第5話
その夜俺はベットに力尽きるように倒れ込んだ。そのままスマホのロック画面を開くと何やらLINEの通知が大量に来ている。これだけ来ているというのに全く気付かなかった。
詠 [どうだった?]
詠 [成功した?]
詠 [ねぇ、起きてる?]
後はカーテンを締切った部屋でタイピングする中年男性のスタンプが150件。
なんでこんなスタンプ持ってるのかな?
それ以降は諦めたのか何も送られてきていない。
「げ……ちょっと見なかっただけで送り過ぎじゃないか?」
翔吾 [返事遅れて悪い、おかげで大成功だったぞ]
詠 [ぜ、全然大丈夫だよ……早く話したかったなんて思ってないし……私はアドバイスしただけでトゥエルブが頑張ったからだと思う]
詠は少し前にやっていたネットゲームのフレンドだ、実際はどうか分からないが歳も近かったからか話しが合いやすい。他のフレンドと比べても特段仲が良かったんだが、先々月そのネトゲがサービス終了するという事で連絡先を交換してから毎日のように大量の通知が来るようになっていた。
こう見えて結構気が使えて相談にも乗ってくれる。今回の件も色々とアドバイスをくれたり、ただの通知製造機の構ってちゃんではない事は確かだ。
翔吾 [前から言おうと思ってたんだが、トゥエルブってあだ名ダサいからやめてくれないか?]
詠 [ダサいなんて酷い……私が頑張って悩み続けた挙句ようやく考えついた最高の呼び方なのに]
翔吾 [お、おう。それは悪かった……でも翔吾→正午→十二時→トゥエルブは無理があるというか、マジカルバナナじゃないんだからさ……]
詠 [じゃあ何かいい名前あるの?あ!キッズっていうのはどう?]
翔吾 [却下だけど理由だけ聞かせてくれ]
詠 [えっと、翔吾→しょーさん→小三?→小学生→キッズだよ]
翔吾 [んじゃ、疲れてるからおやすみ]
そのままスマホを閉じるとすぐにピコンと通知が来た。
詠 [あ、待ってってば。まだ話したいのに……あう……おやすみなさい]
詠からの通知を見て、俺は苦笑しながら目を閉じる。
「おやすみ、詠」
美夜と壮馬が友達になってから二週間が経った。
「あ、壮馬くんからLINE来た」
「お前、最近いつも壮馬とLINEしてないか?」
この二週間で二人はかなり仲良くなったようで毎日のように学校やLINEやらで話しているのを見かける。
俺とも構ってよ、いつの間にか呼び方が比嘉くんから壮馬くんに変わってるし。
美夜が友好的になったのはいいんだが俺と居る時間が若干減って寂しい日が続いているのが不満です。はっきり言ってかなり欲求不満です。
「二人にお願いがあるんだけど、あっちで話すから前のファミレス来てくんない?だそうです」
二週間前と同じファミレスに呼び出された。電話でも良かったんじゃないか?と尋ねたところ、こういうのは直接相談に乗ってもらいたいと聞かないのでわざわざここまで来ました。
これで貸し借りはゼロだ、やったね。
「本日集まっていたのは他でもない……そうですね、オレに好きな人ができたんですね」
知らねぇよ。開口一番どこか鼻につく挨拶だが、壮馬に好きな人が出来た事に安心感を覚える。
それに壮馬が好きなモノと言えばひとつしかない。
「わーおめでとう壮馬くん。それでどんな子なの?」
「どうせロリだろ」
「二組の宮本有栖って子なんだけど」
こう言っては失礼だが、ほらやっぱロリだ。
「宮本なら俺もたまに話すよ」
宮本有栖と言えば、学年で知らない者はいない程の有名人で、小柄で愛想も良く人懐っこい性格でみんなからの人気も高い。
何故好きになったのかは……まあ言ってしまえばロリだからだろう、童顔貧乳低身長と壮馬からしたらドストライクなわけよ。
「私、有栖ちゃんなら最近よく話すよ」
美夜はあれからほんとに友好的になったな、褒め倒しながら頭をわしゃわしゃしたい。
「マジかよ。オレまだ話したことすらないんだぜ?」
「ならいつもの感じでチャラチャラ話しかけに行けばいいだろ」
「話したことすらないのにいきなり話しかけたらキモイんだぜ……」
それは誰に対しても同じだと思うんだけどな。というかどんどん暗い方向に持ってくのやめよ?
「だいたい話したことすらないはずなのになんで好きになったんだ?」
「……最初は一目惚れなんだけど、気付いたら目で追うようになってて、ずっと見てたら気付かれた。それで急いで目離したんだけどすっごい笑顔でこっち見てて、いても経っても居られなくなって毎日宮本の事考えるようになってて」
「完全に宮本の虜だな」
理由は分かったけど行き過ぎた追っかけはやめとけよ?
「壮馬くん女の子みたい、意外と一途なんだね」
「じゃあとりあえず宮本と二人で話せる場をなんとかセッティングするから任せとけ」
「そんな、オレひとりじゃ緊張して何話していいか分かんないんだぜ……」
そんな意気地無しな壮馬のために美夜が提案したモノとは……!?
「おはよ、宮本」
「おはよう、有栖ちゃん」
「稲畑くん、それに美夜ちゃん!二人共おはよう今日も仲良いね」
「朝から宮本に会えるなんてツイてるわ」
「翔吾、有栖ちゃんの事口説いちゃだめ」
「あははっわたし今稲畑くんに口説かれてるの?」
きゃははと無邪気そうに笑う表情は、やはりどこかあどけない。
「いやそういう意味じゃなくて、てか足踏むのやめて?」
その間も有栖はずーっとにこにこぽわぽわ、美夜はぷんぷん足をふみふみ。
「んっと、わたしに何か用事でも?」
「そのさ、会ってゆっくり話せる日ってない?」
「だから口説いちゃだめだって」
「お前なぁ……」
この子天然過ぎだって、可愛いけど今は話がこんがらがるのでやめろください。
「今日の放課後ならだいじょうぶだよ」
宮本が話し終わるのと同時に次の授業の鐘がなる。
「じゃあ今日の放課後駅前のファミレスで待ってて!」
「りょーかいっ!」
ピシッと頭に手を当て、敬礼ポーズ!
「てことで、授業に遅刻しながらも今日の放課後ファミレスで宮本との一対一の対談に漕ぎ着けたわけだが」
「ありがとう!ほんとにありがとう!愛してる!オレ必ず二人の為にも仲良くなってくるよ」
なんて言ってはいるが、壮馬は俺と美夜の指示通りに動くだけの操り人形にすぎない。
美夜が考えた作戦はこうだ、漫画やアニメで良く見るイヤホンみたいなのを付けて遠隔で指示するヤツ、名前分からないけど。
あれでキョドってまともに返事もできないポンコツと成り下がった壮馬の代わりに俺達がセリフを考えて話すというものだ。
美夜と俺は学校が終わり次第簡単な変装マスクとサングラスを済まし待機している。
それにしてもこのファミレスには度々お世話になるな、いつもの店員さんバイトリーダーになったんだ。頑張ってたもんな。
なんて他愛ない事を考えていると、宮本有栖当人が店に入ってきた。
「あれれ?稲畑くん達まだ来てないのかな?」
俺はここに居るぞ……騙すみたいで悪い、今度なんか言う事聞くから。
にしても、壮馬はまだ来ないのか?
遅刻はイメージとしては最悪だ、特に時間指定はしてなかったけどさ。
翔吾 [何してんだ、もう宮本来てからポテト二回は揚がったぞ。ん、結構美味いな、ここのポテト]
数秒で返事が返ってくる。
壮馬 [悪い、緊張し過ぎて腹下しちゃって。P.S.俺も後でポテト頼も]
壮馬 [あ、今出る]
翔吾 [出たらすぐ行ってやれよ]
壮馬 [いや、出たから拭かないと]
翔吾 [え、トイレを出たんじゃないのか?]
壮馬 [違う違う大だよ大]
翔吾 [そんな状況報告は要らないから早く出てこい!]
怒鳴りつけるように送信してケータイをポケットに突っ込むが、それからすぐ返信が返ってきた。
壮馬 [終わったけどこのイヤホンみたいなの付けて宮本のとこ行けばいいの?]
翔吾 [こっちはもう付けてあるから付けたら話しかけて来てくれ]
『はーい聴こえてますかー』
『うん、ばっちり』
『ああ、ばっちりだ宮本も待ちくたびれてる』
というか、店内のトイレに居たんなら言ってくれればいいのに。
『じゃあ今から俺と美夜の言う通り言うんだぞ』
「こ、こんちは!」
「比嘉くんこんにちは!こんな所で会うなんて偶然だね」
「なんでオレの事知ってるの?!」
「だっていつもわたしのこと見てるよね?比嘉くん」
『悪い、宮本があまりにも可憐で』
(待て、会って数秒でそれはキザ過ぎないか?)
(そう?壮馬くんのイメージ通りだと思ったんだけど)
(まあ言われてみればそうかも……)
「悪い、宮本があまりにも可憐で」
「え、あ、ありがと……」
美夜のキザ全開なセリフに恥ずかしそうに服の裾を掴んでもじもじし始める。意外といい反応だ。これは褒め倒せば簡単に落ちるんじゃないだろうか?
「そう言えばここで稲畑くんと美夜ちゃんと待ち合わせしてたんだけど、まだ来ないのかな?」
『あの二人なら急に来れなくなってそれでその事伝えに俺が』
「あ、あの二人なら急に来れなくなって、それでその事伝えにオレが」
『ごめんね有栖ちゃん……今度また一緒に行こうね』
「ごめんね有栖ちゃ……んっんゲホッ!ゴホンゴホン!」
あっぶねぇ……終わったかと思った、今のはナイス判断だったぞ。
「ん?どうかした?」
『いやそう言えば、宮本も下の名前有栖だったなーって。オレの従妹も有栖っていうんだよ、そいつがうちに遊びに来てるみたいで遊べなくてごめんなって』
(これ無理やり過ぎじゃない?)
(会うことなんてないだろうし大丈夫だろ)
(そうだといいけど……)
「そう言えば、宮本も下の名前有栖だったなーって。オレの従妹も有栖っていうんだよ、そいつがうちに遊びに来てるみたいで遊べなくてごめんなって」
「そうなんだ、凄い偶然だね!ちっちゃい子好きなの?」
「もちろん、めちゃくちゃ好きだよ」
『お前が、ロリコンなのは宮本には隠しといた方がいいんじゃないか?』
『確かに……悪い』
「ん?比嘉くんどうかしたの?」
「あ、いやこっちの話だから宮本は気にしないで」
「でも、やっぱ比嘉くんちっちゃい子好きなんだね!わたしも大好きだよ」
(逆に好印象?)
(壮馬くんは見た目は爽やかな好青年。爽やか好青年がちっちゃい子を好きって言ってもそういった捉え方はされない)
確かに美夜の言う通りだ、結局見た目か。世は無情だな。
「さすが宮本!気が合うな、見てるだけで癒されるもんな」
「うんうん!今度アリスちゃんに会ってみたいなぁ」
「そ、それはそのうちな……!有栖なかなか来ないから!でもまさかこんな所で同士に会えるなんて思わなかったよ」
もう俺達が口出さなくても大丈夫そうだな。会話の種ができた事でいつも通りの壮馬に戻っている。
「わたしも!比嘉くん、連絡先聴いてもいい?」
「いや、それは全然構わないけど!こっちこそいいの?」
「いいも何もわたしも比嘉くんと仲良くなりたいと思ってたから!」
「ま、まじで!?これから会ったら話しかけていい!?一緒に帰っていい!?遊びに誘ってもいい!?ごめんキモいよねごめん!」
「気持ち悪くないよ!もちろん!これから仲良くしてね!」
「天使だ、ここに天使が……!」
「あはは……じゃあ今度の休み稲畑くんと美夜ちゃんも誘って川でもいかない?」
「いいな!絶対みんなで行こ」
おいおい、急展開過ぎる……そもそもお前も美夜も泳げないじゃねーか。
「あ、でもわたし水着ないんだった」
『あ、私もない』
『そう言えば俺もなかった気が』
「オレもない」
「じゃあ今から一緒に買いに行かない?」
だから急展開過ぎんだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます