第2話 過去を撮らずに何を撮るんだよ。

未来フィルム3

レシートのようなその紙切れには

「ミライフィルム」

と言う馬鹿げた商品名の下に

「この商品は未来を見る為のものです」

という書き出して始まる短文が鎮座していた。


****

この商品は未来を見る為のものです。

写真とは過去をありのままに写すものです。

しかし、過去を見ているだけでは退屈をしてしまわないでしょうか。

そんな退屈も生活にこのフィルムとカメラがあれば一気にロマン溢れる生活になるに違いありません。

このフィルムは撮った対象の未来の姿を写します。

下記の注意事項をよく読んだ上で、ご利用ください。


〜注意事項〜

1必ずしもその未来になるとは限りません。(その未来になる確率は75%程です)

2何年後、何ヶ月後などのその未来がやってくる時を明確に知ることはできません。

3未来を見たい対象を間接的に撮ってもその未来を見る事はできません。(例:PCの画面に写したもの)

4未来がどんなものであれ当社は一切責任を持ちません。

5付属のカメラの製造元ローライ社は当社の製品と一切関係ありません。


20xx年 7月7日 有限会社ツークンフト


***


正確さ75%の未来。

いつ起こるか分からずじまいの未来を見る。

対象を被写体としてしっかりと撮らなければならない誓約。

ローライ社との関係性の無く、未来の行き先について責任を取らないツークンフトという会社。

胡散臭さ抜群の内容だ。

過去にだって歴史のロマンがあるだろう。

しかも、僕はこの生活に退屈などしていない。

僕はミライフィルムとらやを嘘八百だろうとは思いはしたものの、ほんの少しの興味が心を揺さぶっていたので小さなカメラボディにフィルムを入れ、フィルムを巻いたあと、空シャッターを切り、ファインダーからユキの笑顔を覗く。

「パシャリ」

ついでに

「パシャリ」

と、ここアパートの3階から見える街も写した。

このアパートは高台に位置しているので結構見晴らしがよく、ビルが立ち並ぶこの街を一望できるのである。

この見晴らしに魅力を感じてこのアパートにしました、なんて理由を言えばいいのだろうが(そうだろうか)実の理由は家賃がとても安いからこのアパートにしたのだ。

なんせ僕は学生だからね。


フィルムカメラは小学生の頃、親父が使っていたのを見様見真似で使って以来、使ったことは無かったのだが、案外昔染み付いた記憶は消えてないようであった。

親父元気にしてるかな。


ちょうどその頃ユキが朝食を作り終え、黒焦げになった卵焼きとトースト、ユキお手製のスープを堪能した。

僕たちの傍らのテレビから話すニュースキャスターは、どこか遠くの国で起きた震災を報道していた。

「可愛そうね……」

ユキはそう一言そのニュースについて言った。

「そうだね。でも地震大国と言われる日本でもここ何十年と大地震は起きてないから何だか他人事みたいに思ってしまうよな」

そういった僕の顔を見るユキの顔はどこか不安げだった、ように思えた。



僕はその後、ユキのバースデーケーキを買いに街へ出た。

そのついでに写真の現像もしてもらおうと近くの写真屋に行き、慣れない口調で現像を頼んだ。

現像オーダーでは、「雰囲気」「明るさ」「鮮やかさ」「色味」の4つを覚えておくといいと写真屋のお姉さんが言っていた。

雰囲気には

 さわやか

 やわらかい

 力強く


明るさには

 明るめ

 標準

 暗め


鮮やかさには

 高彩度

 標準

 低彩度


色味には

 暖色

 標準

 寒色

があるらしい。

当然僕はフィルムカメラはほぼ初心者なので、こんな感じでと雰囲気を伝えて現像をオーダーした。

スマホでこんな感じの写真にしたい、と言ってスマホで参考になる写真を見せてのオーダーも出来るらしい。

写真屋スゲー。


現像には1時間ほどかかるとの事なので、僕は写真屋を後にし、清々しく澄んだ青空の下、弾んだ足取りでケーキ屋へと行く。

初めてこの街に訪れたのは高校入試のときだった。

離れた所から受験しに来た僕は、ちょうど今歩いているこの大通りで迷子になりかけたのを覚えている。


ケーキ屋に着き、ショーケースを覗く。

ショートケーキにロールケーキ、ガトーショコラにフルーツタルト。

ショーケースの中には沢山のケーキがこちらを甘い誘惑に誘うかのように陳列されていた。

その傍らには

「カップルに大人気!! 愛爆発のアイスケーキ!! 」

と書かれた広告が貼られていた。

一瞬買おうかと悩んだが、買って帰ったら100%ユキにイジられるだろうと思い止めた。

あと、片手サイズのくせに一万円というボッタクリ価格だったし。

「ユキの好きなやつでいいよね」

ユキの好きなケーキを買おうと思った矢先、僕は重大なミスに気づいた。

ユキの好きなケーキを知らなかったのである。

とにもかくにもユキに電話をかけて好みのケーキを知る必要がある。

「プルルル……プルルル……」


「プルルル……プルルル……」

何度コールしてもユキが出る気配がない。

「プルルル………お客様のおかけになった電話は……」

悪寒が全身を駆け巡った。

そんなはずは……!

もしかして、ユキもマキさんと同じように……!

もう一度ユキの電話張を開く。

「y#-k?%」

ユキの文字が文字化けしていた。

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未来フィルム 景浦 為虎 @kohakumameculb

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