第2話 少女探偵団結成!
翌日のお昼休みに四人の生徒が学院長室に集まった。まずは高等部三年きっての優等生、A組の富士川棗が眼鏡をキラーンと上げて発言する。
「ダーリンがわたくしを呼ぶということは重大事ですね」
どうしてみんなぼくのことをふつうに学院長って呼ばないんだろう。
「うん、そうなんだ。わかってくれると話が早い」
「わたくしもうれしいです。しかしながら、わたくしたちの祝言の相談にこんな人たちは要らないですわ」
優等生なのに常識の配線が間違っている。今日は強力な頭痛薬が必要だ。
「先輩、卒業前に焦るのはわかりますけど、六年間アプローチしてきてダメだったんじゃないですかぁ」
「あなた、誰?!」
「中等部二年C組の本田谷みかんです。よろしく! ガッチャンの愛人です」
三人のきつい視線が集中する。焦げ臭い。
「やめて! 君たち、焼灼魔法使わないで! 愛人なんてことないから、ほんの冗談だから!」
ガッチャンは学院長だからなんだそうだ。みかんは中学生のくせに肉付きがよくて色気が漂っている(と教員の間でもっぱらの評判だ)。そのくせツンデレでぼくにだけ態度が悪い。
「茶番も楽しいんですが、なぜわたしたちを集めたのか教えていただけますか?」
中等部一年A組、鈴木沢甘柿がぼくの目を真っ直ぐに見て言う。魔法科目の教員からは入学一か月足らずで『もう教えることは何もない』との報告を受けている。一般科目の成績も全国レベルだそうだ。その天才を活かしてもらおうという魂胆でメンバーに加えた。
「あたしから説明していいですか? 元締め」
もうなんでもいいや。豊田崎柘榴に向かって黙って頷く。
「かくかくしかじか。というわけです」
みんなびっくりして開いた口が塞がらない。
「かくかくしかじかって言えば伝わるわけじゃないです!」
甘柿がきっちりと突っ込んでくれる。
「でも、あたしが読んだ小説では伝わってたよ。……まあ、いいでしょ。こんなところで拘ってたって仕方ないよね。後輩イジメだって言われるのもやだしね、圧縮しないで言うね」
最初からそうしろってば。
「……ということで、鰺フライ定食仮説によると四人の子が危ないかもなの」
「わかったわ。悪くない報告だったわ。データをわたくしのPCに送っておいて。今日のお昼はどうだったの?」
棗が訊く。こいつの方がぼくの何倍もプロジェクトマネージャーっぽい。ぼくから答える。
「やっぱり四人とも鰺フライ定食を食べてる。目立たないように見張らせてるから」
「戸張? あいつめちゃめちゃあやしいよ。不審者だってみんな言ってる」
みかんが指摘するように、戸張は高等部一年の学年主任だが、やっぱり使えないやつだったか。
「教職員の中ではあれでもましな方なんだよ、情けないことに。……それで君たちに頼むのがいちばんかなと思って集まってもらったんだ」
頭を下げて頼む。相手が生徒だろうが、誰だろうが人にものを頼む以上は当然だ。この連中なら見返りなんかないのもわかってくれるだろう。
「役に立ったら、ご褒美が欲しいな」
柘榴にしてはまともなことを言いそうな予感がしたので訊いてみる。
「どんな褒美が欲しいんだ?」
「一回御馳走して。それとこの部屋にいつでも遊びに来ていい特権も欲しい」
「それくらいならいいだろう。会議とか急ぎの用事をやっていなければね。——他の者は何かあるか? あ、祝言ってのはないから」
うれしそうな笑い声が広がる。こんなおっさんしか居ない学院長室のどこがいいんだろう。
「祝言がないならベッドを持ち込もうかしら」と棗は物騒なことをつぶやいていた。
「少女探偵団ですね。素敵です」
甘柿が年齢相応のことを言うと、柘榴が叫んだ。
「いいえ、美少女探偵団です!」
「ないわー」
「恥ずかしいです」
「一人でやってなさい」
そこに「ほわわ~」と日向ぼっこのような声がする。会議中という掲示があったはずだが、声の主には関係ないし、咎める者とてない。
「あー、柘榴ぉ、ここにいたんだぁ」
「あ、日田産先輩!」
「苺、こっちおいで」
柘榴と同じ高等部二年A組の日田産苺は学院のマスコット、生けるぬいぐるみだ。いつも眠そうなふわふわな表情は癒しそのもの、同じ制服なのにどうすればここまでずるずるに着こなせるか学院七不思議の一つにもなっている。
柘榴の膝の上で安心したのか、すやすや眠り始めた。みんな慈愛に満ちた眼差しになった。
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