第28話

「有栖まだかな?」


  おもむろに公園の時計を確認するも、まだ約束の時間には程遠い。

  今日は有栖の誕生日なので何一つ失敗するわけには行かないので、30分前に待ち合わせ場所に来るのは当たり前だ。おかげでかなり暇だけど。


  俺の役目は有栖とどこかしらでデートをしてから有栖の家までエスコートする事だ。

  翔吾達には有栖が家を出た後、有栖宅の飾り付けをお願いしてある。

  飾り付け中は家に行かせないように、終わったと連絡が来るまで時間を稼ぐ必要がある。


  暇過ぎるのでひたすらブランコを漕いで時間を潰していると、ようやく可愛く着飾った有栖が待ち合わせ場所である公園にやって来た。


「有栖、こっちだ!」


  こちらに気付いていないようなので声を掛けながら駆け寄る。


「あ、壮馬くん! どうもこんにちは!」

「どうも! その……服めちゃくちゃ似合ってる!」

「あ、良かった……! 久しぶりのデートだから可愛いって思って欲しくて色々試行錯誤してたんだ」


  どんな格好しててもめちゃくちゃ可愛いに決まってんのにそんな事言われたら……。


「うぅ……」

「どうかしたの……?」

「可愛い過ぎだろ。ああ、有栖、有栖、どうしてあなたは有栖なの?」


  今すぐ誕生日おめでとうって祝いたい!

 外じゃなきゃ今すぐ強めに抱き締めたい!


「名前の由来?」

「いや、なんでもない」

「そう?」


  やや不思議そうな顔をしながら流してくれる。


「とりあえず今日はオレがエスコートするよ!」

「うん、お願いします」

「あれ、いいの? エスコートされるの嫌いじゃなかった?」

「わたしが嫌いなのはリードされる事だよ?壮馬くんにエスコートして貰えるなら凄い嬉しい」

「そっか。とりあえずオレについてきて」


  今日のデートの行先は前もって決めてあるのだ、公園から有栖の家までの間を有栖が来たと思われる道とは逆方向からグルリと一周するように考えてきた。

  他愛もない話をしているうちに一件目に到着した。


「一つ目に着いた」

「カフェ?」

「その通り」

「だから朝ごはん食べないで来てって言ったんだね。こんな所にカフェがあったなんて知らなかった!」

「オレも来た事なかったんだけど、口コミで人気らしいよ」


  実はここには昨日一人で下見に来ている、味も内装も店員の対応もばっちりだ。今日は失敗できないから下調べくらいはしておかなくては。

  とりあえず入店して席に着く。


「お店の中凄くオシャレだね、綺麗ー」

「だよね、こんな綺麗なんて驚いたわ。有栖は何頼むか決まった?」

「わたしはパンケーキと紅茶にしようかな」

「んじゃ、オレもそれにしようかな」


  有栖と同じセットを頼んで届くのを待った。 


「わあ……美味しそう……!」


  目をキラキラ輝かせてほんと可愛い。女の子はやっぱ甘いもの好きなんだね。


「美味そうだね!」

「「いただきます」」

「ん〜美味いぃ……」


  あー、パンケーキ頬張ってる有栖可愛い。食べる前に写真撮ったりしない所上品だし、別に撮る人の事を馬鹿にしてる訳じゃないが。

  ちなみにオレはパンケーキを食べてる有栖の写真を撮りたい。


「ん? 壮馬くん食べないの?」

「あ、いやもちろン食べるよ!」


  有栖に言われて焦って手を付けたが、朝から甘々なパンケーキはわりときついかもしれない……。


「大丈夫? 食べ切れる?」

「食べさせてくれたらなんとか」


  どさくさに紛れて甘えていくのを忘れない。


「えー、しょうがないなぁ……もう」


  なんだかんだ有栖ってスイッチが入るまでは激甘なんだよね。スイッチが入ったら誰にも止められないけど。

  有栖に食べさせて貰って完食、次の店へ向かう。


「次はここだ」

「雑貨屋さん?」

「そうそう、ここ友達から聞いたんだけど掘り出し物とか結構あっていいんだってさ」

「なるほど。雑貨とか好きなの?」

「いや全然」

「正直だね……じゃあなんでここに連れてこようと思ったの?」


  有栖は苦笑いを浮かべながら不思議そうに聞いてきた。オレが好きじゃないのに来た理由と言ったら、そう幾つもない。


「有栖が前に好きって言ってたの思い出したからだよ、それにエスコートって自分の行きたい所に連れてくわけじゃないじゃん」

「覚えてたんだ……嬉しいな……」

「そ、それはいいからはやく入ろうぞ!」

「うん!」


  あまりの可愛さにドキッちゃったので、恥ずかしさを誤魔化すように催促したせいで喋り方がおかしくなった。


「結構色々あるんだなぁ」

「そうだね、可愛い雑貨多くて見てて飽きないよ」

「なんか欲しいのあるの?」

「うーん、これかな」


  有栖の指したものを見ると、至ってシンプルな銀の指輪だった。


「なるほど。ふ、ふーん……?」

  有栖の前なので平静を装っているが、オレとのデート中に指輪が欲しいだなんて……そ、そそそそれってつまり……! つまりそういう事なのか!? 何故かずっとこっち見てるし……!?


「と、とりあえず試しに付けてみたらどうだ?」

「そうだね、ん……どう?」

「よ、よく似合ってると思う」


  どうした、比嘉壮馬! 軽いノリだけが取り柄だろうが! こんな事で動揺するな!


「でも結構高いし辞めとこうかな……」

「そ、そうか」

「ちょっとオレトイレ行ってくるわ」

「うん、行ってらっしゃい!」


  その間もずっと物欲しそうに指輪を眺めている。

 オレはそっと指輪を1つ持ってトイレに向かうフリをしてレジへ向かった。


「これお願いします」

「6240円になります」


  内心高いと思いながらも有栖の為ならと割り切り、6240円を支払う。


「プレゼント用ですか?」

「あ、はい!」

「あちらの彼女さん用にですか?」


  やたらグイグイ聞いてくるなこの店員……って、有栖にオレが何か買ったの見られてるし!?


「まあ、そんな所です……」

「じゃあ少し割引して……6220円でいいですよ」

「本当に少しだな! あ、いや、すいません。ありがとうございます!」

「ありがとうございましたー!」


  なんかさっきの店員さんドヤ顔でやり切った感出してるし、いや20円でも引いてくれただけいいけどもせめて区切りよく40円引いて欲しかったかな。


「壮馬くん、何か買ったの?」

「ちょっとな、有栖はもういいなら次行くけど」

「わたしはもう大丈夫だよ」


「最後はここだ」


  最後に連れて来たのは有栖の家だ、少し前に翔吾から準備が完了したと連絡が入ったので様子を見ながら連れてきた。

  ていうか有栖の家でけぇ。


「え、わたしの家!?」

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