第29話

「まあ、いいからはいってはいって」

「そんな自分の家みたいに……」


【有栖ちゃんお誕生日おめでとう!!】


  ——パンッ——パンッ!


「有栖ちゃんお誕生日おめでとう」

「宮本、誕生日おめでと」

「有栖さんおめでとうございます!」

「有栖おめでとうございマス!」

「有栖……大きくなったなぁ……」

「有栖さん誕生日おめでとう」

「初めまして……それとおめでとうございます」


  有栖がドアを開けるとほぼ同時にクラッカーとみんなから祝福の言葉が投げられる。


「え、え」


  暫く理解が追い付かないと言った感じで辺りをキョロキョロ見回している。


「オレからも言うの遅れてごめん、誕生日おめでと」

「みんな、ほんとにほんとにありがと……わたしの為にこんな盛大に祝って貰って……こんな事、初めてだから嬉しくて……」


  嬉しくて泣き出してしまった有栖をなだめるように優しく頭を撫でる。


「とりあえず、サプライズ大成功という事で!コップを持って、カンパイ!」

「カンパイ!!」


  全員が元気よく声を合わせてのカンパイが終わり、各々が会話や料理を楽しみ始めているがまずは有栖にプレゼントを渡さなければならない。


「あ、有栖……!」

「ん、何?」

「有栖ちゃん、はいプレゼント! 私からはハンカチをプレゼントします」

「わー、美夜ちゃんありがと! 大好き!」


  ちょ……今オレが言おうとしたのに……しかも大好きだなんてオレが言われたいのに!

  よし、今度こそ!


「有栖……!」

「宮本。これ、ガトーショコラ作ってみたんだが良かったら食べてくれ」

「稲畑くんまで! いただきます! んー美味ひぃ……ありがとね!」


  てんめぇ……またまた邪魔しやがって!

 有栖も有栖だ、さっきパンケーキ食べてきたのに一瞬で……。


「有栖!」

「有栖さん、お兄ちゃんがいつもお世話になってます。感謝の気持ちとお祝いの品です。面白みないかもですけど髪に付けるリボンです」

「詠ちゃんもくれるの!? こちらこそ詠ちゃんのお兄ちゃんにはお世話になってます! 全然そんな事ないよ! どう? 似合うかな?」

「はい! 凄く可愛いです!」


  おい詠、お願いだからお兄ちゃんの邪魔しないでくれ……それと、リボン超似合ってる。


「有栖さん、まだあまり話した事がないけど今日はお誕生日おめでとう。私とりくとから手作りのキーホルダー」

「姉さんが一生懸命作ったので貰ってあげてください」

「双葉先輩ありがとうございます! りくとくんもありがとね! 鞄に付けるね!」


  もういいや……全員終わるまで待とう……。

  ふいに肩を叩かれて振り向くとお義父さまが居た。


「お、お義父さま!?」

「お義父さま!? それより君は有栖に渡したい物があるんだろう、渡さなくていいのかい?」

「で、でも先にご挨拶を!」

「後でゆっくり聞かせてくれればいいから先に行ってきなさい」


  なんて優しい人なんだ……イカついけど。


「ありがとうございます!」


  お義父さまに感謝して、今度こそ邪魔されないように有栖の肩を両手で掴む。


「な、何……?」

「有栖!オレからもプレゼントがあるんだ!」

「え、壮馬くんからもあるの……?」

「当たり前だろ! とりあえず開けてみてくれ」


  プレゼントの入った袋を渡し開けさせると、ハッと驚いたように目を丸くする。


「これって……さっきのお店の指輪……!?」

「う、うん、みんなは前からプレゼント用意してたんだけど、オレ有栖が本当に欲しい物をプレゼントしたくて直前まで探してて最終的にそれを有栖にあげたいと思ったからさ」

「でもこれ高かったでしょ。ほんとにいいの?」

「結構高いっちゃ高かったけど店員さんが負けてくれたから平気だよ。是非有栖に貰って欲しいんだ」


  せっかく無理して買ったんだから不要な心配はさせたくないと、オレは嘘をついた。

  まあ、負けてもらったのは嘘じゃないからさ。


「嬉しくない?」

「ううん、世界一嬉しい……!」

「マジで!?」

「うん!」

「ぃやったぁあ!」


  あまりの嬉しさに奇声に近い声を出して飛び跳ねてしまった。大袈裟でもなく、本当の話。


「ちょっとその指輪ここではめてみて欲しいんだけど……」

「壮馬くんにはめて欲しいな。なんて」

「それは反則だ……」


  あまりの可愛さに卒倒しそうになるのをなんとか堪えて恥ずかしさを振り切り、有栖の薬指に指輪をはめる。


「ありがと……今度は結婚指輪がいいな!」

「なっ! ま、まだそういうのはオレらには早いから!」

「冗談だよ」


  と、クスリと悪戯そうに笑っているが、オレからしたらたまったもんじゃない。いつか本物をはめてやるから覚悟しとけ。


「あ、お義父さまとお義母さまにご挨拶しないと! 有栖も来てくれると嬉しいんだけど……」

「いいよ一緒に行こっ! そんな硬くならなくても大丈夫だよ、普段からパパとママには壮馬くんの事話してるから」


  有栖が着いてきてくれれば多少は緊張もほぐれる。

 それに普段からオレの話が出ていると聞くとなんだか照れくさいな……。


  でも、オレの家に有栖が来た時なんて有栖の話で持ち切りだしお相子か。相思相愛って感じがしていいな……ふへへ。


「お義父さまの方は既に話したから大丈夫なんだけど、お義母さまの方がまだちゃんと話せてなくて心配なんだよね」


  さっきからたまにチラチラこっち見てるのは分かるんだが、ここに来てからまだ一言も話せていないという気まずさで目を逸らしてしまっている。


「ママも気さくで優しいよ! ちょっと日本語カタコトだけど」

「そうでスよ! 何も気にする事なんテないんですよ! ワタシ達は二人が幸せならそれでOKなんデすかラ!」


  突然後ろから抱き着かれた事に驚き、咄嗟に飛び退いてしまう。


「うわ……っ!」


  いや、こんな驚き方失礼か。


「失礼しました、取り乱しました。いらっしゃったんですね、それにOKってマジですか!?」


  結局お義母さまの発した言葉を理解した瞬間嬉しさのあまり再び取り乱してしまった。


「本当だよ、娘が選んだのだから僕達が決める事じゃないさ」


  お義父さまイケメン過ぎるだろ……! え、てかこんなにあっさり受け入れて貰っていいのか?

  勿論受け入れて貰えるに越したことはないんだが、これじゃあっさりし過ぎているというか、想像してたより世界って優しいんだな!


「でも普通のお父さんとかって、『何処の馬の骨かも知らんやつに娘はやらん!』とか『帰れ! お前みたいなチャラついた男はどうせ他の女にも手を出しているんだろう!』とか『二度と顔を見せるなクズが!』って感じで理不尽にいびられるものだと覚悟してきたんですが……」

「壮馬くんマゾ過ぎ……!」


  お前のせいだろ、それに嬉嬉として言うな。


「それはドラマの見過ぎですよ! ねぇアナタ、しかもこんなにかっこよくていい子じャないですか。否定のしようがないですネ!」

「ああ。いい人を見つけたね、有栖」

「うんっ……! ママもパパもありがとう」


  有栖の最高に輝いてる笑顔も見れたし、御二人から了承も貰えたし、これで気兼ねなく付き合える。最高の気分なんだぜ……!


「じゃあ他の友達もあっちで待ってるし、ケーキを切ろうか」


  光栄にも、有栖の誕生日ケーキ切り分け係兼司会になった。

  切り分けとか雑用なのに嬉しく感じてるとか身も心も調教されてるんだなってしみじみ思うわ。


「改めて、有栖の誕生日を祝してハッピバスデートゥーユー!」

「ハッピーバースデートゥーュー!」

「ハッピーバースデーディア有栖!」

「ハッピーバースデーディア有栖!」

「ハッピーバースデートゥーユー!」

「ハッピーバースデートゥーユー!」


【おめでとう!有栖!】


「みんな、今日はほんとにありがと……! みんなのおかげで世界一幸せな誕生日です……っ! 一生忘れないね!」

「何言ってんだ、これから毎年積み上げていくんだよ」


  相変わらず翔吾はキザな事ばっか言って、てかそれオレも言おうと思ったんだが!?


「じゃあ、みんなこの調子で楽しみましょう!」


「はぁ……疲れた」


  一人部屋の隅で羽を伸ばしていると、翔吾がニヤニヤしながら近付いてきた。 


「よ、お疲れ様」

「ちょっと一人にしてくんない?」


 自分でも分かるウンザリしたような声でダルさをアピールするが聞く耳も持たず、普段通り会話を続けてくる。親しき仲にも礼儀あり、だろ? 有栖の前では元気な顔してないといけないんだから少しは休ませてくれよ。


「固いこと言うなよ、というか本当にこの家広いよな。朝来た時驚いて暫く緊張解けなかったよ」

「あー、オレも驚いた。デカすぎる」

「そう言えばエミリーさん達と話してる所聞いてたけど、今すぐ結婚するでもないのに張り切り過ぎじゃないか? もう少し肩の力抜けよ、まだ付き合ってる段階なんだから」

「うるさいなぁ」


  確かに翔吾のアドバイスは的を射ていると思うが、いざその状況になると気持ちが高ぶってしまうんだから仕方がないだろ。


「オレの話はいいけど翔吾は美夜ちゃんとどうなんだよ?」

「……特に何も」

「そうか」


  オレの予想だと翔吾が風邪をひく前に多少の進展というか、何かしらイベントはあったはずだし、両思いのはずなんだけどなぁ。


  美夜ちゃんは好意丸出しって感じだけど翔吾が奥手だからな。自分から言ってくるまではこっちから踏み込むわけにも行かないけど、オレの時翔吾が助けてくれたみたいにオレにも何かしてあげられる事はないのかな。


  少なからず翔吾のおかげで勇気を出せたわけだし、憎まれ口を叩こうが大事である事は変わらないんだよね。


「一応聞くけど土曜のデートの後家帰ってないよね?」

「……っ!? いや、帰ったが!?」

「分かりやすくて助かるよ。これ以上は追求しないけど、何か相談したくなったら一応恋愛の先輩として相談に乗ってあげるから言えよ」

「でもお前まだ童貞じゃん」

「うるさい」

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