第17話

 旧体育館に生徒が皆、集まっていた。校長先生の演説中にわたしは体調を崩していた。旧体育館のステージから妖気が立ち込めていたからだ。演説が終わり皆、帰り始めると。


 わたしは担任に少し休んでからここを出ると言って落ち着くのを待つ。ミヤビがわたしに声をかけてくれた。真剣な眼差しでミヤビは妖気の出先を見ていた。


「妖刀『吹雪』の気配よ……」


 この暑いのに『吹雪』とはいかに。ミヤビはステージに上がるのであった。氷の刃がステージの下からミヤビを襲う。素早くかわしてステージに短刀を突き刺す。

ステージは凍りついて、それから一気に割れる。姿を現すのは刀の『吹雪』である。


「妖刀がわたしを選んだ……」


 ミヤビの手元に『吹雪』が収まる。


「この『吹雪』は正確には聖痕ではない。妖力の塊よ」


 実態の無いミヤビにしか扱えないモノであるらしい。『吹雪』はミヤビの手の中で短くなり短刀に変わる。女狐の扱うには丁度いい大きさになったのである。


「エリカ、これをわたしに持たせていいの?」

「あぁ、信頼しているよ」


 今更、ミヤビが牙をむくこともあるまい。ミヤビは袖から思念の種を一粒撒くと木の化け物が現れる。木の化け物はわたしに襲いかかってくる。おいおい、と、刀を抜刀しようとした瞬間に『吹雪』が貫く。木の化け物はカチカチに氷つき砕け散る。


「ミヤビ……少しビックリしたぞ」

「うふ……」


 妖艶な笑みで誤魔化すミヤビであった。




 わたしは大きめのショッピングモールにある喫茶店でコーヒーを飲んでいた。空調の効いた喫茶店の中は夏場には重宝する。


 うん?


 淀んだ風が流れてくる。思念の欠片か……。わたしはあえて不快な風の方に向かう。


 道玄坂はいない。


 少しの不安を感じつつ前に進む。いつの間にか立体駐車場の奥に来ていた。ポツンと置かれた、怪しいゴミ箱を見つける。蓋を開けると思念の欠片が大量に噴き出す。わたしは銀鏡の刀を抜刀して臨戦態勢をとる。すると、思念の欠片は集まり塊となる。


 現れたのは巨大なゴキブリである。


「マジ、かっ!!!」


 思わず叫んでしまう。巨大なゴキブリは目が光ると体当たりをしてくる。


「だから、イヤだって」


 わたしはかわすのが精一杯であった。遅れてミヤビが登場して吹雪を構える。ミヤビに気づいた巨大なゴキブリは動きが止まる。やはり、冷たいのには弱いらしい。


「ミヤビ任せた」


 ミヤビは素早く巨大なゴキブリを貫くと凍ってしまい。さらに、切り裂くと粉々になり煙にとなる。


「あーイヤな相手だった」


 結局、わたしは何もしなかった。ミヤビは勝ち誇った様にニタニタしている。


「喫茶店のパンケーキで手を打つわ」


 喫茶店に戻るとわたしはコーヒーだけをミヤビはパンケーキセットを注文するのであった。


 あーまだ、ゾクゾクする。



 ミヤビがベランダで月を見ている。


「どうした?」


 わたしの問いにミヤビは笑顔で返す。


 ふっ……。


 笑顔など普段見せないのにな。余程、寂しいらしい。いつの間にかミヤビの癖を覚えてしまった。わたしは抜刀してミヤビに刀を突き付ける。


「何故、わかったの?わたしがエリカを殺して自由になりたいと……」

「いつも感じる殺気が無かったからな。どうせ、抑えてわたしに感ずかれないようにしていたのだろう?」

「うふ、正解、今のわたしはエリカを殺す事しか考えていないからね」


 一瞬の沈黙の後……。


「そんなにわたしを失うのが怖くなったか」


 ミヤビは再び月を見て。


「ええ、ササのような強敵に殺されるくらいならわたしの手でね」


 わたしやミヤビも一人で生きるのが定められた存在……それは一人でいるのが怖くなったのだろう。ミヤビは短刀を抜かないでいた。わたしも迷った。このままミヤビを切り捨てるかだ。


 一歩、ミヤビに近づくと。ミヤビは再び笑顔見せる。


「やめだ、やめだ、自ら死を望む者など斬ってもしかたない」


 わたしは刀をおさめてベッドに横になる。ミヤビから殺気が放たれる。荒削りでありそれでいて落ち着いている殺気だ。やっといつものミヤビに近づいた。


「勝手にしろ、わたしは寝る」


 それから……ミヤビの気配がなくなる。それから天井を見上げるとうつろな睡魔に襲われる。


 独りか……。

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