第16話
「そうだ美夜デートしよう!」
土曜日の朝、思い出したように俺は美夜にそう言った。
「でーとっ? じゃあ壮馬くん達も誘って……!」
「それじゃデートじゃないだろ。デートだから二人で行くんだよ」
「あ、そっか……でも二人はあう……」
はぁ可愛い。二人で出掛けることなんて今までいくらでもあったろうに。デートって言い換えただけでこんなにも可愛い反応するのか? これは、これからもそう言い換える必要がありそうだ。
「でも、なんで唐突にデートなんて……?」
「壮馬と宮本の件で美夜の事ほったらかしにしちゃってた時、終わったらいっぱい遊ぼうねって言ってくれたじゃん」
「覚えててくれたんだ。翔吾優しい……!」
「忘れるわけないだろ、そんで美夜はどっか行きたい場所とかある?」
「翔吾とならどこでもいい」
ずるい。色んな意味でずるい。どうして俺の周りはこんなに可愛い子が多いんだろうな。
とは言っても、彼女が欲しいから美夜とのデートが都合いいとかは思っていない。前にも言ったが、美夜は小さい時からずっと一緒に育ってきたせいで扱いは家族のようなものだ。かと言って全くドキドキしないのかと言えば嘘になるのだけれど。
「じゃあデパートにでもするか? 最近できたとこの」
「うん、じゃあおめかしするから玄関で待ってて」
「玄関じゃないとダメなのか?」
「こういうのは雰囲気が大事なんだよ? 玄関で待ってた方がデートっぽいでしょ?」
まあ確かに。よく分からないけど納得してしまったので美夜の指示に従う事にした。
しかし、もはやお決まりだが美夜が部屋に行ってから数十分、帰ってくる様子がない。
話を作る際にそっちの方がやりやすいからだって? そんな事で毎回待たせないでくれ。ていうかメタい話はやめろください。
10分経過、まだ来ない。20分経過、まだ来ない。30分経過、まだ来ない。遅い!
俺はもう充分待ったぞ!文句はないよな!
ハチ公の爪の垢程度には待ったので様子を見に行くことを決めた。
「美夜ー」
「……」
ノックしても返事がない。
「きゃぁっ」
ガタンという音と同時に、美夜の悲鳴が聞こえる。
それとほぼ同時に俺の頭の中に二つの選択肢が浮かんだ。
部屋に入り状況を確認する。
外から声だけ掛けて様子を伺う。
一見前者を選びがちだがこれは罠だ。
助けに行くとヒロインがあられもない姿になっていて、ヒロインから猛攻撃を喰らうというのはラブコメのテンプレ中のテンプレだ。
だがそれはあくまでラブコメに置いてのサービスシーンだ。リアルでそんな事起きるはずもないのだが、可能性を捨て切れない以上美夜に嫌われるのは避けたい。
かと言って助けないとそれはそれで無慈悲な男認定をされかねない。
それも嫌なので俺は可能性のある方にかけるよ。
「美夜っ! 大丈夫か!?」
「え、翔吾……」
案の定そこには下着姿の美夜が居て……美夜の頬がどんどん紅潮していく。
「ごめん!出ていくから怒らないで」
視線はそのままでそっと後ずさりするようになだめながら。
「怒んないから大丈夫、凄い恥ずかしいけど翔吾なら別にいいよ……水着見られてるし……」
「いや水着と下着は別物じゃ……」
「どっちも面積同じくらいだし変わんないよ」
確かに水着か下着も特に変わらないが、下着というだけで水着の時よりはるかに罪悪感を感じてしまう。
「感想……」
「え?」
「感想を述べてください、『か』から始まって『い』で終わる四文字で」
「それもうひとつしかなくね!?」
「い、いいからはやく……っ!」
「か、可愛いです……これなんか下着の感想として変じゃないか?」
「そう? とりあえず着替えるからもう出てって」
あ、はい……。
「お待たせしました。どうかな?変じゃないかな?」
「いや、すげー可愛い! 似合ってる」
涼しげなワンピースが美夜のロングヘアとマッチして清潔感アップ。頭に付けた大きなリボンがアクセントになっていて、とてもいい。
普段はパーカーのような部屋着しか着てないせいで、ワンピースが凄い新鮮でグッと来た!
「こんな可愛い服持ってるなら普段から着なよ」
「こういうのはたまに着るからいいんです。それにパーカーの方が動きやすいし」
「タンスの肥やしになるか俺の目を肥えさせるかどっちか選んで」
「タンスの肥やしにします」
「oh……まあしょうがないな」
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