第11話

  木曜日。

「あ、比嘉くんに稲畑くん風邪だっけ?大丈夫だった?二人とも一緒にかかるなんて災難だったね!」


  あー、風邪で休んだ事にしてたんだった。病み上がり感出すために咳でもしておくか。


「そうなんだよ、な?壮馬」

「おう、でも一日で治って良かったわ。川行けなくなったら溜まったもんじゃないからね」


  こいつこういう時だけ嘘上手いのな。

  純粋な有栖ちゃんは風邪で通ったけど、こういう時だけ鋭い美夜には一瞬でバレたんだよね。


  そう言えば完全に忘れてたけど、一昨日念願の壮馬調教を果たした有栖氏の気持ちの程はどうなんだろうか?これで解消されてると日曜の壮馬の告白で暴走せず付き合ってハッピーエンドになるんだが。


「宮本、ちょっと来て」

「うん」


  察したのか素直に廊下へ出てくれる。


「一昨日遊んだ時壮馬を調教しただろ?それでその後は暴走したりする事とかってなくなったりしたのか?」

「今の所は一回もないね!気持ちもだいぶスッキリしたかも」

「ほんとか!?じゃあこのまま治れば安心だな」

「うん!」


  ようやくハッピーエンドを迎えられるんだな。

 それが見れるだけで今までの苦労が全て報われる、ポッキーゲームは許さんけど。



  そして迎えた日曜日。駅で集合してから、電車に乗って川まで行く予定なのだが、二人とも来る様子がない。ウキウキしながらここまで来たというのに、長い間待たされたせいでむしろ帰りたいレベルだわ。


「壮馬くん達まだ来ないね」

「俺もしかして毎回待たされてないか?もう約束した時間から30分は経ったぞ」


  相変わらず俺は待たされる運命であった。

 今回は美夜が居る分だいぶマシだが六月の後半ともなると日差しがかなり暑い。遅い、溶けそうだ、早く川に入りたい。後願望を言うともう一度水着が見たい。


「ごめん!詠も来たいって言うから許可取ってて遅れた!」

「突然ごめんなさい……今日は、よろしくお願いします」

「わぁ壮馬くんの妹さんだ、可愛い!よろしくね、飴食べる?」

「……結構です。今日はよろしくお願いします」


  まあ言わなきゃ多分バレないだろうし、詠が自分から言うまでは言わないでおこうと思う。


「ん?宮本まだ来てないのか?」

「そうなんだよ、ちょっと電話してくるわ」

「あ、繋がった。もしもーし、もう集合してるんだけどなんかあったか?」


『それが駅に向かってる途中で今日の事考えてたらまた暴走しかけて。コンビニのトイレに入ったんだけど全然収まらなくて……』


「じゃあ今から行くからどこか教えてくれ」


『ありがと、駅のすぐ近くのコンビニ。とりあえず外に出てるね』


「悪い、宮本がちょっと体調悪くなったみたいだ。行って様子見てくるわ」

「大丈夫か?それならオレも行くけど」

「私も心配だし行くよ?」

「少し気持ち悪い程度だから俺一人で平気だよ、じゃ行ってくるわ」


 まずい事になったな。一度発散したらそれで終わりだと思っていたが、今まで蓄積されていた欲求が1時間やそこらで尽きるわけもなかった。

 だが、時間が経つとまた欲求不満になるなんて絶望的だ……早くなんとかして川に行けないと今までの苦労が台無しになっちまう。


「宮本?」

「稲畑くん、どうしよう……」


  本気で困っている様子なのではやくなんとかしてあげたい。


「とりあえずここじゃ人目につく、二人きりになれる場所二人きりになれる場所……あった!よし、あそこに移動するぞ」


  林の入口にある納屋を一時的に使わせてもらう事にした。足元も腐ってるし虫も多いので大変居心地は悪いが。


「えーこんな所無理だよ、虫も飛んでるし!」

「我慢してくれ俺も虫は嫌いだ」

「遊ぶ時間がなくなるから急ぐぞ、俺じゃ満足できないのは知ってる。だが今は俺で我慢してくれ、お前の欲求全部俺にぶつけて欲しいんだ」

「分かった、わたしやってみる!」

「さあ、来い!」


  一応言っておくが俺にマゾの素質なんてないしいじめられるのは嫌だ、辛いのも嫌だ。



  10分後


「もう……もう許してくださいお嬢様ぁ……」

「うん!だいぶすっきりしたかも!」

「よし、やっと川に行けるな……」


  壮馬はこれ以上に愛情の深い調教を1時間も受け続けたのか、自分のした事の業の深さを改めて感じた。


「有栖ちゃん、もう大丈夫?あれ?翔吾さっきよりやつれてない?」

「いや、別にどうもしないぞ……」


  壮馬は何も言わず俺の状態を見て震えている。やつれた俺を見て初めて調教された時の自分と重ねてしまったのだろう……可哀想に。


「とりあえず、もう電車来ちゃうし乗ってから話そっか」

「涼しー、人もあんまり居ないし」


  今まで虫だらけの納屋や、くそ暑い日差しの下で待っていせいで電車の中が天国のように感じる。

 正直今の段階でもうくたくただ。


「ねぇねぇ翔吾、この人がお兄ちゃんの好きな人なの?」


  疲れを取る為に一眠りしようとすると、詠が服の裾をクイッと引き寄せて耳元でこそこそ話しかけてくる。


「あ?ああ、そうだぞ。将来詠のお姉ちゃんになるかもな」

「え、ほんとに??」

「冗談だよ、けど可能性はあるかもな。障壁はあるにしろ二人は両思いだからな」

「そっか、両思いって素敵……!」


  本当に壮馬の事が好きなのだろう、兄の恋愛が順調な事を心から喜んでいる、そんな笑顔だ。


「二人で何話してるんだ?」

「お兄ちゃんと有栖さんが両……んぐっ……」


  聞かれた事に素直に答えてしまう悪い子には、美夜から貰った飴玉の刑を問答無用で実行する。


「なんでもないゲームの話だよ(宮本が壮馬の事を好きなのは俺しか知らないんだ)」


  すると少しの間ごにょごにょ言っていたがすぐに大人しく飴を舐めるようになった、ちょろくて可愛い。


「詠ちゃんだよね、宮本有栖です。よろしくね」

「あ……わ、私よりお兄ちゃんの事を将来的によろしくお願いします……!」


  お前もド天然かよ。


「うん!比嘉くんとは仲良くさせて貰ってるから今度は詠ちゃんとも仲良くなりたいな!」

「あ……はい、ぜひ……」


  そう言えばこっちも天然だった。そっか天然同士じゃ真相には辿り着かないもんな、安心した。

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