第27話
あれから数週間が経った日曜日、今日、7月7日は宮本有栖の誕生日だ。
有栖の家で有栖の誕生日を祝うパーティーを開く事になっており、これから有栖の家へ向かうところだ。
俺、美夜、壮馬、詠、有栖は勿論、双葉先輩や双葉先輩の弟であるりくとも呼んで盛大に盛り上がる予定となっている。
壮馬や有栖と双葉先輩が面識があった事すら知らなかった、有栖は顔が広いから別に驚く事でもないか。
予定の時間は午前10時と、わりと早めだ。
それぞれがプレゼントを買い込み、壮馬はテンションガン上げで一大イベントと言わんばかりの張り切りっぷりだった。
壮馬が有栖をデートに連れ出している間に有栖の家で俺達が装飾を済ませ、そこに壮馬と一緒に帰ってきた有栖を驚かせるといったプランで、いわゆるサプライズというものなのだが初めての経験で少し緊張している。
だが本当の大役は壮馬の方で、装飾兼クラッカー係の俺は特に緊張する事なんてない。
壮馬の張り切りっぷりが空回りして失敗しないかどうかだけが心配だ。
「有栖の誕生日会失敗させたらオレ腹切るわ」
「そんな血みどろの誕生会誰も喜ばないから辞めてくれ」
「じゃあどうすればいいンだよ!」
「失敗してもどうもしなければいいだろ」
「それもそうだな」
ということがあり、本当に腹を切ったりはしないだろうが、そのくらいの気持ちで挑むつもりらしい。有栖の事好き過ぎだろ、ただの誕生日だってのに……と色々考えているうちに有栖の家に着いた。
「で、でけぇ……」
あまりの家のデカさに開いた口が塞がらない。俺も有栖の家に来るのは初めての事で実はかなり緊張しているのだが、驚くのもそのはずだ。パッと見俺の家の2倍くらいデカかった。俺の家も普通の家よりは大きい方なのだが、それの二倍ともなると圧巻だ。
比較的新しい家造りでガレージまである、今度こそ本当に執事かメイドさんでも居るんじゃなかろうか。てかみんな家デカくね?
「と、とりあえずピンポンしないと……」
深呼吸して緊張をほぐし、インターホンを押す。
——ピンポーン
「oh……有栖のオトモダチですか?」
カタコトだが、優しそうな声が聴こえてきた。多分有栖のお母さんだろう。まさか有栖がハーフだったとは知らなかった、確かに有栖って日本では珍しい名前だしな。
「は、はい……誕生会の準備を手伝いに来ました!」
「じゃあ、スグ開けますネ!」
「は、はい」
わずか十数秒で有栖のお母さんと思われる金髪美女が出て来た。有栖のお母さんって事はそれなりに歳はいってるんだろうが、それを感じさせない若さがある。
「oh……! 来てくれて嬉しいデース! アナタのお名前は? おっと、先にワタシが名乗るべきデしたね! ワタシはエミリー・宮本です!」
「えっと、稲畑翔吾と言います。有栖さんとはいつも仲良くさせてもらってます」
「そんなかしこまらなくていいですヨ。今日は有栖の為ニ来てくれてありがトウ! 他の子達も来てますヨ! 入って入って!」
「いえ、とんでもないです。あ、お邪魔します」
エミリーさんの勢いにだいぶ押されながら有栖の家に足を踏み入れる。玄関の広さや綺麗さから分かる高級感。きっと毎日のように丁寧に掃除されているのだろう。
「アナタ! みんな! 翔吾さん来ましたよ!」
「君が翔吾君か! いつも有栖がお世話になっていると聞いているよ、僕は有栖の父親の宮本和雅だよ。何卒よろしくね」
「は、はい。機会があればお願いします」
和雅さんめちゃくちゃイカついのに凄い律儀な上に優しい声だなぁ。
「あ、翔吾いらっしゃい。はやく上がって手伝って」
既に来ていた美夜が、ちょこんと顔だけ出して催促する。
「美夜も先に来てたんだな、普段は遅いのに」
「有栖ちゃんの誕生日なんだから当たり前でしょ。いつまで玄関にいるつもりなの?」
さすが有栖の親友。俺との待ち合わせの時もはやく来て欲しいんだがなぁ。
「分かった分かった! それじゃ改めてお邪魔します」
和雅さんとエミリーさんに笑顔で見守られるとなんだか凄く気まずい……。
「はーい、入って入って」
「お前は随分とこの家に溶け込んでるな……」
「無礼講でって言われたので」
「無礼講って以前に……完全に住人だなっ!?」
適応力の高さに絶句した。本当に少し前までの美夜とは完全に別人じゃないか? 俺はさっきまでガチガチに緊張してたってのに、その図々しさが羨ましいわ。
だが、美夜のおかげでさっきと比べてかなり緊張もほぐれた。まるで実家のような安心感だ。
「おお、もう壮馬以外は皆来てたんだな」
「翔吾が来るの遅いんだよ?」
「ちゃんと言われた時間の五分前に来たんだが……」
「あはは……それだけ有栖さんの誕生日が楽しみだったんじゃないかな? おはよう翔吾」
さすが詠、上手くまとめてくれた。
美夜以外は挨拶がまだなので一人ずつ挨拶をかわす。
「ほら、翔吾もこれそっちに付けてきて」
既に出来ている飾りを付けていくだけのはずだったので油断していたが、こうも家が広いと飾るだけでも大変そうだな……壮馬も居ないので男手も少ないし、その分俺が頑張っていい所見せてやらないとな!
「翔吾ー、これ届かないんだけど!」
双葉先輩に呼ばれて駆け付けると、かなり高い位置に輪っか状の折り紙を繋げて通したものを飾りたいらしく、必死に手を伸ばしていた。
「どこら辺に付けたいんですか?」
「天井の少し手前」
「いや、天井はさすがに無理だと思いますよ」
高級住宅だけあって天井もかなり高いので普通に届かないだろう。
「だから手前なんじゃん!」
「君達、これ使うかい?」
和雅さんがどこからか脚立を持ってきてくれた。
「ありがとうございます! これで多少背伸びすれば届きそうです」
「なに、気にする事はないよ。じゃあ僕は妻の料理の手伝いをしてくるから後は頼んだよ」
そう言って、台所と思われる方へ消えていった。
「ね、翔吾。脚立あるなら私でも届くかも」
「そうですね、頑張れば届くかも知れませんね」
「じゃあ試してみるから貸して」
「いいですけど気を付けてくださいよ?」
「転んだりしないわよ」
よいしょと可愛らしい掛け声で脚立に立つと少し身長が足りない。
「惜しい!」
「背伸びすれば届くから! んーっ、ほら、届いたでしょ?」
「危ない……っ!」
「え、ひゃっ……」
背伸びした弾みに脚立が揺れてバランスを崩した先輩が脚立から落ちる。支えようにも間に合わない。
咄嗟に思い付いた策はとても捨て身で、先輩の下敷きになる選択だった。自分が傷付いてもちゃんと先輩を守るなんてとても素敵でしょ……?
「いってぇ……」
先輩なら軽そうだし柔らかそうだから痛くないとか思ってたけど、やっぱめちゃくちゃ痛かった。当たり前だけど。
でも今のこの状況は意外に悪くないかも。
先輩と密着した状態で先輩の肌の感触が……っ!
「わっ! ごめん! 重かったよね!?」
「これが命の重みだと思えば全然……いや、わりと重いかも」
「重いとか言うな!」
——パチン!
「理不尽……」
「いつまで騎乗位してるんですか、人手不足なんですから仕事してくださいよ」
今日初めての会話が騎乗位してるんですか。とか昼夜問わず下ネタぶっ込んで来るなんて、りくとくんは流石だなあ。そういえば居たんだったなあ、この子。
さっきまで大人しくしていたので気付かなかった。
「てか少しは労わってくれない!? 痛かったんだかんな!」
「助けてくれたのにさらにビンタまでしちゃってごめん……」
「もういいですから泣かないで!」
「姉さんを身を呈して守ったのはよくやりました。さあ、次の仕事が山積みですよ」
「鬼か……」
「翔吾ー、こっちもお願い」
開始早々あんまりだよ。
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