第17話
「着いたぁ!」
「こんなにデカイのか」
本日のデートスポットは最近出来たばかりの、
【ジャイアントデパート】
名前の通り普通のデパートの二倍近い面積があり子供から大人まで楽しめる施設がてんこ盛りになっている。
実はまだ開店してから一度も来た事なかったので、実はかなりワクワクしている。
「ね! 翔吾私ここ行きたい!」
「ん、どれどれ?動物と触れ合えるコーナーか、結構楽しそうだな」
「でしょ、ウォンバットとかケツァールとかセキショクヤケイとか居るかなぁ!」
珍しく子供みたいに目をキラキラさせてるから言いにくいけど多分居ないと思うぞ、そいつら。
「わぁ可愛いねー! よしよし、いい子いい子」
「ちょ、痛てっ! 何すんだよ」
美夜には懐いて居たのに俺が触った途端噛み付いてきやがった。動物のくせに美夜に媚び売りやがってこいつ!
「翔吾は触り方がダメなんだよ」
「ん、触り方なんて関係あるのか?」
「あるよ。私を撫でる時みたいに愛情を込めて撫でるんだよ、乱暴に触られたら誰だって嫌でしょ?」
「確かに。こ、こうか?お、おお攻撃してこない! 抵抗してこないと意外と可愛いな!」
そうして小一時間程ひよこやらうさぎやらを撫で回して居ると、家を出るのが遅かったのもあるがもう一時を回ろうとしていた。
——ぐうぅ……。
思い出したら急に腹が減ってきた。
「よし、飯食おうか」
「さすがジャイアントデパートだな、こんなに店あるのか」
ジャイアントデパート内のフードコートに飯を食べに来たが、店が多過ぎる。
これもしかしたらチェーン店全部入ってるんじゃないか……?
「こんだけあるとどれにするか迷っちゃうな」
「私は翔吾と同じのにするから迷わないかな。あ、でも違うの買って一口貰った方がいいかも!」
結局言われるがままに美夜がパンケーキ、無理やり俺がハンバーガーで半分このあーん強制。
全然悪い気はしないし寧ろウェルカムだけど。
「んー! パンケーキ美味しー!」
「美夜ってほんと美味そうに食べるよな」
「だってこんなに美味しいんだから、しっかり味わわないと勿体ないでしょ? ほら食べさせてあげるから翔吾も口開けて?」
「あ、あーん……」
やっぱこう改まっていざ、あーんしますよ?みたいな状況になると緊張するな。周りの目線が少し怖い、おいそこの小学生こっち見んな……。
「ん、んん、美味い美味い」
「でしょ!じゃあ今度は翔吾があーんして?」
「お、おう……ほら、あーん」
「あーーん、んっ……」
あ、あえて俺が口付けてない方を向けてたのに……って俺は女子かっ! そんな事、今までいくらでもあっただろうに……今日はなんだか変だ、美夜の仕草ひとつひとつがどれをとっても胸が締め付けられる。
実はデートという単語に一番反応していたのは俺だったのかもしれないな。
「んんー、翔吾に食べさせて貰ったからすっごく美味しい」
「そ、そうか……」
よく恥ずかしげもなくそんな事が言えるな……傍から見たらやはり俺達はカップルに見えるのだろうか?
「公共の場でバカップルさながらな行為は控えた方がいいのでは?」
インテリ風眼鏡少年が一言そう言って去っていく。
どうやらカップルではなくバカップルに見えていたそうだ。
そりゃそうだよな、思春期の男女が一対一でデパートのフードコートに座り食べさせ合いしている様子を見れば誰だってそう思うはずだ。
「あはは……悪かったな」
さっさとあっち行ってくれ。
「……」
「美夜?どうかしたか?」
少し照れたような顔でぼーっと黙り込むので、声を掛ける。
「あ、いや……私達カップルだと思われてるんだなって思って……」
言い終わると、更に恥ずかしくなったのか服の袖で紅潮した頬を覆うように隠す。
なんで恥ずかしそうにしてるの? でも、さっきまで食べさせあいっこしてたじゃん。いや、別におかしいことじゃないよ。実際俺も恥ずかしいし。
でも意識しないようにしてたのに、そんな事言われたら意識しちゃうじゃん!
その仕草も可愛い過ぎるし。
「あの、弟が突然すいません……」
「気にしないでください、俺達にも非はありますし」
「って、翔吾……!?」
「先輩こそ……どうしてここに!?」
なんとインテリ風眼鏡ボーイの保護者は五月双葉先輩だったのです……。
もしや、美夜とあーんし合ってる所を見られてしまったのでは!?
「そんな事よりあなた、異性と食べさせ合いなんてずるい……じゃなかった! 不純異性交遊!」
あ、完全にばっちし見られてたっぽいですね……双葉先輩は、風紀委員にも属しているらしくこういう事にはかなり厳しい。
が、知らなかったとは言え風紀委員が先輩にタメ口を聞いた事もチャラにしてくれる懐の広い人でもある。多分コーラの影響が強いのだろうけど。
そして彼女はとても純粋だ、間接キス程度でめちゃくちゃ動揺するレベルなので男女のあーんは刺激が強かったのだろう。悪い事をしてしまった。
最初の方に若干なんか聞こえたけど聞こえなかった事にしておこう。
「翔吾は私の(未来の)旦那さんなので問題ないです」
「だ、旦那ってどういう事! ちょっと翔吾!?」
「僕の見解では二人のイチャつき具合を見た感じだと、もうCまでは済ましてると考えられますね」
「りくと、Cって何が?」
なんだこの小学生、下世話な上に若干古い。恋愛のABCとか最近の子供は知らないだろ……いや知らんけど。
姉さんはこんなに純粋なのに、いったい誰が教えたって言うんだ?
「恋愛における進行段階ですよ。AがキスでBがペッティング、Cがセック……」
「ストーップ……ッ!!」
急いでインテリ風眼鏡の口を抑える。危ねぇ! いや、若干アウトだったかもしれないけど危ねぇ!!
とんでもない子供だ……自分の知識をひけらかしたい年なのは分かるが、美夜と双葉先輩にそんな話聞かせる訳にはいかない。
「セック?巨人?桃の節句?」
「違いますよ姉さん、愛し合う二人の男女がベットでプロレスごっこを行い互いの弱点を知り、形として愛を知ることによって今まで以上の愛を覚える行為です」
こいつ、直接的な表現をしたら俺が口を塞ぐと思ってあえて別の言い方に変えてジェスチャーまで付けて説明しているだと……!?
その手で、その口で、お前は今まで何人もの純粋な子供を汚れた大人に変えてきたと言うんだ……。なぜ、お前はその齢にしてそこまでの知識を得た、ままままさか既に色々経験済みだったりしないよな!?
でも最近の子供は進んでるって言うし、現にこいつはここまでの性知識を身に付けている。
あぁ、そうか……俺の完敗だよ、何もかもなぁ。
さあ、その手で二人を汚すがいいさ。俺にこいつを止める事なんて最初からできやしなかったんだ。ごめんな美夜、双葉先輩……二人には綺麗な心で居て欲しかったな。
「良く分からないけど高校生が愛し合うとかそういうのは不純異性交遊だから!」
「プロレスごっこなら別にいいんじゃないですか?」
ああ、プロレスごっこが比喩だと言うことも分からないなんて、神に慈悲はないのか……。
「すいません、プロレスごっこは比喩です。このお兄さんが直接的な表現をさせてくれない為に、比喩で話す他ないのです。二人ともおしべとめしべは分かりますよね?」
「おしべとめしべは比較的直接的な表現だろうがぁ……っ!」
「ちょっ、お兄さん! 先程負けを認めてましたよね!?」
「うるせぇ人の心読むなエスパーエロス! てめぇちょっと大人しくしてれば好き放題性知識埋めつけようとしやがって!」
「翔吾、りくとに乱暴しないで!」
「二人とも落ち着いて、ね?」
我を忘れて罪人の粛清に取りかかってしまっていたが、どうやら裁判は始まってすらいなかったらしい。
君達は知らず知らずのうちにこの変態に汚されていたんだよ。気付いて、告発して、そして俺に裁かせてくれ!
「まあ、少し僕も興が乗ってしまった事は認めます」
「俺もちょっとカッとなってましとぅあ?」
「翔吾……子供っぽいよ?」
「子供の方がこの状況だと有利っぽいので子供扱いしてください」
「んー、私はそれでもいいけど。可愛いし」
「ツッコミ役が居ないので僕がしてあげたい所ですが、男に突っ込むものは何一つないです。ごめんなさい」
ここで反応したら負けな気がするので、内心留めとくけど……そういうとこだよ!? お前なんも反省してねーじゃん! 何がツッコミに回りたいだ、思いっきりボケかましてんじゃねぇか!
こいつの言ってる事分かるの俺だけだからみんな何も言わないけど、ボケてんのか煽ってんのかどっちなんだ。多分どっちもなんだろうな!
「よし、二人とも落ち着いたね。偉い偉い」
ふっ……勝負あったな?クソガキ。美夜はいつでも俺の味方なんだよなあ。
こういうのは昔から先に黙った方が勝ちって知らないんだろ?
「りくとくん飴食べる? 喧嘩やめれて偉いね、何年生なの?」
「僕ですか、僕は5年生ですね」
「と゛お゛ し゛ て゛ た゛よ゛ お゛ お ゛ お゛!?」
「しーっ、いきなり叫んでどうかした?変だよ?」
「変なのは俺以外だろうが! なんでこいつだけ褒めてんの? 俺が黙ったから俺の勝ちだろ、俺も褒めろ!」
「いや、あなた含めてみんな変ですよ」
自分のおかしさに気付いてるのは偉いが、どさくさに紛れて巻き込むな! 否定出来ないのが悔しいけど!
「翔吾も褒めて欲しかったんだね、偉い偉い! 飴食べさせてあげよっか?」
「そうそう、そうなんだよ。あーん!」
恥ずかしげもなくデパートのフードコートでデカデカと口を開き、餌付けを催促する、まるで浅ましい野良犬のようだ。
「はい、口開けてー。はいっ、入りました!」
「だから不純異性交遊だってばぁ……!うぅ……私にも飴ちょうだい……!」
「意外と食い意地張ってるんですね。先輩もはい、あーん」
「ん……張ってないわよ!……おいひい……」
「先輩ちょろくて可愛い」
俺もそう思う。
「すいません、僕もひとつ頂けますか?」
なんだ、お前もまだまだ子供だな。
飴玉に釣られるなんてそんな浅ましい顔で飴玉欲しがって俺かよwww
ああ悲しくなってきた……。
「いいよっ、口開けて」
「あー……」
「ん……っ!」
エロ眼鏡の口に飴玉が入り込もうとしたその刹那、美夜の手から飴玉をすくい取る。
「あの……ぶち殺しますよ」
震える声に相当な怒りが滲んでいる。
「おー怖い、やれるもんならやってみな」
「二人とも、喧嘩はダメだってばぁ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます