかりはない。


「一体、どこにいるんだ?」

「美少女たち、恥ずかしがらずに出ておいで!」


 柘榴よ、ハードル上げてやるなよ。――十一時近いが寄宿舎をチェックしようということになった。みんな若いな、やれやれ。


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