第12話
「着いたー!!」
全員が口を揃えて楽しそうにはしゃぐ。
ただ暑いだけじゃなくてちゃんと夏だー!って感じがする。虫の鳴き声が聴こえるし、虫嫌いだけど。空気も美味しいし、違いあんま分かんないけど。昔はよく美夜と一緒にここ来てたんだっけか。
「質問いいかな?」
有栖が少し引きつった笑顔で聞いてくる。
「どうぞ?」
「わたし達はどこで着替えればいいの?」
「俺達はそこら辺でタオル巻いて着替えるけど」
「男の子はそれでいいかもしれないけどさっ!」
「じゃあ俺達はそっち見ないから人目のない所で着替えればいいんじゃないか?」
「鬼畜っ!変態っ!ドSっ!」
鬼畜なのは認めるし変態はまだいいとして、有栖にドSなんて言われる日が来るとは思わなかった。
女の子の気持ち分かんないんだもん。だって男の子なんだもん。
「そう言えば詠はどこで着替えるんだ?」
詠はどっちなんだろうか、やっぱり恥ずかしいのかな。
「私はここでもいいよ……」
「詠ちゃんもこっちに決まってるよ!え?えぇ!?ダメだよ詠ちゃん可愛いんだから安売りしちゃ!」
「そういう訳じゃないですけど……需要ないし……」
「世の中にはロリコンって言われるヘンな気持ち悪い人が居てね、小さい方が断然好きだ!希少価値だ!って言う人も居るんだよ?だから、けして需要がない訳じゃないんだよ!」
やめて差し上げろ!横に居るから!横にヘンな気持ち悪い人居るから!
「はぁ……私、男の子なので需要どころか胸もないです……」
まあここまで勘違いされてたら言わざるを得ないよな。
「ほんとに??こんなに可愛いのに?」
「詠はオレの妹じゃなくて弟だよ」
なんとか命の危機を脱した壮馬が訂正する。
「じゃあ詠ちゃんにも、付いてるの……?」
「……うん」
羞恥と緊張で、今にも泣きだしそうだ。
「じゃあ詠ちゃんと壮馬くんのイチャイチャは実は男の子同士でしてたって事?きゃっ」
おい、夏だからって腐り始めるのも、今まで黙ってたのにここぞとばかりに口突っ込んでくるのもやめろ。
とりあえず頭が腐った奴が増える前にやめさせよう。
「あそこに個室で着替えれるとこあるみたいだぞ」
「あ、ほんとだ……じゃあ行ってくるね」
「私も行ってくるね」
「詠はほんとにいいのか?」
「うーん……やっぱ私もあっちで着替えてくる……!」
いざ着替えるとなると恥ずかしくなったのか逃げるように個室に向かっていった。
「じゃあオレらも着替えて遊ぼうぜ」
「そうだな」
実は俺もずっと入りたくてウズウズしてたんだ。一分で着替えて準備体操を二分で済ませてやっと入水。
んー、冷たくてきもちぃい!
「やっぱ泳ぐのってすっげぇ気持ちいいな!」
「そうだな、お前浮き輪だけどな」
泳ぐとか言ってるが、壮馬は相変わらず泳げないので浮き輪を装着してぷかぷか浮いているだけだ。
「それは言わないで欲しいんだぜ……」
「でもそれないと泳げないのに泳ぐの好きって珍しいよな」
「いつか泳げるようになると信じてるからな」
「健気だな。俺が教えてやろうか?」
「頼むわ!」
「私が教えてあげてもいいよ」
いつの間にか着替え終えて後ろに立っていた詠が得意気に言う。
「詠は泳げるのか?」
「人並みにはね。でも、その前にさ……なんか言う事あるんじゃないかな……?」
振り返ると天使が居た、いや実際は天使みたいに可愛い詠が居た。水着の上にパーカーを来ているのが清楚な感じで凄くいい。うん。じっくり一分間舐め回すような観察してから一言。
「凄い似合ってる」
「似合ってるな、すっげー可愛いよ!」
壮馬もすかさず褒める。
「ほんと?やったあ!」
素直に喜んでくれてる所も尚可愛い。一応言っておくが、俺にそっちの気はない。
「でも詠が教えてくれるなら俺は必要ないな、美夜達と遊んでるからなんかあったら声掛けてくれ」
「翔吾が居ないなら教えない!」
「えー、オレは二人に教えて貰いたいなあ……一人で抜け駆けされるのも尺だし……」
おい、後半本音漏れてるぞ。
「詠がそう言うなら分かったよ」
二人とも嬉しそうにしてるけどこう見ると壮馬と詠って結構似てるんだな。でも喜んでくれたなら良かった良かった。
「翔吾、ただいまー」
「ごめん遅くなっちゃって、着替えに時間取られちゃって」
「全然平気だよ、それより二人ともともよく似合ってるな」
「うん、超可愛い!」
「わー、すごーい似合ってますねー」
若干詠の言葉がささくれ立っているが、二人は気にする様子もなく喜んでくれる。
「ありがと、翔吾も壮馬くんも似合ってるね、あと詠ちゃんも!」
「えぇ可愛い……?ありがと……」
「三人ともナンパされないように気を付けろよ」
「ナンパならここ来る途中でされたよ?」
「うん、怖かったけど美夜ちゃん慣れてたから助かったよ」
茶化したつもりが、もう既にあっていたというのだから驚きだ。でも良く考えれば、美少女二人が水着で歩いていたら男は黙っていない事くらい分かる。
「みんな揃ったし全員で遊びたい所だけど。壮馬が泳げないからこの機会に泳ぎの練習手伝おうかと思って」
「ならわたし、比嘉くんの手伝うよ」
この機会を逃すまいと、率先して自ら名乗りをあげる。
「じゃあ私も泳げないから翔吾に教えてもらいたいな」
「おういいぞ!時間はまだたっぷりあるし」
話し合った結果、俺と詠が壮馬と美夜の二人、有栖が壮馬専属で教える事になった。有栖も積極的にアプローチして順調みたいだし、好きな子に初歩的な泳ぎ方教わるってのも複雑だが。
「美夜、足しっかり動かして」
「あ、お兄ちゃん息継ぎ上手になったね」
ひたすら練習し続けて2時間半、なんとか美夜も壮馬も普通に泳げるレベルまで上達してくれた。
だが、ぶっ通しで教えていた事もあり腹が減って倒れそうだ。
「そろそろご飯にしよっか」
「あ、俺飯なんか用意してないぞ?」
「ほんとは川岸でBBQとかしたかったんだけどお金もないし……」
「わたし、お弁当持って来たよ!良かったらみんなの分もあるし食べて」
そう言って、美味しそうな手料理?と思われる大量の弁当を広げる。男を落とすなら胃袋を掴めって言うけど今日の有栖は序盤以外ほんとに隙がないと思う。
「いただきます!まさか宮本の手料理が食える日が来るなんて……何これ美味すぎ……!」
さっそく壮馬の胃袋を掴んだみたいだ、そんなにおいしいなら俺もひとつ頂いてみよう。まずは玉子焼きから。
「ん、美味いなこの玉子焼き。隠し味入れてるのか、今度教えてくれ」
壮馬も言っていたが、めちゃくちゃ美味い。有栖にこんな特技があったなんて驚きだ。これなら壮馬もイチコロだぞ!次第に有栖の目が泳ぎ始める、
「うん……それママが作ったのだけどね……」
隙がないと思ったらこんな所に。でも、なんというか有栖らしくていいと思うよ……少し安心した。
「これほんとに美味しいね!翔吾のご飯と同じくらい美味しい」
「翔吾、料理できるの??」
「親が二人とも遅くまで働いてるから自然とな」
「私も食べてみたい!お昼とかコンビニのご飯とか冷凍食品ばっかりだから……」
「じゃあ毎朝、俺が弁当作って持ってってやるよ」
詠が悲しそうに俯くのでつい調子に乗って言ってしまったがさすがに毎日はキツイかな……?
「ほんと!?そしたら朝もお昼も寂しくないかも!朝会えるし……!」
一瞬で表情が晴れ、目をキラキラ輝かせ始めるのでもう断れない。大人しく毎朝作ろう。
「おう、喜んでくれて良かった!」
「私が行けてなかった時は、たまにしか作ってくれなかった」
ボソッと美夜が呟く、グサリ。
「でも、詠ちゃんには毎朝お弁当を持って行ってあげるんだ」
また一言ボソッ、グサリ。その一言一言が俺の胸に刺さる、確かに直接あったのはつい最近なのに詠には特別甘いかもしれない。
「翔吾は、私より詠ちゃんの事が好きなんだね」
「別にそういうわけじゃ……さっきのは不可抗力って奴で……」
言い訳っぽいけど美夜にも同じように頼まれていたらきっと笑顔で毎朝作っていたと思う。
「翔吾と詠ちゃん。男の子同士で……えへへ」
だらしない顔でえへえへ笑っている。俺と詠で何を考えているのか分からんが心配して損した。
妬いてくれているのかと思ったのに……。
やはり、長時間駅前で待たせていたせいで頭が腐ってしまったんだろうか?話しているうちに有栖のお母さんの手作り弁当はすっかり無くなっていた。
「ごちそうさま」
皆が手を合わせて感謝する。
俺を腹ぺこの窮地から救ってくれた有栖の母と食材にしっかりと感謝した所で、まだ時間は残っているので再び川で遊ぶ事にした。
目標が高い壮馬はまだ詠と練習、目標の低い美夜ちゃんは有栖と遊んでいる。
「凄い、お兄ちゃん!ちゃんと泳げてるよ!」
「まじか!じゃあ詠達のおかげだな!」
にひひと悪戯そうに爽やかな笑顔を向けてくるので
素直に微笑み返す。こちらから向こう岸までを何度も往復して感覚を掴もうとしているらしいのだがもう充分な程に上手い。たかが数時間でここまで上達するのはさすがとしか言えない、正直既に俺よりは上手いと思う。
「いぬ…は……けくや!」
二人の様子を暖かい目で見守っていると、水中で何者かに俺の海パンが引っ張られている事に気付く。引っぱるんならせめて別のとこにして、脱げちゃうから!水の中から聴こえる声はぐにゃぐにゃしていてとても聴き取れるモノではない。っていうか……。
「助けて!川に怪物がッ!俺の尻子玉が!!」
いくら大声を出して全力で助けを求めようと、誰も気付いてくれない。そろそろポロリの危機だけでなく命の危機を感じ始めたので、何とかして逃げる方法を考えなくてはならない。タイムリミットはもって二分と言う所だろう、と名探偵翔吾の直感が、そう言っている。すると怪物が遂に水の外へ姿を現した。
「し、静かにして?バレちゃうでしょ」
「え、は、宮本?川の怪物は宮本だった!?」
なんと、川の怪物の正体は宮本有栖だった。
でも有栖は美夜と遊んでたはずじゃ?キョトンとした表情で俺の方を見てくる有栖。ははーん、有栖の姿に化けてこの俺を謀ろうとしているんだろうか。
「何、言ってるの?」
「お前、本当に宮本なのか?」
「頭、大丈夫そう?話したい事があって、でもみんなが居ると話しずらいから潜ってきたの!」
「悪い、軽くパニックを起こしていたみたいだ。次からは心臓に悪いからやめてくれ」
「稲畑くんって案外ビビりだよね、好評みたいだね!」
なんだ、どうやら本当に有栖らしい。
とにかく助かって良かった!
「あ、それで話って?」
「あのね、わたし今日比嘉くんに告白しようと思うの!」
「えぇぇぇぇえ!?」
そう言えば、前に壮馬にも同じような事を聞かされた覚えがある。
「そっか、でも日曜が楽しみだな!オレこの川遊びが終わったら宮本に告白するんだ」
「おい、それ死亡フラグだぞ、、ってはあ!?」
「別に驚く事でもなくない?」
「まあそうだけど、なんでまた唐突に?」
「それはね……宮本ってかなり人気あるじゃん?それでオレ以外にも宮本が好きな男子が結構居るみたいなんだよね。宮本優しいから告白されたら相手を傷付けるの恐れて自分を傷付けちゃうと思うんだ。だから他の男子に告られる前にオレが宮本をばっちりオトして辛い思いさせないようにしたいんだ!一石二鳥の作戦ってわけよ!」
とても壮馬らしい、かっこいい理由に納得せざるを得なかった。
「告白するなら今しかないかなって思って!」
「タイミングとしては、凄くいいと思うけどお前ら勇気あるな……」
「お前ら?」
「あ、いや、忘れてくれ……」
「なんで告白しようと思ったの?って顔してるね。稲畑くんにはお世話になったし教えてあげてもいいよ」
いつになく真剣な面持ちの有栖に思わず息を呑む。
「比嘉くんってかっこいいでしょ、影で思いを寄せてる子も多くて、ある女の子に相談されたの」
「壮馬くんの事が好きで、付き合えるように仲を取り持って欲しいって。わたしも相手が他の男の子なら協力してあげてたけど、相手が比嘉くんだったから」
「断ったのか?」
「うん……わたしも比嘉くんの事好きだから協力してあげられないって言ったの。そしたらその子泣き出しちゃって胸が苦しかった……わたしが我慢すれば良かったのかな……」
「宮本は悪くない……と思う!むしろ正しいよ、気に病むことない」
「ありがとね!でも、その子はわたしに助けを求めた。自分の恋愛事を人に手伝って貰う方がおかしいんだって思う事にしたの。でも……」
「あ……」
思わず息を呑んだ……有栖が否定しようとした事は、全て自分に返ってきてしまっているんだ。
「そう、わたしも人の事言えないんだよ。ここまでずっと稲畑くんにフォローし続けて貰ってきたんだから。だからね、もうわたしは誰の力も借りない。わたしだけで、ちゃんと告白して成功させるの……今まで手伝ってくれて本当にありがとね!」
「そ、そっか……おう!頑張れよ!」
突然切り離されたようなそんな感覚だった、ここまで一緒に頑張ってきて、結末の数歩手前で貴方は要らないって突き放されたようなそんな感じだ。
「そうしないとずるしたみたいで嫌だから……このままじゃ、その子とずっと顔合わせられないから。だから、嫌われるかも知れないし、稲畑くんを裏切る事になるかもしれないけど、全部わたしのエゴだけど、わたしの事、全部比嘉くんに伝えたい……」
「んな事したら全部無駄になっちゃうかもしれないぞ……」
「ううん、それは違う。稲畑くんがわたしの為に手伝ってくれた事は全部無駄じゃないし、わたしが絶対無駄になんかさせない。それに、この事隠したままじゃそんなの絶対楽しめないから……だから言わないといけないの。今まで手伝ってくれたのに突然ごめんね」
有栖もちゃんと分かっていたんだ、それでも正々堂々自分と壮馬に向き合おうと決めた。それを、有栖の覚悟を裏切りなんて言葉で一括りにして……。
有栖が一人でやると決めた事だ、もう俺にできる事なんてひとつしかない。
「宮本が決めた事なら俺は応援するだけだ、だから頑張れ!絶対成功させろ!」
「翔吾ー、宮本ー、そろそろ暗くなるしみんなで最後に遊んで帰ろうか」
「おう!みんなでパァーっと泳ぐか!」
「うん!」
こっちに来てから壮馬や美夜の泳ぎの練習ばっかでまともに泳げてなかったし、久しぶりに本気で楽しむか!
「美夜ちゃん、やったなあ!」
「翔吾くらえ!」
「おい、水鉄砲は反則だろ……ッ!」
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