第9話
「はあぁぁ怖かった!まさか宮本にあんな一面があったなんて……でもあれは命令されたからだよな? きっとそうだ、そうに違いない!でもやけに手慣れてたというか……あぁぁぁぁああ!」
独りで自分を慰めていると、あ、他意はないが。
なんだか余計不安になってきたのでもう辞めよう。
そうだ詠とゲームでもして忘れよう、それがいい!
「お兄ちゃん、何独り言言ってるの? アイスありがと美味しかった」
おっとこんな所に詠が。じゃなくて、独り言聴かれた!?
とりあえず冷静に冷静にひっひっふーひっひっふー!
「な、なんでもないよ!そ、そっか……良かった良かった」
「翔吾……さんだっけ?お兄ちゃんの友達の」
「ああ、翔吾がどうしたんだ?」
「私、翔吾さんの事知ってるかも」
「え?なんで詠が?」
「この人だよね?翔吾さん」
「待ってくれ、今見比べてみる」
詠のスマホに写っているアカウントと俺のスマホにある翔吾のアカウントを見比べてみる。まず名前、うん、どっちも翔吾だな。アイコンは?どっちも畑の写真だ、稲畑だからかな?他に比べられる所は特にないかな……ということは。
「本物だ!」
「やっぱりそうなんだ、こんなに身近に居たなんて世界って狭いんだね」
詠はあっけらかんと笑っているがオレはかなり動揺している。
「どこで連絡先交換してたの?場合によっては翔吾を数発ぶん殴ってやらないと行けなくなるんだけど」
「殴ったらダメだよ、ゲームで知り合ったの」
「オレだけじゃなく、オレの可愛い詠までその毒牙に……許せねぇ!親友に詠が寝取られたぁ!」
「お兄ちゃんちょっとだけ気持ち悪いかなぁ……私はお兄ちゃんのじゃないし普通の話しかしてないよ」
「ほんとに翔吾とは何もしてないんだな!?まだオレの詠なんだな?」
「うーん、違うけどそうだね」
詠の事となると途端に落ち着きがなくなるのはオレの悪い癖だ。過保護を拗らせている自覚はあるが、詠のいじめの件があってから過保護が悪化している気がする。
「でも翔吾さんと会ってみたいかも」
「お前が家族以外と自分から会いたいなんて、それなら絶対協力するぞ!」
でもそのせいで詠の可能性を狭める事はしたくない、したい事があるならなるべく協力してあげたいと思うし。
「お兄ちゃんは何もしなくていいよ。私一人でできるもん」
まあ相手が翔吾なら大丈夫かな……とりあえず明日色々と問いただしてやろう。とりあえず今は、
「詠、一緒にゲームしようぜ」
「いいよ、テト〇ス?ス〇ブラ?」
やっと一日終わったな。とりあえず録画しといた壮馬調教映像の確認でも……いや、やっぱり止めておこう。有栖の深淵を覗いてしまったら今の関係が更に変わってしまう気がする。
また通知が溜まってるみたいだ。何気なく開いた携帯は詠からの通知で埋め尽くされている、詠も最近忙しくて全然相手出来ていなかった。一段落した事だし今日はたくさん話そう。
翔吾[ずっとまともに話せなくてごめんな、今日はたくさん話せると思う]
送信してものの数秒で既読が付く、今日は特にする事もないのでチャット画面を開いたままにしていて既読が付けばすぐに分かる。
全然返事が来る様子がない、詠にしては珍しいな。とりあえず返信が来るまでは閉じとくか。
詠[最近忙しいのは知ってたから大丈夫だよ。ところで今日はお友達の家に行ってたと思うんだけど]
10数分後にようやく返事来た。
え、なんでこの子俺が今日壮馬の家に言ったって知ってんの?……と、とりあえず落ち着こう。こういう時は冷静になるのが一番だ。
タップ音と通知音だけが部屋に響き、余計不安になってくる。
翔吾[そうだけどなんで詠がそんな事知ってるんだ?]
詠[それはちょっとまだ秘密、理由は簡単だから怖がらなくても大丈夫]
翔吾[分かったよ]
詠[翔吾私の事って好き?]
翔吾[突然どうした?まあ、優しいし相談にも乗ってくれるし好きだな]
詠[じゃあ私が身近な人の身近な人だったら会いたい?]
ん?なんなんだこの意味深な発言は、意図が全く読めない。
翔吾[それはもちろん会えるなら会ってみたいかな]
詠[そっか、じゃあ明日の朝、六時に朝日公園で待ってて]
翔吾[おいちょっと待て、朝日公園って俺の家の近くだぞ?]
詠[そうだね、じゃあまた明日ね、忘れないでよ]
逃げられちまった、とりあえず状況を整理してみるか。俺が今日壮馬の家に行ったことを知っていた。
一方的に俺の秘密を知っている。近くに住んでいる、もしくは今近くに来ている。
あ、それに壮馬の妹と同じ名前だって事もだ。
今分かるのはこれくらいしかないか、明日になれば分かるだろうしもう寝よう。
一応アラーム通り起きれたが、アラームの騒音で起こされるのは何度起きても不快なもんだ。毎朝美夜に起してもらいたいくらいだが美夜がそんな事してくれるはずがないので支度して朝日公園に向かう。
「まだ来てないみたいだな」
10分経過。
「まだ来ないのか……」
20分経過。
「連絡してみるか」
30分経過。
誰か来たみたいだが帽子にサングラス、マスク、黒パーカーと色々と危なそうな外見なので関わらないようにしよう。多分詠じゃないだろうし。
「あ、あの……翔吾……さん、ですか?」
うわ、話しかけてきた!でも俺の名前知ってるって事はまさかこの人が?
「そうだけどもしかして俺をここに呼び出した人?」
「そ、そう私が詠……」
やっぱり詠だった。
「じゃあマスクとか外して、顔しっかり見たいから」
「ひゃっ、これはだめ!」
「なんで、いいじゃん」
「恥ずかしいし人見知りだからこっちの方が話しやすい」
頑なに取ろうとしないので諦めて話を進める。
「そうか、じゃあそのままでいいよ。それより色々と聞きたい事があるんだけど聞いてもいいかな?」
「うん、ちゃんと話すよ」
「じゃあ、一つ目の質問いいか?なんで誘った側が30分も遅刻したんだ?」
「あぅ……それは朝弱くて寝坊しちゃって急いで変装とかしてたから」
「朝弱いのになんで朝に誘ったんだよ、別に言えば放課後でも良かったのに」
「朝か夜じゃないと同級生に見つかっちゃうから……夜だと怖いし」
「なんで見つかったらまずいの?」
「学校行けてないから気まずいの」
詠も学校に行けてないのか。壮馬の妹も行けてなかったよな、そんでここら辺に住んでて、名前も詠なんてよくある名前ではない。
さらに昨日の事を知っているとなると、
「お前、壮馬の妹だろ!」
「……あーあバレちゃった。でも私、お兄ちゃんの妹じゃないよ」
「やっぱりそうだったのか!あ、複雑な家庭環境だったのか……そこは嫌なら別に話さなくていいから」
「そういうのじゃないけど、ほらここ触ってみて」
そう言っておもむろに俺の手を掴むと、自らの胸部へあてがう。不思議とその手はがくがくと震えている。
「え、ちょ……いきなり何を!」
とは言いつつも、男の性には逆らえずこの状況を堪能しようとしてしまう。
「あれ?」
疑問を感じた俺はもう2、3回揉み揉み。いくら触ろうとそこから女の子の膨らみは感じられない。
「ない!?」
「うん、そういう事……あ、翔吾危ない……っ!」
ぐはっ……だが、時すでに遅し……人影が物凄いスピードで俺に向かってぶつかってきた。
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