鰺フライ定食に魅せられた少女たち

第1話 美少女失踪事件

「元締め! お呼びですか?」


 いつの間にか部屋に入って来ていた高等部二年B組の豊田崎柘榴が、膝をついて声を掛ける。頭に風呂敷のようなものを巻いている。コロナ対策じゃないだろう。


「誰が元締めだよ。学院長だっていつも言ってるだろ」

「それは世を騙る仮の姿、して今回のミッションは?」


 こいつの変な設定に付き合ってても仕方ないので、用件を言う。


「うむ、最近生徒が次々と行方不明になっているのは知っているな?」

「承知しております。こう立て続けなのはあやしい、事件のにおいがすると思いまして、調べておきました」

「おう。なかなかやるではないか。で、何かわかったか?」


 柘榴は何が楽しいのか知らないが、学院長室にしょっちゅう遊びに来て、雑談をしているうちに、学院長の御庭番になりたいという素っ頓狂なことを言い出した。御庭番というのはぼくの理解するところでは、幕府側の忍者のようなもので、たぶん柘榴の認識もそんなところだろう。その親分を元締めと呼ぶのは変なのだが、逆らっても仕方ない。


 そこで(というのもいい加減だと思ったが)表立って調査できないような事案について調査や捜査に近いこともやってもらっている。


「行方不明の生徒は失踪順に、中等部二年B組の伊藤カンナ、高等部一年D組の佐々木千鶴、中等部三年C組の新島穂香の三人です。学年はバラバラですし、部活も共通点はありません」


 なかなか要領のいい報告だ。


「共通点はないのか……」

「一点だけあります」

「ほお、それは?」

「ふふふ。聞きたいですか?」


 変な笑い方をしている。基本的にこいつを変態だと思っているので、意外ではないが、気色悪い。


「ああ、聞きたいね」

「では言いましょう。彼女たちは鯵フライ定食が大好きなんです!」


 このアホと会話を続けなければならないと思うと、頭が痛くなりそうだった。


「学食の鰺フライ定食は人気メニューだから、好きな生徒はいっぱいいるだろうね」

「鰺フライ定食は人気ナンバー3です。一位はカツカレー、二位はとんかつ定食です」

「女子校なのに揚げ物好きだな。大丈夫か?」

「それ、問題発言です。動画で押さえときますから、も一度お願いします」

「——我が校は食育教育にも積極的に取り組んでいます」

「あ、ずっるーい」

「そんなことより鰺フライ定食を共通点として取り上げる意味がわからないんだよ。学年やクラスや部活に共通点があれば犯人像が絞れるって、最初は思ったんでしょ?」

「そうですね。担任教師がアブナイ人でかわいい生徒を蒐集してるとか、ね?」


 ね?っていやらしい笑みを浮かべながら言うな。


「で、どうなんだ? 実際のところ、その子たちは」

「どうって?」

「えっと。これは彼女たちの安全に責任があるから訊くんだぞ、いいか?」

「うふふ。わかってますよ」


 男は少女が好きという傾向があるのは誰しも否定できないし、それは当の少女はよくよく承知している。そういう傾きがついているから、じたばた言い訳しても仕方ない。柘榴は『わかってるわ』的なやさしい表情で言葉を続けた。


「かわいいって同級生は言ってました。お世辞でもなく、でもすごいってほどでもないみたいでした」


 少女の容姿の友だち評価なんて到底聞けない。聞き込みの能力もありそうだ。


「その点は共通点にはなりにくいか」

「タイトルは美少女失踪事件で惹いておくとしても、ですね」


 誰に向かって言ってるんだか。——うちの学院は美少女ばかりと言ってもいいくらいだ。いわゆる魔法少女、将来の魔女、ひいては美魔女なんだから綺麗なのは当たり前だ。そう、当たり前なんだけど、入学試験の面接の時に、小学六年生の子の魅力と魔法力がかなり相関してるのをまざまざと見せられて毎度驚く。


「ふむ」

「だから、鰺フライ定食なんです。彼女たちは友人の知る限り、毎回そればかりだったそうです」

「……他のは食べない?」

「食べません。他も調べたんですよ」

「調べた?」

「鰺フライ定食を続けて食べてる子が他に何人くらいいるのか。この三日間ですけどね」


 ちょっと感心した。こいつの脳はアホと優等生がヒョウ柄になってるに違いない。


「で、どうだった?」

「四人いました。これって――」

「うん、要注意だな。確かに」

「どうしましょうか?」

「一人じゃ無理だろ。四人を護衛するなんて。明日のお昼休みに優秀なのを集めておくよ」

「えへへ、あたしはいちばん優秀ってことですね」

「見方によってはね」


 無理やり言わされてしまった。



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