第7話

「それがいいんじゃない。みんなで遊んでる中一人大事なとこが見えないかドキドキしながらもその恥ずかしさの虜になっていく。ね?考えただけでゾクゾクしちゃうでしょ?」

「ごめん、宮本、今なんて言った!?」

「だから羞恥に悶えながら泳ぐ比嘉くんを想像するだけで気持ちよくなってきちゃうって……あっ」

「いやそうじゃなくて……てか本当に何言ってんの!?」


  有栖の口から普段ではありえない言葉がポンポン発せられて処理落ち寸前だ。


 そもそもこの子は本当に有栖なんだろうか?

 俺は違うと思う、小柄で清楚なお姫様が知らないうちに鞭を持った女王様になってるなんて誰が信じる?

  有栖はこんな事言う子じゃなかったはずだ、少なくともさっきまでは。

 今ではだらしなく涎を垂らしながら海パンを漁っているド変態にしか見えない。


「宮本!壮馬はお前が……こ、こういう性癖って知ってるのか……?」


  俺がそう言うとちょっとこっちに来て!と突然自我を取り戻したかのように袖を掴んでぐいぐい、力が足りず全然前へ進まない。

 袖が伸びると困るので自ら連行された。


「さっきのわたし見られた……?よね……」

「見られたも何も自分から話してましたよね?」

「あ、あれは違うの!」


  わたわた慌てまくりやっと落ち着くと、でも稲畑くんなら口硬そうだしいいかなと勝手に納得して喋り始めた。


「あの、これ絶対他の子に言わないで欲しいんだけど。最近いつの間にか自分を抑えられなってるっていうか、気付いたらさっきみたいになってて……」

「それって二重人格みたいなものか?」

「それとは違うかな、さっきみたいな想像でゾクゾクしちゃうのは今でもするにはするし。でも突然その欲望に駆られて逆らえなくなるっていうか、そういう時はトイレとかに逃げこんだりするんだけど」


  事実なんだ、そんな事認めて欲しくなかった……!俺の中の有栖のイメージが音を立てて崩れていくのを感じる、もうやめてくれ!俺はそれ以上聞きたくない!美夜、壮馬、助けてくれ!


  そうだ、壮馬はこの事を知っているのか!?

 壮馬は有栖の事なら大抵は知っている、でもさっきのあれを見てもあそこまで有栖に執着する事ができるのだろうか?考えるより聞いた方が早いな、後でそれとなく聞いてみよう。


「それで実はわたし比嘉くんの事が好きで、だから多分この事まだ知らないと思うんだけど。知ったらきっと嫌われちゃうし、どうしたらいいのか分かんなくて……」


  は?両想い? 素直に祝ってあげたい所だがこのままでは応援する事はできない。


 とりあえず今のところは知られてないみたいだな、この事実を知ってもらい幻滅させれば壮馬も危険な目に合わずにに済むんじゃないか。


  でもその結末に持っていくのは安易だが誰も幸せにならない。そして有栖の信用や壮馬の怒りを買う事になるかもしれない、明らかにバットエンドだ。

 それにせっかく両想いなんだ、叶えてやりたい。


  そしてもう一つ、俺が有栖を鍛えてドSな部分を取り除けば、晴れて二人は相思相愛、壮馬の頼みに応えられる上に有栖も壮馬も俺もハッピーじゃないか。

  どっちを選ぶ? と、問われれば俺は間違いなく後者を選ぶ。それが例え険しい道だろうと笑顔のない終わり方なんて意味がない。


「宮本、特訓しよう!ドSを直して壮馬と付き合う為に!」

「つ、付き合うってわたしはそこまで言ってないよ……!?それに特訓って?」

「宮本って照れ屋なんだな。まだ内容は決めてないけどとりあえず俺に任せとけ」

「わたし、リードするのとかリード付けるのは好きだけどリードされるのは好きじゃないんだけど。でもほんとにありがと、今まで誰にも言えなくて辛かったからちょっとスッキリした気がする!」

「それなら少しは聞いて良かったと思えるよ、リードの辺りは聞きたくなかったけど……じゃあ美夜達も心配するだろうし戻ろうか」


「よし、みんな水着買えたな」

「「「おー!」」」


  戻ると美夜が水着を選んでおいてくれたので時間がないのでそれにした。美夜の選んでくれた水着はデザインこそアレだが、ちゃんと布地があるだけ良しとしよう。


「じゃあ今日は解散!来週の日曜に駅前集合!それまでに溺れない程度には泳ぎの練習しておいてください」



「悪い、宮本!呼び出しておいて遅れちまった」

「それはいいんだけど、今日の特訓って?」


  始めるなら早いに越したことはない。

 という事で、さっそく今日から有栖のドSを直す特訓をする事になりカラオケルームの一室で待ち合わせていた。

  ここなら防音だし多少暴走されても大丈夫だろう。


「特訓メニューは昨日徹夜で計画立ててきたぞ、そのせいで頭が回らないがメモしてきたから安心してくれ」

「そんな徹夜でなんて、わたしの為にごめんね……無理しないでいいから!」

「宮本全然Sな感じ出てないというかむしろ超天使だけどなんで昨日はあんな豹変してたんだろうな」

「天使だなんて……う〜んスイッチが入っちゃうと抑えられなくなるの、普段は大丈夫なんだけど好きな人の事だと尚更そういうイケない感情が……」

「なるほど、それで昨日は壮馬の水着を選んでいる最中にそれが刺激になってスイッチが入った……と」


  有栖は申し訳なさそうにコクリと頷く。

 その光景に見え隠れする昨日の変態悪魔、有栖の為にもこれから出る被害者の為にも早く克服させてあげようと強く思う。


「それじゃ最初は、どのタイミングでスイッチが入るかを自分で分かるようになってくれ」

「それならいくつか検討は付いてるよ」

「それは手っ取り早いな、例えば?」

「少なからず好意的に思ってる人の弱ってる所、羞恥に悶えている所、性的な所を見た時かな」

「昨日から宮本のキャラが迷子なんだが……?というか性的な場面ってまさか宮本って……!?」

「処女だよ!?」


  だってよ、良かったな壮馬。


「ところで宮本って俺の事嫌いではないよな。な?」

「いい人だなって思う」

「そうか!じゃあ俺が弱ったり羞恥に悶えたり、性的なシーンを再現するからスイッチが入るか試してみよう」

「体張りすぎだよ!気持ちはありがたいんだけど、せめて最後のは却下させて!」

「まあ、そう言うなら……」


  じゃあとりあえず弱ってみるか。でも弱るって具体的にどうすればいいんだ?腹を下してみるとか?

 でも、それだとトイレ篭ってて見えないよな。

 自分で殴れば、でも有栖に殴って貰った方が覚醒させやすいかな?でも威力足りなさそうだし……。


「えっと……?色々と考えてるみたいだけどフリで大丈夫だよ?」

「そうか、じゃあ今から弱るぞ三、二、一、バタッ」

「ゴフッ!宮本……!俺はもうダメかもしれねぇ……だから、だからよぉ最後に一つだけ……うぇっへぇへぇへぇ!壮馬と幸せにな……バタッ……どうかな?」

「なんとも思わなかったかな、The・茶番って感じだった。効果音を口で言うからしらける」

「おうおう辛辣だな……結構頑張ったんだけどなあ」

「やっぱ演技じゃダメなのかな、妄想なら行けるんだけど」


  妄想で行けて俺の演技じゃ無理なのか、悲しいなあ……でも自然と妄想しちまうシチュエーションを探ればいいのかもな。


「どんな時に妄想するのかって分かるもんなのか?」

「んー、それなら分かるかな」

「じゃあそれ、教えてくれ」

「言わないとダメ……?だよね……こんな事に協力して貰ってるんだし。比嘉くんの事考えたりとか、比嘉くんに似合いそうな首輪見つけた時とか、よくしなりそうな鞭見つけた時とか、手錠見た時とかエトセトラ……」


  左手で頬杖をつきながら少し諦めたような顔で優しい有栖に似合わぬ言葉を発する。

  案の定どれもやばい奴ばっかだ、というか壮馬の事ばっかりだけど。


 そう言えば、どのタイミングで有栖はこの性癖に目覚めたんだろう。これは何か手掛かりになるかもしれないし聞いてみるしかない。


「宮本はいつこういう感情に目覚めたかって思い出せる?」

「多分だけど初めて比嘉くんに会った時からかな」

「やっぱりか、壮馬と会った時に初めてゾクゾクしたって事?」

「……うん、多分そう……」


  かぁぁと音を立てて頬が赤色に染まっていく。

 これじゃ、まるで俺がサディストみたいじゃないか?

 別に俺はゾクゾクはしないが。俺ではなく有栖がSだと言おうと到底信じて貰えないであろう光景だ。


「宮本、お前がいじめたくなるのって本当は壮馬だけなんじゃないか?」


 しかしここは密室、そんな事も気にせず有栖への尋問を続ける。


「そんな事は……ないと思う……けど」

「これは俺の考察だが、壮馬にそんな事したらそんな姿見られたら絶対嫌われる、だから見せられないし、いじわるできない。だから想像するだけで我慢してしまうがそれが原因で時々自分が抑えられなくなる。違う?」

「あ……多分そうかも」

「なら答えは簡単だ、壮馬に今まで溜め込んで来た気持ちをぶつけて発散すればいいじゃないか!」

「えぇ……だから、そんな事したら嫌われるって。ば……ばかなの!?」

「やってみなきゃわかんないだろ、当たって砕けろだよ!大丈夫、ドッキリとか言って予防線張っとけば宮本が嫌われる事なんて絶対ないって!」

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