第20話
デパート内のファミレスに入り、ソファに腰掛けると、一日の疲れがどっと押し寄せてくる。
「ふぅ、疲れた。でも、短時間で思ってたより行きたい所行けて良かったな! 久しぶりに美夜といろんな所行けてすっげー楽しかったよ」
「そうだね、すっごい久しぶりだった。でもさ……でも……」
美夜が何か言い掛けたタイミングで店員が水を運びにやって来た。会話を途中で遮られてしまったせいで美夜の言いかけた言葉が気になる。
「でも……」
に続く言葉は一体なんだったのだろうか。
「ご注文が決まりましたらそちらのボタンを押して呼んでくださあーい! って美夜ちゃんと翔吾じゃん! 何、二人もデート?」
「デートだ、今日は一日美夜と遊び尽くすって約束してたからな」
「じゃあサービスしないとね!」
「もう最悪、壮馬くんのばか……」
美夜はポツリとそう呟くが壮馬には聞こえていないらしい。どういう意図で発したのか分からないけど選択肢としては二つある、と思っている。
一つは何か言い掛けたタイミングで邪魔された事。そしてもう一つはせっかく双葉先輩と別れて二人きりになれたというのに壮馬が来た事により邪魔が入ったから。まあ普通に行けば前者だろうけど、後者だったらちょっと可愛い。
「おう、でもなんでわざわざこんな所まで来て働いてるんだ?」
「ここ時給いいからさ、結構頻繁に有栖と遊んで奢ってると金一瞬で尽きるからその為の金稼いでんだよ」
毎日の様に遊んで金銭全部壮馬持ちとか優し過ぎんだろ、破産するぞ?
「あ、有栖からLINE来たからまたな」
一体なんだったんだ、美夜は機嫌悪そうに黙ったままだし……美夜の機嫌戻してから帰れ!
「LINE来たからまたな。じゃねぇよ、仕事中だぞ惚気けてねぇで仕事しろ」
「あー、すみません田中さん。完全に忘れてました。てへっ」
「てへっじゃねぇよクビにすんぞ」
「あっ、今のてへっ可愛かったですよ! もう一回! はい! 写真撮ろ、チーズ!」
「いや乗せられないぞ? 早くお客さんに注文取ってこいクビにすんぞ」
「いやでも有栖からのLINEが……」
「あぁん? クビにすんぞ」
「ひ、ひぃっ! 聞いて参ります!」
良かった常識人だ(?)ちゃんと壮馬をコントロール出来てるし、いささか顔が怖いのと声がデカい所と口が悪い所以外優しそうだ。いい上司を持って良かったな壮馬!
「すみません、お客様うちの者、というかオレがご迷惑お掛けしました。ご注文はお決まりでしょうか?」
「お前、巫山戯るのも大概にしとけよ? マジでクビにされても知らないぞ、注文はトマトとエビのパエリアで」
「……私はこれ、豆乳カルボナーラ」
「りょ、エトパと豆乳カルナね。暫くお待ちくださーい」
かなり斬新な略し方で伝票に書き込むと、そそくさと厨房へ戻っていった。
「やっと話せるな、そんでさっき言い掛けたのってなんて言おうとしたの?」
「うーん、やっぱここだと恥ずかしいから後でね」
「お、OK」
ここでは恥ずかしい事? そんな風に言われると健全な男子高校生としては少し期待してしまう。
「それにしても壮馬くん有栖ちゃんと上手くいってるみたいだね」
「完全に躾られてた気がするけど、それも一種の愛の形と考えたら上手くいってるな」
「それで翔吾もやっぱ、ああ言うの羨ましいと思うの?」
俺はああ言う愛の育み方はあんまり望まないかな。
「俺からは思わないよ、でもまあ相手が望むならやぶさかではないけど」
「そっか、やぶさかではないんだ……!」
「でも、まあ男女逆の方がいいかな」
「男女逆っていうのは、その私からお願いすれば付き合ってくれるって事……?」
は? 付き合う? SMを美夜と? いや、ないだろ。ないないないない!
そう思いつつも興味を隠せない自分が居る。
「美夜はそういう事興味あるのか……?」
「わりと……」
「翔吾、私の事躾てくれる……?」
目隠しと手錠を付けた美夜が、甘えた声でねだってくる。
「お、女の子がそんな事言ったらダメだ!」
「でも、やぶさかではないんでしょ? 男女逆なら尚の事いいんでしょ?」
「それは……!」
「ねぇ……はやくして……放置しないでよぉ……」
くそ、これじゃどっちが躾られてるか分かんない。
が、悪くないと思ってしまっている! ていうか、いい。凄くいい! でも!
「美夜、やっぱりこんな事ダメだ!!」
「翔吾、ダメって? うーん、ダメなんだ……(?)」
美夜が少し悲しそうな顔で良く分からない事を言っている?
だが、さっきまでしていた目隠しと手錠が付いていない……は……!? 俺はまた勝手に変な妄想を?
しかも美夜でなんて事考えてんだよ。死にたい、切実に死にたい。
「お待たせしました、エトパと豆乳カルナになります。伝票置いときますので、ごゆっくりどうぞ」
すると今度は壮馬じゃない優しそうな女のバイトさんがエトパとカルナを届けてくれた。この店だとエトパもカルナもメジャーなんだな? 多分。
本日何度目の食事シーンなんだって感じなので食べ終わる所までカット。
「「ごちそうさまでした」」
食事中、いくら話題を振っても美夜はぎこちない返事を返すだけで、まるで会話が続かなくて有り体にいえばとても気まずかった。
「翔吾も美夜ちゃんもまた来いよ」
会計を終えると、壮馬が手を振って見送ってくれた。
「あ、うん……」
「お前が辞めたらまた来るよ」
少し皮肉った言葉を壮馬にかける。美夜の機嫌が悪くなったのは壮馬のせいなので、このくらい言ってもバチは当たらないだろう。まあタイミングの問題で別に壮馬に悪気があった訳ではないんだけど。
「そうか、それならお前はクビだな」
「そりゃないっすよ田中さぁぁん……!」
壮馬の悲鳴が通路に鳴り響き、クスリと笑いながら店を出た。
「翔吾、こっち」
ジャイアントデパートから出て、バスに乗る為に夜道を歩いて居ると、美夜が服の裾を掴んでバス停とは違う方向に引っ張っていく。
「まだ行きたい所あったのか?」
「そう、だから来て」
「いいけど行きたい所って何処なんだ?」
「ラブホ」
「ああ、ラブホね。……はぁ!? 何考えてんだ、俺達まだ高校生だぞ!」
「うん……? 知ってるけど?」
まるで、俺がおかしな事を言ってるかのようにきょとんと首を傾げる。
「でもなんでまた、その……ラブホなんだ……?」
「翔吾とまだ一緒に居たい。でも普通のホテルだと高い」
くそ……美夜の気持ちが嬉しいからなのか否定したくない。それと理由可愛いし。
でも健全な男子高校生からすれば、可愛い女の子とラブホテルなんて気が気じゃないし、ほぼ生殺しだろ。神様、いったい俺はどうすればいんだよ。
「翔吾も私と一緒に遊んで楽しかったって言ってくれた、それに今日一日は私の行きたい所どこでも行ってくれるとも言ってた。だから行こう?」
「いや、確かに言ったけどさ……せめて普通のホテルとかでも」
「今日一日遊んだせいでお金ないから普通のホテルじゃ足りないんだよね」
「なら差額は俺が出すから」
実際の所、俺も財布には幾らも残っていないんだが背に腹は変えられない。
何故そこまでラブホに行きたがるのか少し不可解だ。しかもりくとの発言にも反応するどころか意味すら分からないという感じだったのに。
「……そんなの悪いし見るだけ見てみようよ」
「見るだけだぞ……?」
外から見るだけならタダだ、それに俺達は見るからに高校生、入ったとしても受付の人に追い出される様子は安易に想像出来る。受付で止められればさすがに諦めてくれるだろうし。
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