第13話
それは最後の水合戦に興じ、そろそろ上がって帰ろうとした時の事だった、
「助け……て……流されちゃう……!」
浮き輪に乗って遊んでいた有栖が少しずつ流れの強い方へ流されていく。
「浮き輪を捨てろ!流されるぞ……っ!」
「や……これ、なんで!外れない……助けてっ!」
「翔吾、有栖ちゃん溺れちゃう、有栖ちゃんのこと助けてあげて……!」
「んな事わかってる……今行くから待ってろ!」
俺が助けに行った所で有栖を助けられるかは分からない、最悪俺ごと流されるかもしれない。
だが、そんな事言ってられる場合じゃない事くらい俺にだって分かる。
有栖を追い掛けるように飛び込み近付くが、浮き輪と俺では流される速度の差は歴然だ。
はやく……はやく助けないと……。ああ、なんで追い付けねぇんだよ!せっかくハッピーエンドが目の前まで来てたってのに……ああっくそ……っ!
「戻れ翔吾っ!宮本はオレが絶対に助けるから!」
「壮馬……頼んだぞ!絶対……宮本を助けてこい!」
速い……これなら有栖に追いつける!でもこれ以上進めば壮馬が安全とは言い切れない。どうか二人とも助かりますように……そう強く願って岸へと戻る。
「お兄ちゃん、頑張って……!あと少し!」
「壮馬くん、お願い有栖ちゃんを助けて……!」
みんなの声が聴こえる。絶対に助けてみせる、助けて告白するんだ!例え断られるとしても!
「あと少し……あっまずい!余計に流れが……!」
「比嘉くん来たら危ないよ!」
「うっさい黙ってろ!目の前に居んのに見捨てる訳にはいかないだろ!有栖を助けてみんなで帰るんだ!」
あと数十センチ。
「よし!届いた……っ!」
まずい、掴んだ弾みで余計前に出ちまった!
そろそろ体力がやばい……せめて宮本だけでも助けねーと……。
「宮本、オレの方に向かって飛び込め!」
「でも……」
「いいから!!後はなんとかするから全部俺に任せてくれ!」
「分かった……っ!」
なんとか浮き輪から抜け出して飛び込んできた。
傷付けさせないように覆い被さるように抱き込む。
うぉっ……!さすがに宮本抱えて泳ぐのはきつい……はぁはぁ……。あそこまで行けば宮本一人でも戻れるはずだ。あと少しだけ、もう一振だけ力を……!
なんで、なんで出ねーんだよちくしょう……っ!
ダメだ意識が、まだ告白すら出来てないってのによ。
「後は俺に任せろ」
壮馬が流れの弱い所まで運んでくれたおかげでこれなら俺でも助けられる。気を失った壮馬を支えている有栖を引っ張って岸まで運ぶ。
「有栖ちゃん助かって良かった。でも壮馬くんが……」
「比嘉くん助けないと……!」
「壮馬が命懸けで救った命を危険に晒すな!俺が行くからっ!」
興奮している有栖を止めると、もう一度呼吸を整えて壮馬の元へ向かう。壮馬まで辿り着くのは簡単だが有栖のように軽くはない。正直抱き抱えて泳ぐだけでもかなりキツい……実の所俺も有栖を助ける際に何度か流されて身体中傷だらけだ。身体が持たない……。
「ボロボロじゃねぇか……オレは置いてけ」
「諦めてんじゃねぇぞ……ばかっ!お前が欠けちまったらハッピーエンドにならねぇだろうが!そんなの許さない!だから黙ってろ!」
「う、うるさい……死ぬ気なんかないし少し休ませてくれ……」
まだ意識は残ってたみたいだが、すぐに休ませないとまずそうだ。
「今は俺が向こうまで運んでやるからゆっくり休め」
全く、体力ねぇんだからこんな事させんな。火事場の馬鹿力でなんとか壮馬を岸まで運び切ったが、俺も壮馬も満身創痍だ。
「翔吾っ壮馬くん大丈夫なの……!?」
「お兄ちゃん!」
「比嘉くん、助かって本当に良かった!稲畑くん本当にありがと……」
「翔吾、わたしのお兄ちゃんを助けてくれてありがとう」
俺より壮馬を労うべきだと思うが、二人とも助かって本当に良かった。全部お前のおかげだよ壮馬、有栖を助けてくれて、お前が助かってくれてありがとう。
「壮馬くん傷だらけだよ!救急車呼ばないと……あの、友達が川で溺れかけて……はい、助かったんですけど傷だらけで……ほんとですか?ありがとうございます」
美夜が呼んでくれた救急車が到着し、病院へ運ばれた。特に危険な状態ではないらしいのだが、骨が何本か折れているのと全体的に傷が多過ぎる。
「……宮本を助けに行ったってのに、途中で意識飛んじゃ格好がつかないな」
「何言ってんだよ、めちゃくちゃかっこよかった!それにそんな事気にすんな。二人揃って助かっただけで十分じゃないか」
どこまで完璧主義なんだか、一般人の俺にはついて行けない。
「比嘉くん、本当にありがと、それからごめん……わたしのせいでそんな傷だらけになっちゃって……ひっぐ……」
「泣くなって、この通り二人共生きてんだからこの程度安いもんだろ?宮本は笑ってる方が可愛いんだからさ」
なんともキザなセリフだが今のは結構決まってる、俺までドキッとした。
「……ありがと」
大粒の涙をデコレーションしたまま、いつも以上に幸せそうな笑顔を見せる。
「それより、前に翔吾が言ってた事ってほんとなんだな」
「何の話?」
「あるはずないと思ってる事も、いつ起きるかは分かんないから後悔がないようにとかそういう話だよ。前にオレに話してくれただろ?」
美夜を学校に行かせたいと話した時に壮馬に話した話だ。まさか、こんな直ぐにその時が来るなんてヒヤヒヤさせないで欲しい。
「言葉の重みを改めて感じたっつーか、オレも後悔しないように生きてかないとな」
そう言って分かりやすく俺を一瞥する、この一件で有栖へと伝えようとしていた気持ちが強まったんだろう。心配は要らない、二人なら多少の障壁なんてきっと簡単に吹き飛ばしてくれるさ。
「これからはもう起きないといいんだけどな」
「そうだな……っていってぇぇ!!」
「もう喋んなって。俺達はそろそろ帰るからまた明日見舞い行くわ」
「入院前提かよー!」
「その傷なんだから当たり前だろ……じゃ、また明日な」
「じゃあね!」
「お兄ちゃん安静にね」
「比嘉くん明日来るね」
すっかり遅くなってしまった。バスのシートに腰掛けると、一日の疲れがどっと襲ってくる。
「詠も美夜も、疲れて寝ちまったな」
「稲畑くんも寝ていいよ、着いたら起こしてあげるから。疲れたでしょ?今日」
有栖だってそうだろうと思ったが、助けた礼として甘えさせてもらおう。
「悪いけどそうさせてもらう、その前に一つ聞いてもいい?」
「どうぞ」
「……実際のとこ明日、告白すんの?」
「な……!?す、するよ……多分」
「そっか、聴けてよかった。おやすみ」
ラスボス一歩手前でセーブするような、そんな感覚で目を閉じスリープモードに移る。
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