第15話

 早朝に目が覚める。この体は何回死にかけたのだろう……。

 

 体がやけにほてる。それは生を望んでいる感覚であった。枕元に銀鏡の刀が置いてある。手を伸ばして刀を手に取る。


 ……重い……。


 生と死の狭間で輝く妖刀であることを思い出す。わたしが死に近ければ近いほど、その力を示す。銀鏡の刀はわたしから日常を奪った。わたしは起き上がり、刀を抜く。光で輝くその刃先は生きる者は切れない。死そのものだけを切ることができる。わたしは生きる証として刃先を手首に近づける。


 熱い……切れることは無くても、刀の鼓動を感じていた。いつの間にか、ミヤビが椅子に座っている。


「ササに勝つ為に『聖痕』集めをしない?」

「代償として……」


 わたしは言葉を濁した。そう、一番大切な者が思念の塊になるのだ。しかし、わたしの大事な凛正は思念の塊になっていない。思念の塊と戦い続けている限り何らかのブレーキがかかるらしい。


 そして、ササは思念の塊を吸収してエネルギーを得ている。

戦い続ける事か定められたなら、ササとの鉢合わせはあるだろう。


 ふっ、やはり命がけだ。



 わたしは図書室で『聖痕』について調べていた。まれに大きな負の感情を持った聖者が自殺などの理由により体内から出た物もあるらしい。それが何故、銀鏡の刀などの聖痕を生み出すのかは不明である。


 この資料によると『聖痕』を操る者は天下を取るとある。


 織田信長である。


 一説には集めた聖痕を勝手に持ち出した明智光秀がその器にあらず乱心したともある。


 そう仮説である。聖痕は歴史の裏舞台に多く登場するが確証のある話はない。わたしは図書室での聖痕について調べるのを諦める。


「ミヤビ、聖痕の集め方が不明だぞ」


 ……。


 ミヤビは深く考え込んでいる。


 うん……?


 道玄坂から電話だ。


「ほーい、エリカ、元気?」


 相変わらず面倒くさいやつだ。適当に相手をしていると。


「音楽室から出られないの」


 は?助けて欲しいなら最初に言えと思うのであった。わたしは話ながら音楽室に入ると……。


 思念の欠片だらけだ。これでは道玄坂なら直ぐに取り付かれると思うのであった。


「道玄坂、大丈夫か?」


 案の定に思念の欠片に取り付かれていた。道玄坂は見かけないブレスレットをしていた。抜刀してブレスレットを切ろうと思ったが。


「ミヤビ、これ聖痕ではないか?」

「安心して、ただの思念の欠片よ」


 道玄坂は笑いながらほうきで襲ってくる。確かに思念の欠片だ。わたしはスパっと思念の欠片を切り。


 道玄坂を元に戻す。道玄坂になつかれてから面倒が増えた気がする。しかし、道玄坂が思念の欠片に敏感なら聖痕の探すのを手伝えるきがした。


 居ないよりましか……。



 道玄坂がどうしても見せたいモノがあると言って。体育館の奥の奥にある女子体操部の練習場に来ていた。道玄坂がわたしに竹刀を渡すと長刀を取り出す。


「エリカ、おけいこに付き合って」


 どうやら道玄坂は長刀が使えるらしい。わたしは竹刀を構えると道玄坂が切りかかってくる。速い、長刀の先が見えない。道玄坂は余裕である。流石、黒刀使いとしてわたしを苦しめただけの事はある。


 わたしは防戦一方である。


 えぇ、面倒くさい、わたしは道玄坂の間合いの中に入り。腹におもいっきり蹴りをいれるのであった。吹っ飛ぶ道玄坂は壁にぶつかり倒れ組む。


 あ……やり過ぎた。


 壁は壊れて穴まで開く始末であった。


「エリカのバカ、普通それしないでしょ」

「すまん……」


 ……うん?


 壁の穴の中に何かあるぞ。道玄坂は穴の中をあさり取り出すと古い長刀であった。この場所は男子禁制の女子体操部の練習の部屋。モノを隠すには丁度いいのか。


「これは聖痕の『鳥の舞』」


 ミヤビは真剣なおももちで呟く。偶然なのか道玄坂が見つけたのであった。


「おぉぉ、これでエリカの戦力になれるぞ」


 喜ぶ道玄坂に不安はあったが思わぬ形で聖痕を手に入れられた。


「これ、わたしが使う、名前は『王者の剣』にしよう」


 道玄坂は『鳥の舞』を取り出して掲げる。イヤ、長刀なのに剣って。ミヤビもヤレヤレと諦めている。


「勇者、道玄坂桜子は王者の剣を手に入れた!!!」


 だから、自分で言うな、ノリがレトロゲームだ。しかし、これは聖痕である王者の剣……ではなくて鳥の舞が道玄坂を選んだのかもしれない。

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