第24話
「なるほど、それで……それであんな事になったんだね……」
まだ照れているのか顔を合わせようとしてもこちらを見てくれない。
「辱めるような真似して悪かった。それより顔赤いけど大丈夫か?」
「あんな事されたり言われたりしたら当然だと思うよ」
「でも、まだ凄い赤いぞ? おでこ出して」
先刻の出来事から事情を説明している間に5、6分立っている。にも関わらずまだ顔は真っ赤だった。
もしかしたら詠にも熱が出ているかもしれない。
詠の頬を両手で抑え、おでこを合わせる。
「え……? 何して……!?」
「やっと目見てくれた。熱を計ったんだ、こんなやり方でごめんな……赤いわりにあんまり熱くないみたいだ」
「それは翔吾が熱あるからだよ! それに嫌なんて言ってないし、恥ずかしかっただけだもん……!」
これがツンデレというものなのかな?
違うにしても可愛いくてとても癒される。
「そうか、詠は相当照れ屋なんだな」
「うるさい……とりあえず翔吾はお布団入ってて、やれる事するから」
「それは助かる」
正直動くのもままならないので俺の代わりに何かしてくれる人がいるだけでとても心強い。
「それ目当てだったんじゃないの?」
「それもあるが、一番は誰かに一緒に居て欲しかっただけだ。今日は詠が来てくれて心強いよ」
「なんていうか、今日の翔吾は素直だね」
「普段からあまり隠し事してるつもりはないんだけどな」
「でもよく考え事したりしてる気がするよ?」
俺が一人で考え込むのには理由がある、良く考えずに適当な事を言って相手を傷付けない為。
それと、会話だけだと尺が余りすぎるのと今日に限っては頭があまり回らない。
「ほら、また今何か考えてたよね」
詠は真性のかまってちゃんなので、ほんの少し頭の中で考えをまとめているだけで畳み掛けてくる。
「ラグってる??」
「ラグってない」
「そっか。最初に何かして欲しい事とかあったりする? もちろんして欲しい事は全部してあげるつもりだけど」
なんか凄い甘やかしてくれる、今まで高熱放置プレイ地獄に居たから尚更詠が天使に見えるよ。
「じゃあ、まずは飯が食いたい……腹が減って死にそうだ」
昨日は一人で外に出る事も、誰かにおつかいを頼む事も出来なかった。可愛い可愛い詠をパシらせるのには気が引けるが、それが詠の善意なら有難く受け取ろうじゃあないか。
「お腹に優しいもの、これで買ってきてくれ」
財布から千円札を取り出して詠に差し出す。
「じゃあ、すぐに作るから待ってて」
「詠、料理出来るのか!?」
「最近は頑張って料理の練習してるの、家でも夜ご飯は作ったりしてるよ、買ってきたものじゃ体に悪いし。それに、翔吾にお弁当作って貰ってるから私も作ってあげたくなったの。あ、でも味はお兄ちゃんに百ツ星付けられてるから自信あるんだよ?」
驚いた、前に川に行った時以来詠に弁当を持っていくようになっていたがまさか自分でも作れるようになっていたなんて。しかも理由可愛すぎるだろ!
というか勝手にどこかの幼馴染Mさんのように自堕落な生活をしているのかと思っていたが、わりと生活は気を付けてるんだな。でも百ツ星って逆に信用出来ないような。
「今日は翔吾に美味しいご飯食べて貰う為に……じゃあーん! 家からエプロン持ってきたんだ」
「ありがとう、張り切ってるんだな」
バックから取り出した自前のエプロンを手馴れた様子で身に着けると、キメ顔を作りファッションショーのようにくるりと回転してこちらを一瞥。
そのまま廊下の方へ帰っていく。
「いや、待て。帰るな」
「だって途中で恥ずかしくなっちゃったから……」
「馬鹿だな、恥ずかしがる必要ないだろ。凄く似合ってるし」
「ほんと? 頑張るっ!」
そう言うと台所の方へ行ってしまった。
とはいえ、俺の部屋を出てすぐの所に台所があるのでドアを開けっ放しにしておけば詠は見えるし会話もできる。
「翔吾、何食べたいとかってある?」
「お粥……!」
「お粥だけでいいの? もう少し作りがいのあるものの方が」
せっかくエプロンまで持ってきてもらったのだからお粥だけ作ってもらうというのも可哀想な話だが、風邪を引いた時は昔美代子さんが作ってくれたお粥を思い出して無性に恋しくなるんだよなぁ。
「だから俺はお粥が食いたいんだ」
少し威圧的な言い方になってしまった、頭の中と話す内容を繋げるのは良くないな。
「うん。そんなに言うならお粥作るね」
「おう……!」
「なんか子供みたい」
詠がクスリと笑いながら、少し馬鹿にしたように言うので仕返しする。
「詠の今の後ろ姿は新妻みたいだな」
「に……新妻って男の子なんだけど……前から思ってたけど翔吾って男の子が好きなの?」
「違うわ!」
褒めたつもりなのに酷い言いようだ。
うわ、少し無理し過ぎたかな、余計だるくなってきた。
「それで、お兄ちゃんったらね……翔吾? 翔吾? ……あ、寝ちゃってたんだね、お粥出来たよ、起きて翔吾」
ん、いつの間に俺……寝ちゃって……。
時計を見ると14時半、20分程度寝ていたみたいだ。でもさっきより少しばかりマシになった気がする。
「と、その前に寝顔をカメラに収めないと……」
暫くそのまま目を瞑って居ると、突然怖い事を言い出すので咄嗟に止める。
「盗撮はやめろください……」
「むぅ」
「そんな顔してもダメだ」
「今日看病してあげてる」
「は?」
「だからお礼に写真一枚くらい撮らせてよ」
「需要ないだろ」
「私にはあるので、もう一回寝たフリして欲しいな」
驚いたな。詠の寝顔ならまだしもこの俺の寝顔のどこに需要があるというんだろう。でも現在進行形でお世話になってるのは確かだし、一枚くらいならいいのか?
「じゃあ、目瞑るから早く終わらせてくれよ? 腹、減ってるんだから」
「あ、ごめんね。すぐ終わるからね」
——パシャ……パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ。
「……一枚とは」
「だって、こんなに可愛い寝顔撮らないと損だよ? 減るもんじゃないし、そうだ! 今度一回翔吾も女の子の格好してみようよ」
「可愛くないしお腹が減るからダメです。それは少し興味はあるが一人でやるのは恥ずかしい、壮馬と二人で元気になってからな」
「冗談だったのに、ほんとにいいの?」
「うん、いつかな。それより飯を早く」
たまに思うんだよな、俺も女装して詠みたいに可愛くなれたらチヤホヤされるんじゃないかと。
まあ元が至って普通の顔だから期待出来ないが、壮馬は美形なのできっと詠みたいに可愛くなると思う。
「お待たせ。お粥、自分で食べられるよね?」
「問題ないと思う、ありがとう。いただきます!」
詠が作ったという事や、百星の評価を疑っていたが、見た目は凄く美味しそうだ。
でもまあお粥だから見た目は特に他のと変わらないんだけどな。
「うわっ……! 危ねぇ……」
突然の目眩で、危うく全部落とすところだった。
「やっぱり一人じゃ食べられない?」
「いや、たまたまフラついただけだから平気平気……」
「落としてもまた作るの嫌だよ?」
「じゃあどうすりゃいいんだよ……」
「それは……私が食べさせるしか……」
「詠に食べさせて貰うって事か? 流石にそれはまずいだろ。絵面的にも、いや絵面的にはギリギリセーフ? だけど! 誰かに見られたらまずいだろ」
「何照れてるの? 誰も見ないよ? ここに居るのは私と翔吾だけなんだから」
待って……ドキドキしてきた。詠はこんなに可愛くても男なんだぞ、落ち着け落ち着け落ち着け!
「ほら、お腹空いてるでしょ? スプーン貸して」
「確かに背に腹はかえられない……お願いします」
一応言っておくが、食べさせて貰いたいという誘惑に負けたのではなく、腹が減って死にそうだから折れたんだからな!
「はい、あーん」
「あー……」
「あ、ふーふーしないと火傷しちゃうね」
「そのくらいなら自分で出来るからな」
「君は病人なんだから私に任せて」
「はぁ」
「ふー、ふー……」
なんか一気にイケない事してる気になってきた!
他人にフーフーさせるのってこんなにドキドキするのか? このままじゃおかしくなりそうだ、誰か来てくれ!
「はいっ、冷めたかな?……どうぞ」
「お、おう……じゃああらためていただきます」
——ピンポーン
覚悟を決めて、詠が冷ましてくれたお粥を口に入れようとしたその瞬間、インターホンのチャイムがなった。
「もう、こんな時に誰かなぁ……ちょっと見てくるね」
少し残念そうに溜め息を付いて玄関に行ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます